マタハラ防止のために企業ができること|マタハラ相談後の対応も解説
- 2022.10.02 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は「マタハラ防止のために企業ができること」をテーマにお話しします。
マタハラは、労働者が仕事をする際の妨げになるだけでなく、人権にもかかわる重大な行為です。企業にとっても、職場の秩序が乱れて業務に支障が出る恐れがあり、貴重な人材の損失にもつながりかねません。
このような事態を防ぐためには、マタハラを未然に防止する対策が必要です。本稿では、マタハラ防止のためにどのような対策を講じればよいのかをお伝えします。
目次
マタハラとは「妊娠や出産などを理由に不当な扱いを受けること」
マタハラ防止策を考える前に、マタハラの定義や実態について解説します。マタハラについての理解を深めることで、防止のための対策を立てることができます。
マタハラの定義
マタハラは「マタニティハラスメント」の略語です。マタニティは「母であること・妊娠中の・妊産婦の」、ハラスメントは「人を困らせること・嫌がらせ」を意味しています。
つまり、マタハラとは「妊娠や出産、育児などを理由に、嫌がらせのような不当な扱いを受けること」です。
では、「不当な扱い」とはどのようなものでしょうか。具体的には以下のことが該当します。
・解雇
・雇止め
・退職勧告
・契約内容変更の強要
・本人が望まない配置変更
・降格
・減給
・賞与における不利益な査定
マタハラの実態
ここからは厚生労働省が発表しているデータを参考に、マタハラの実態をみていきましょう。マタハラのきっかけや内容などを表にまとめて紹介します。
日本労働組合総連合会が行ったアンケートによると、マタハラを受けた経験があるのは4人に1人の割合です。これだけマタハラが起こっていても、被害者が声を上げるケースは少ないと言われています。
その理由として、精神的・肉体的に負担が大きすぎることが考えられます。
妊娠や出産、育児をしている時期は、ただでさえ大きなストレスを抱えている時期です。このような時期に、不当な扱いについて会社と交渉することは、あらゆる面において非常に大きな負担がかかります。
特に派遣労働者の場合は、「会社と交渉することで立場が悪くなるくらいなら、我慢したほうがよい……」と泣き寝入りしてしまうケースも多いようです。
マタハラが起こる理由
では、なぜそのような不当な扱いが蔓延しているのでしょうか。
前出の日本労働組合総連合会が行ったアンケートでは、「職場でマタハラが起こる原因が何だと思うか」を調査しています。その結果、最多だったのが「男性社員の妊娠・出産への理解不足・協力不足」でした。
そのほかには、「フォローする周囲の社員への会社の評価制度整備や人員増員などのケア不足」「社員同士のコミュニケーション・配慮不足、お互い様の精神」などが挙げられました。
妊娠・出産・育児と仕事を両立させるためには、周囲の労働者や会社が正しく理解しフォローすることが必須です。労働者同士のコミュニケーションや周囲の労働者へのフォロー体制が不足していると、マタハラが起こりやすくなるのかもしれません。
マタハラは違法!法律ではどのように定められている?
マタハラは法律に違反する行為です。ハラスメントや労働などに関する複数の法律で、マタハラを禁止する内容が定められています。
労働基準法や男女雇用機会均等法には、労働者が妊娠した場合、企業は十分にサポートをしなければならない旨が記載されています。また、育児介護休業法や男女雇用機会均等法には、妊娠や出産、育児などを理由に不当な扱いをしてはいけないと定められています。
このように、マタハラの違法性は複数の法律を根拠に明言できます。
マタハラの裁判例
ここからはマタハラの裁判例を紹介します。マタハラが認知されてからまだ日が浅いため、裁判例はそれほど多くありません。しかし、今後マタハラ訴訟が増えてくるかもしれません。
実際の裁判例をご紹介します。
妊娠による降格を原則禁止した裁判例(広島中央保健生活協同組合事件:最高裁平成26年10月23日判決)
これは、マタハラが注目されるきっかけになった裁判です。
理学療法士として働いていた女性が、身体的な負担軽減のため軽めの業務へ変更を希望しましたが、その際、降格扱いとなりました。病院側の説明に女性はしぶしぶ承諾したものの、育児休業から復帰後も、元の地位に戻してもらえませんでした。
女性は降格の不当性を訴えましたが、広島高等裁判所は適法と判断。その後、最高裁判所で降格が不当であると認められました。
この裁判は、労働者が降格について同意していたとしても、マタハラに該当することがあると判断された例です。マタハラによるトラブルを防ぐためには、妊娠や出産などをきっかけとする降格はしないのが無難です。
H3:産休取得による賞与不支給を違法とした裁判例(東朋学園事件:最高裁判所平成15年12月4日判決)
訴えを起こした女性が働く会社の就業規則では、賞与の支給要件が「賞与の支給対象期間中の出勤率が90%以上であること」と定められていました。この女性は産後休業を取得し、その後、時短勤務をしていました。賞与支給に際し、働いていない時間が欠勤として扱われたため、出勤率が90%未満となり賞与の支給を受けられませんでした。
裁判所は、就業規則に定められた「賞与支給要件:出勤率90%」の制度は、出産や育児をしながら働く女性に、育児休暇などの制度の利用を控えようと思わせるものであり、労働基準法の趣旨に反すると判断。このケースでの賞与不支給を違法としました。
この裁判例のように、企業の就業規則が間接的にマタハラにつながることもあります。思いがけないところでトラブルになることがありますので、就業規則を作るときにはあらゆる面からその合法性を検討する必要があります。
社会保険労務士法人中込労務管理では、就業規則に関するご相談もお受けしております。自社の就業規則に不安を感じている方は、ぜひご相談ください。
マタハラ防止のために企業が知っておくべきこと
マタハラの対象者は女性だけだと思っている方はいないでしょうか?
