36協定はどう変わった?内容や届の変更点と企業が注意すべきこと
- 2022.01.17
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、働き方改革関連法によって新しくなった36協定について解説します。
労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に必須となる36協定ですが、協定の締結や届け出はおすみでしょうか。まだおすみでない場合や、新しい36協定の内容をくわしく知りたい場合は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
36協定とは?
36協定は「さぶろく協定」と読みます。労働基準法第36条が根拠となっていることから、このように呼ばれるようになりました。
まず36協定とはどんなものなのか、どんなときに必要なのかについて解説いたします。
36協定が必要な場合は?
36協定は、以下のような場合に必要です。
・法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合
・休日労働をさせる場合
36協定は「時間外・休日労働に関する協定」のこと。つまり、この協定を締結していないと、労働者に時間外労働や休日労働をさせることができません。
労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合には、あらかじめ企業と労働者の代表が36協定を締結し、その協定届を所轄の労働基準監督署へ届け出ておく必要があるのです。
もちろん、36協定を締結しているからといって、労働者にいくらでも時間外労働を要求してよいというわけではありません。働き方改革関連法によって新しくなった36協定では、時間外労働の上限が厳しく規制されています。
時間外労働の上限規制については、のちほどくわしく紹介します。
36協定はどのような企業が作るべき?
結論から言うと、36協定は労働者を雇用しているすべての企業で作るべきでしょう。
労働者に時間外労働や休日労働をさせるときには36協定が必須である、ということはさきほども紹介しました。1分程度でも、法定の労働時間を超えてしまうと残業扱いになります。また、それが一人だけだから大丈夫、という問題でもありません。
もしも36協定を締結せずに、時間外労働や休日労働をさせた場合は、労働基準法違反となってしまいます。不必要なリスクを避けるためにも、労働者を雇用している企業は36協定を作っておくとよいでしょう。
働き方改革関連法で36協定が変わった!
働き方改革関連法が2019年4月から順次施行され、これにより36協定にも変更事項があります。ここからは、36協定が新しくなって変わったポイントについてお伝えします。
新36協定になって変わったこと
36協定が新しくなり、以下の2点について大きく変わりました。
・36協定で定める時間外労働に上限が設定された
・【特別条項を定めた場合】具体的な措置の設定が必要になった
それぞれについて解説します。
36協定で定める時間外労働に上限が設定された
36協定が新しくなり、定められる時間外労働に上限が設けられました。
時間外労働の上限に関する規定は以下のようになっています。
【原則】
・時間外労働は原則月45時間・年360時間以内
【特別条項あり】
・時間外労働:年720時間以内
・時間外労働+休日労働:月100時間未満・2~6か月のどの期間をとっても月平均が80時間以内
・月45時間を超える時間外労働は年6回以内
参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
今までの36協定でも限度基準告示による時間外労働の上限は定められていました。しかし特別条項を設定することで、上限を超えて時間外労働を要請することが可能となっていました。
今回の改正では、法律による上限を設定。時間外労働の上限について、より厳しく規制されることになったのです。
違反すると罰則の対象となる
今回の改正では、法律による時間外労働の上限が設定されたため、労働者に上限以上の時間外労働をさせると罰則が科されます。
罰則は以下のような内容です。
・6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
・企業名が公表される可能性がある
企業名が公表されてしまうと、企業の取引に影響したりイメージに傷がついたりする可能性もあるでしょう。
また、罰則の対象となるのは企業だけではありません。実際、大手企業の工場長や労務管理担当の幹部が書類送検されたこともあります。労務管理を担当する責任者も罰則対象者となり得ることを知っておきましょう。
時間外労働上限規制の適用が猶予・除外となる業種
今回の改正では、業種によって、時間外労働上限規制の適用が猶予される場合や適用されないケースもあります。
時間外労働上限規制の適用が猶予される業種は
・建設関連の業種(土木・建築など)
・自動車運転が必要な業種(トラック・タクシー・バスなどの運転手)
・医師
・研究開発
・鹿児島県・沖縄県における砂糖製造の事業
の5つです。これらの業種は、2024年3月31日まで時間外労働の上限規制の適用が猶予されます。
猶予期間終了後の対応については、業種によってさまざまです。
自動車運転が必要な業種では、年960時間が上限となりますし、鹿児島県・沖縄県における砂糖製造の事業では、一般的な上限規制が適用されることになります。医師についてはまだ決定しておらず、今後省令で定められることになっています。
時間外労働の上限規制の適用が除外されるのは、「高度プロフェッショナル制度」の対象労働者です。
