個人クリニックも例外ではない、事業継承問題
- 2023.06.21 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。
事業継承問題、という言葉を最近はよく耳にすることはありませんか?
事業継承は大手企業だけに留まらず、中小企業や個人商店に至るまで頭を抱える方が多いようです。
もちろん、個人クリニックも例外ではありません。
今回は、個人クリニックで起こりうる、事業継承問題、特に労務関係に焦点を当ててお話していきます。
目次
個人クリニックでの事業継承パターン
個人クリニックで事業を継承する場合、大きくパターンは2つに分かれています。
親族で引き継ぐか、それとも第三者に引き継ぐか、の2つです。
それぞれの場合について、詳細をお伝えしていきます。
親族間継承
個人クリニックの経営者は院長先生になります。
そのため、個人クリニックを引き継ぐ際にはその子どもや親族に当たる医師が、その病院を承継し、このことを親族間継承と言います。
次に、そのメリット、デメリットを解説します。
親族間継承のメリット、デメリット
親族間継承では、院長先生の子どもや親族に当たる医師は既にそのクリニックに勤務している場合も多く、そのクリニックにとって馴染みがある場合がほとんどです。
そのクリニックで勤務しているスタッフや、来院の患者さんにとっても馴染みがあるので、世代交代にも理解があり、トラブルが少ないことが多いようです。
ただし、専門分野が異なる医師が引き継いだ場合には、設備投資費用の発生や、馴染みのある患者さんであっても他のクリニックに紹介する必要が出てくるなどのケースもあるので注意が必要です。
届出や税金に関する注意点
事業継承に関して、注意をしなければならないことは後述しますが、その中でも特に親族間継承をした場合の届け出や税金についての注意点をお伝えします。
個人クリニックの場合、親族間の承継であっても、開設者や管理者が代わるため、現院長先生の「廃業」と新院長先生の「開業」の届け出が必要です。
また、それに伴う税務関係の届け出が必要な場合もありますので、忘れずに届け出をしましょう。
忘れていた場合は税制上の特典が受けられない場合もありますので、届け出期限内に申告するようにしましょう。
<各種届出>
現院長先生:廃業届
新院長先生:開業届
青色申告の承認申請書
青色専従者の届出書
給与支払事業所等の開設届出書
源泉所得税の納期特例届出書
棚卸資産の評価方法の届出書
減価償却資産の償却方法の届出書
なお、親族間継承をした場合、税務上融通が利く面において故意に税金を減らすことにつながる懸念があることから様々な制限があります。
特に子となる医師への承継は相続問題も発生しますし、クリニックの建物や使用している医療機器など資産に対する譲渡や貸付に対する値付けも注意しなければなりません。
第三者継承
第三者継承とは、院長先生の子どもや親族に当たらない医師が、そのクリニックを引き継ぐことを言います。
全く見ず知らずの医師が運営のトップになるため、それに伴う変化を受け入れられるかが大きなポイントになるといえます。
次に、そのメリット、デメリットを解説します。
第三者継承のメリット、デメリット
第三者継承では、引継ぐ医師の専門分野や財政面など、十分に納得のいく相手を選ぶことができることがメリットと言えます。
しかし、前述したように、全く見ず知らずの医師が運営のトップになることはそのクリニックにとって大きな変化をもたらします。
場合によってはスタッフや患者が離れていく可能性があることがデメリットになります。
個人クリニックを事業継承した時に起こりうる注意点、問題
いずれにしても、クリニックで事業継承を行った場合、変化が生じるということは間違いありません。
その変化がクリニックの経営にどう影響するのか、そこを見極める必要があると言えます。
次に、個人クリニックを事業継承した時に起こりうる注意点、問題を解説します。
届出や税金に関して
個人クリニックの場合、前述したように、現院長先生の「廃業届」、新しい院長先生の「開業届」が必要になります。
その他の届け出として、保健所や年金事務所(社会保険事務所)、公共職業安定所、労働基準監督署、税務署、都道府県、市町村などに所定の届出をしなければなりません。
特に 地方厚生(支)局の事務所等に提出する「保険医療機関指定申請書」は、提出タイミングに注意しなければ、開業して最初の1か月の保険診療が請求できず、入金が遅れてしまう可能性があります。
また、「施設認定」についてはさらに注意が必要ですので、こちらも気をつけましょう。
税金面に関して、青色申告の承認申請書の提出も必要であれば忘れずに申請しましょう。
顧客離れ
個人クリニックは経営者である院長先生の人柄、方針に大きく左右される場合があります。
院長先生の人柄で通っていた患者様や、そのクリニックの理念によって行動しているスタッフを見てご来院を決めた患者様もいらっしゃるとすれば、新しい院長先生に変更することによって生じるクリニックの変化に敏感になる可能性があります。