女性労働者だけでなく、育児休業などの制度を利用したい男性労働者もハラスメントの対象になります。マタハラと聞くと女性労働者だけの問題であると考えがちですので、今一度確認しておきましょう。
その点を踏まえ、ここではマタハラ防止のために知っておくべき3つのことを紹介します。
・制度の利用を阻害してはいけない
・不当な扱いをしてはいけない
・労働者の状況に配慮しなければいけない
それぞれの内容をくわしく解説します。
制度の利用を阻害してはいけない
育児休業や時短勤務などの制度を利用したいと相談された場合、それを阻害してはいけません。以下のように、制度の利用を阻害するような言動はマタハラに該当します。
・上司に育児休業の利用を請求したが「育児休業は認められない」と言われた
・男性労働者が同僚に育児休業の取得を相談した際、「男が育児休業をとるなんてあり得ない。取得すべきでない」と繰り返し言われた
厳密に言うと、不当な言動をする人によって、マタハラにあたるかどうかの判断基準が異なります。
とはいえ、どのような立場であっても、制度の利用を阻害するような言動は適切ではありません。企業全体で正しい意識をもつことが大切です。
不当な扱いをしてはいけない
どのような立場の人も、妊娠や出産、育児などを理由に不当な扱いをしてはいけません。たとえば以下のような言動はマタハラに該当します。
・育児休業の取得を上司に相談したら、「休みをとるくらいなら辞めてもらう」と言われた
・時短勤務をしている人に向かって「周りの負担を考えていない。迷惑!」などと繰り返しかつ継続的に言われた
・「時短勤務の人には必要ない」などと言って、仕事上の情報を共有してもらえなかった
解雇や雇止めを示唆するような言動は、たとえ1回であってもマタハラに該当します。雑務だけを与える、仕事上必要な情報を与えないといった行為や嫌がらせのような言動は、繰り返しかつ継続的な場合にマタハラと判断されます。
しかし、大切なのはマタハラと判断されるかどうかではありません。普段からこのような行為を良しとしない風土作りが必要です。
労働者の状況に配慮しなければいけない
育児・介護休業法には、勤務時間や配置変更などにおいて、企業は労働者の状況に配慮しなければならないといった旨が明記されています。具体的には、以下のような対応が必要です。
・時短勤務を認める
・定期健診のための欠勤を認める
・従業員本人から希望があった場合、身体的な負担が軽い業務への配置変更に応じる
法律では、労働者が妊娠したことで業務に支障が出たとしても、労働者に不利益を与えてはいけないと考えられています。これはマタハラ防止のための根本となる考え方ですので、しっかりと頭に入れておきましょう。
マタハラを防ぐために企業がすべきこと
現在、企業には、厚生労働省から公布された指針に従い、マタハラ防止対策を講じることが義務付けられています。
では、具体的にどのような取組みを行えばよいのでしょうか。ここでは、マタハラを防ぐために企業がすべきことは以下の3点です。
・マタハラ禁止の周知・啓発
・マタハラの相談に耳を傾ける体制作り
・周囲の労働者への配慮
ひとつずつみていきます。
マタハラ禁止の周知・啓発
マタハラを防ぐには、全労働者にマタハラを正しく理解してもらうことが大切です。どのようなことがマタハラに該当するのか、どのようなタイミングで起きやすいのかなどを具体的に伝え、マタハラは禁止すべき行為であることを周知させます。
マタハラを理解するために、eラーニングを活用したり社員研修を実施したりしている企業もあるようです。周囲の労働者が正しい知識をもつことで、企業が、妊娠や出産、育児をする労働者をサポートしやすい体制ができます。
また、妊娠や出産、育児をする労働者が、今後どのようなキャリアを希望しているのかをヒアリングしたり、キャリアのためにサポートしたりするのも、マタハラ防止に効果的です。
企業が一丸となって、妊娠や出産、育児をする人を支える体制を作ることで、多くの人が働きやすく、どのような人でも個人として尊重される企業風土を作れるかもしれません。
そうなれば、マタハラだけでなく、セクハラやパワハラといった様々なハラスメントを防ぐことにつながります。