高度プロフェッショナル制度とは、年収1,075万円以上という要件を満たし、かつ高度な専門知識をもつ労働者に関しては、労働時間にもとづく制限を撤廃するという制度。働き方改革関連法によって新しく作られた制度です。
高度プロフェッショナル制度の対象業務には、アナリストやコンサルタント、公認会計士、弁護士など19の業種が指定されています。高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、労働基準法の適用外と定められているため、時間外労働の上限規制の適用が除外されます。
【特別条項を定めた場合】具体的な措置の設定が必要になった
働き方改革関連法により、特別条項を定めた場合に、具体的な措置を設定することが必要となりました。
特別条項とは、臨時的な事情がある場合に、通常の時間外労働の上限を超える労働を、労働者に要請できることを意味します。今まではあいまいな部分が多かった特別条項ですが、新しい36協定ではより具体的かつ明確に定めておく必要があるのです。
たとえば、臨時的な対応が必要となる事情として、「業務の都合上必要な場合」といった具体性に欠ける内容ではなく、「機械トラブルが生じた場合」や「突発的な仕様変更に対応する場合」など具体的な内容を明らかにする必要があります。
また、労働者の健康確保措置に関しても、「7日以上連続して出勤した場合は特別休暇を付与する」「時間外労働が月80時間を超えた場合は医師との面談を行う」といった具体的な記述が必要です。
36協定はいつから変わった?
36協定の変更時期は企業によって異なっており、大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から適用が開始されています。
先ほど紹介した一部の業種では、時間外労働の上限適用が猶予されているものの、現在多くの業種で新しい体制の36協定が適用されています。
【2021年4月1日から】36協定届が新様式に変わった!
36協定の変更を受け、労働基準監督署へ届け出る36協定届も新様式に変わりました。36協定届が新様式に変わったのは、2021年4月1日からです。
今後届け出を行う場合はすべて新様式での届け出となりますので、新しい様式についてしっかりと理解しておきましょう。
36協定届が新様式になって変わったこと
36協定届の様式が新しくなり、以下の3点が変わりました。
・使用者の押印・署名が不要になった
・協定を結ぶ労働者代表に関するチェックボックスが新設された
・電子申請の利用で36協定の本社一括届出が可能になった
それぞれの内容をお伝えします。
使用者の押印・署名が不要になった
新型コロナウイルス感染症の流行を受け、感染予防の観点から、行政手続きにおける押印の必要性が見直されています。36協定届においても見直しが行われ、新様式からは押印・署名が不要になりました。
ただし、36協定届が協定書も兼ねている場合には、労働者代表と企業の署名または記名押印が必要です。労使間で協定内容についての合意がなされたことを明らかにするためですので、36協定届と協定書を兼用する場合は間違えないようにしましょう。
協定を結ぶ労働者代表に関するチェックボックスが新設された
36協定を正しく締結するために、労働者代表が一般的な労働者と同じ立場にいる人かどうかを確認するチェックボックスが設けられました。
労働者代表が、経営側の立場でないことや使用者による指名で選ばれた人物でないことなどをチェックします。
これらの要件を満たさない場合は、協定自体が無効となってしまいます。また要件を満たしている場合でも、36協定届のチェックボックスに記入がない場合は、届けを受理してもらえません。記入漏れがないよう気を付けましょう。
電子申請の利用で36協定の本社一括届出が可能になった
今までは、原則事業所ごとに協定を締結し届け出を行うことが必要でした。今回の改正を受け、2021年3月末からはe-Gov(イーガブ)という電子申請を利用することで、本社一括届け出が可能となりました。
とはいえ、36協定の締結は、今までと同様それぞれの事業所で行う必要があります。正しく理解しておきましょう。
e-Govでは2021年4月からは電子署名や電子証明書の添付も不要になりました。より手続きが簡略化されていますので、ぜひ電子申請の利用も検討しましょう。電子申請の方法については、のちほどお伝えします。
36協定届の新様式7種類とその用途
36協定届の新様式には、以下の7種類があります。用途別に使う様式が異なります。自社はどの様式を使えばよいのか、あらかじめ確認しておきましょう。
様式 |
用途 |
様式第9号 |
【特別条項なしの一般条項】時間外労働・休日労働をさせるための届け |
様式第9号の2 |
【特別条項付き】限度時間を超える時間外労働・休日労働をさせるための届け |
様式第9号の3 |
【新技術・新商品等の研究開発業務に携わる労働者用】時間外労働・休日労働に関する協定届 |
様式第9号の4 |
【適用猶予事業・業務に携わる労働者用】時間外労働・休日労働に関する協定届 |
様式第9号の5 |
【適用猶予期間中】適用猶予事業・業務において、事業場外労働のみなし労働時間に係る協定の内容を36協定に付記して届出する場合 |
様式第9号の6 |
【適用猶予期間中】時間外労働・休日労働に関する労使委員会の決議届 |
様式第9号の7 |
【適用猶予期間中】時間外労働・休日労働に関する労働時間等設定改善委員会の決議届 |
参考:時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|厚生労働省東京労働局
これらの新様式は、厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーや、厚生労働省東京労働局のサイト内から入手できます。
36協定届の作成方法
36協定届を作成する段階になって「書き方がわからない……」と悩んでいませんか?