どんなに医療技術を向上させても、高価な医療機器を導入しても、患者様が離れてしまうリスクがあります。
スタッフ離れ
患者様と同じように、院長先生の人柄、方針、理念に共感し、これまで働いてきたスタッフもいるかもしれません。
同じように変化についていけないスタッフ、新しいクリニックに馴染めないスタッフが離れていく可能性も否定できません。
長年働いてくれたスタッフが離れていくことは労働力の減少に加え、そのクリニックの魅力を損なうリスクがあります。
個人クリニックで事業継承をした場合の労務管理問題
事業継承でクリニックを継承する場合、建物や医療機器などを引継ぎます。
そこで働くスタッフに関して原則雇用契約は引き継がれないものとなっています。
しかし、実態として引継ぎをする、というクリニックも多いようです。
個人クリニックを事業継承で事業継承し、スタッフも共に継承することにした場合、スタッフの労務問題も管理していかなければなりません。
しかし、リスクは未然に防ぐこともできるものです。
スタッフの離職
前述したように、事業継承で院長先生が交代した場合、スタッフの雇用契約は引継ぎされません。
継続雇用した場合でも、当初は働くと決めていたスタッフが理念や方向性の違いにより気持ちが離れてしまい、離職に繋がることもあります。
スタッフの雇用契約も引継ぎする場合は、そのスタッフ個々人と向き合って、双方納得できる形にしていくことは大切です。
スタッフのモチベーション向上には労働条件の整備や、労働環境を整えることで改善するケースもありますので、詳しくお聞きになりたい場合は、社会保険労務士法人中込労務管理へご相談ください。
労働条件の未整備
事業継承でクリニックを継承した場合、原則として、スタッフの雇用契約は継承されません。
新たに雇用契約を結ぶことになります。
労働関係諸法令には、細かな改正が頻繁に行われています。
それに合わせて就業規則を変更しなければならないケースもあり、就業規則の変更、それに伴うスタッフへの説明など整備を進める必要があります。
労働条件の変更
クリニックの経営者が変わり、そのスタッフの労働条件を変更するという方もいるかもしれません。
給与等が下がる場合や労働条件が悪くなる場合など、不利益変更に相当します。
不利益変更となる場合、スタッフが変更後の労働条件に同意していなければなりませんので、丁寧に説明をし、同意を得る必要があります。
労働条件の変更はよくも悪くもスタッフのモチベーションに繋がっていきます。
変更する場合は慎重に変更するように注意しましょう。
また、労働関係の諸法令には、細かいものも含めて改正されることが多くあります。
それに合わせて就業規則を変更しなければならないケースもありますので、ここも注意が必要です。
難しいと感じる場合や、やり方に悩みがある場合など、労務管理の専門家である社労士に相談することをお勧めします。社会保険労務士法人中込労務管理でもご相談にのっておりますので、お気軽にご相談ください
個人クリニックが事業継承する時に起こる労務問題への対策
個人クリニックが事業継承する時に起こる労務問題について解説しました。
それらを踏まえて、具体的にどのような対策ができるかをお伝えします。
①労務規程、就業規則等の作成や見直しを行う
まずは労務に関する規定の作成、見直しを行いましょう。
労働基準法やクリニックの経営方針に準じた規程であれば、将来のトラブル防止につながります。
また、就業規則には働くうえでのルールや労働条件をスタッフに明示することになるので、理解も深まり業務効率化にも繋がる役割をもたらします。
②人事制度、人事評価を整備する
スタッフのスキルやモチベーションをあげることは組織全体の活性化につながります。
人事制度や人事評価を整備することで、スタッフのスキルやモチベーションをあげることにつながりますので、ぜひ取り入れるといいでしょう。
労務問題はクリニックの運営にも関わってくる重要な問題です。
事業継承の前に、クリニック自体の理念や診療体制等が継承前に近い方がよいのか、あるいは変更しても問題ないのかを前院長先生と協議の上進めることをお勧めします。
まとめ:労務問題は専門家との連携が不可欠!
いかがでしたでしょうか?
個人クリニックの事業継承問題は想像以上に労力や変化を伴います。
それらはクリニック全体にも影響を及ぼしますので、継承時には慎重な対応を心掛けることをお勧めします。
今回解説しました個人クリニックの事業継承問題について、話を聞いてみたい、相談したいとお考えであれば、専門家である社労士との連携を視野にいれることをお勧めします。
もちろん、社会保険労務士法人中込労務管理でも労務管理に強い専門家が対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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