マタハラの相談に耳を傾ける体制作り
マタハラによるトラブルを防ぐには、被害者が安心して相談できる仕組みが必要です。厚生労働省の指針でも相談窓口の設置を求めています。
ハラスメントを受けている人にとって、自分から声を上げることは難しいものです。そのため、周囲の気づきや本人から発せられるサインを拾い上げ、被害を受けている労働者の声に耳を傾ける相談窓口は大きな役割を果たします。
相談窓口がきちんと機能すれば、マタハラを防ぎやすくなるだけでなく、トラブルが大きくなる前に解決することもできます。
現場の労働者の声を大切にしている、柔軟に取り組む意思があるなど、企業の姿勢を示すことは、マタハラをはじめとするハラスメントの防止になります。
周囲の労働者への配慮
マタハラを防ぐには、妊娠や出産などに関する制度を利用する人の周囲にいる労働者への配慮が欠かせません。
なぜなら、妊娠や出産、育児などをする人が制度を利用すると、どうしても周囲の労働者への負担が大きくなってしまうからです。プラスでこなした業務を適切に評価してもらえないと、不満がたまり、マタハラが起きてしまうこともあるかもしれません。
また、妊娠の場合、産前産後休業や育児休業などを取得するタイミングの見当をつけられます。その労働者が抜ける分の業務について早めに調整・検討しておくことで、周囲の労働者への負担も和らげることができます。
妊娠や出産、育児などをする労働者についてだけでなく、周囲の労働者へも配慮することで、企業としてのサポート体制が構築できます。結果的に、マタハラの防止につながります。
労働者からマタハラを相談された!企業がすべき対応とは
対策を講じていても、マタハラがゼロになるとは言えません。相談窓口で労働者からマタハラを相談された場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
厚生労働省の指針に則って、対応策をお伝えします。
徹底したヒアリングで事実関係を確認する
労働者からマタハラを相談されたら、十分にヒアリングを行い、事実関係を徹底的に確認します。相談者からだけでなく、マタハラをしたとされる人からも話を聞きます。
もし両者の話が食い違うようなら、そのほかの労働者にも協力してもらいながら事実関係を明らかにします。
注意点
マタハラを相談された場合、企業は以下のような点に注意する必要があります。
・相談者のプライバシーを保護すること
・相談者の不利益にならないよう配慮すること
相談者のプライバシーを保護する
マタハラの相談を受けた場合は、相談者のプライバシーをしっかりと保護することが大切です。相談者の情報や相談内容が外部に漏れるようでは、心の内を安心して打ち明けられません。
相談窓口の担当者には、プライバシー保護について徹底した教育を行いましょう。マニュアルを整備し、プライバシー保護の方法や考え方、禁止行為などを具体的に示すのもひとつの方法です。
相談者の不利益にならないよう配慮する
相談したことをきっかけに、周囲の労働者から不当な扱いをされることがあるかもしれません。相談者の不利益にならないよう、しっかりと配慮しましょう。また、目撃情報を提供した労働者に対しても同様です。相談後の本人や周囲の様子に変化がないか気を配る必要があります。
それと同時に、マタハラを相談したり目撃証言をしたりしたことにより、不利益を受けるべきではないことを社内に周知させることも大切です。
まとめ
マタハラは違法な行為です。妊娠や出産、育児を理由に労働者が不当な扱いを受けないよう、企業は対策を講じなければいけません。
本稿ではマタハラ防止の考え方や対策についてもお伝えしましたが、通常業務のかたわら、このような対策を行うことは難しいと不安を感じられる方もいらっしゃると思います。
「マタハラ防止対策」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、ハラスメントに強い専門家が対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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