そんなときには厚生労働省が公開している作成支援ツールが便利です。こちらのツールを使うと、労働基準監督署に届け出る必要がある4種類の書面を作成できます。
作成できる書面は以下の通りです。
・時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)
・1年単位の変形労働時間制に関する書面(協定届・労使協定書・労働日等を定めたカレンダー)
ユーザー登録を行うとデータの保存が可能なので、今後書き換える必要が出てきた場合でも簡単に行えるでしょう。
とはいえ36協定や届の作成には、難しいところもたくさんあります。社会保険労務士法人中込労務管理では、それぞれの企業に合う内容をご提案させていただいておりますので、ぜひご相談ください。
36協定届の電子申請を行う方法
e-Govによる電子申請方法を紹介します。
1.e-Govの「電子申請」をクリック
出典:トップ | e-Govポータル
2.「利用準備へ」もしくは「e-Govを初めてお使いの方はこちら」をクリックし、アカウントの取得を行う
出典:トップ | e-Gov電子申請
3.アプリをインストールする
4.「マイページ」にアクセスする
5.「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」の電子申請を行う
「e-Govを初めてお使いの方はこちら」をクリックすると以下のような画面が表れます。
引用元:e-Govを初めてお使いの方へ | e-Gov電子申請
e-Govの使い方や電子申請の流れなどがわかりやすくまとめられているので、まずはこのページを確認してから作業を行うとスムーズに行えるでしょう。
現在はこのようにネット上で作成から届け出まで行えますが、実際には以下のようなお悩みをもつ経営者の方も多くいらっしゃいます。
・現場にあった36協定を作りたいので、専門家に相談したい
・作成した内容で問題ないか、事前に見てほしい
このように考えていらっしゃる方は、ぜひ専門家にご相談ください。
新36協定で労務担当者が気を付けること
36協定が新しくなったことで、労務担当者は以下のようなことに気を付ける必要があります。
・時間外労働の上限規制に注意する
・健康確保措置を取り決める
・勤怠管理を徹底する
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
時間外労働の上限規制に注意する
新たに36協定を締結する際、時間外労働の上限規制にはとくに注意が必要です。新しくなった36協定では、特別条項付きで届け出を行った場合でも、時間外労働の上限が課されています。
違反すれば罰則があるほど厳しくなっていますので、時間外労働が上限を超えないように細心の注意を払う必要があるでしょう。
健康確保措置を取り決める
特別条項付きで届け出を行う場合には、健康確保措置を設定しなければなりません。月に45時間を超える時間外労働をさせるときには、具体的な健康措置を行うことが企業に義務付けられています。
月の時間外労働が45時間以上となると、脳や心臓の病気の発症リスクが高まる恐れがありますので、労働者の健康を守るためにもしっかりと検討する必要があるでしょう。
健康確保措置としては、
・医師との面談
・特別休暇の取得
・休息時間の確保
といったものがあります。
36協定届を届け出る段階で健康確保措置を設定しておくと、いざというときに対応しやすくなります。自社にとって取り組みやすく、労働者にとって効果が高いと考えられるものを健康確保措置として設定しましょう。
勤怠管理を徹底する
時間外労働の上限規制が厳しい新36協定に対応するためには、今まで以上に勤怠管理を正しく行う必要があります。働き方が多様化すると勤怠管理が複雑になりやすいので、労働者の雇用形態に応じた勤怠管理が大切です。
勤怠管理を行う際は、タイムカードやパソコンの使用時間などで記録を取るなど、客観的に把握できるように努めましょう。また、日々の残業時間がどの程度なのか確認できるような、勤怠管理システムの導入も併せて検討しましょう。
まとめ
新しい36協定によって、時間外労働の上限が厳しくなりました。企業には、改正された法律に合う36協定の作成や、時間外労働の上限を守るための対応が必要です。
今回解説しました36協定について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、労務管理に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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