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IPO準備中に欠かせない労務監査とは?労務リスクも徹底解説!

2023.04.26 お知らせ・セミナー情報コラム

グラフ・表のイラスト

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、労務監査と、IPO(株式上場)準備中のリスクについて解説します。

IPO準備中の企業にとって、内部の管理体制をしっかりと整えることは大変重要です。近年のIPO審査では、人事労務分野についてのコンプライアンスがとても厳しくなっているので、記事を参考にしながら着実に準備を進めましょう。

労務監査とは?

労務監査とは、企業の人事労務管理について、労働諸法令を守って適切に整備されているか調査することです。

具体的には、人事制度や就業規則の整備状況、給与・賃金体系、社会保険・労働保険の適用状況、労働時間・休暇制度の運用状況、安全衛生対策の実施状況などについて調査し、問題点を洗い出します。その結果をもとに、問題点の解決策を提案し、適正な人事労務管理をするためのアドバイスを行います。

企業の人事労務管理に関する問題点を早期に発見し、改善することで、企業の経営安定化や社会的責任の達成などにつながります。

IPO(上場)準備に労務監査が必要な理由

ビルのイラストとそれを虫眼鏡で見るスーツ姿の男性

IPO(株式上場)準備にあたり、労務監査を行うことは義務ではありません。しかし近年では、企業の労働状況が見直されており、IPOでも主幹事証券会社から社会保険労務士などの専門家による労務監査を受けるよう言われるケースが増えています。

IPOの審査は厳しいもの。IPO時に法令違反を指摘されると審査に通らず、上場できません。例えば、就業規則の整備不足による法令違反や、適切な賃金制度の導入がなされていないことによる人材流出、労働時間の管理不十分による労働基準法違反などが問題となることがあります。

そのため、IPOを目指す企業にとっては、労務監査を通じて人事労務管理に関する問題点を洗い出し、改善策を実行することが重要。労務監査によって問題点が早期に発見され、改善されることで、IPO成功に向けた企業価値の向上が期待できます。また、IPOにおいては、従業員に与える影響も大きいため、従業員からの信頼獲得にもつながります。労務監査を通じて人事労務管理の改善に取り組むことが、IPO成功につなげる重要な要素となるのです。

労務監査サービスバナー

IPO準備企業が気を付けるべき労務リスク

IPO準備企業が気を付けたいリスクと、そのリスクを予防・改善するために取り組むべきことについて解説します。

①未払い残業代問題

コインのイラスト

IPO準備企業が気を付けるべき労務リスクの中で最も重要かつ深刻なのが、未払い残業代の問題です。未払い残業代が発生する原因には、以下のようなものがあります。
・労働時間が適切に管理されていない
・割増賃金の計算が間違っている
・名ばかり管理職を配置している
(管理監督者の要件を満たしていないのに管理職扱いされ、残業代が払われない)
・歩合給制(出来高払制)で時間外労働分の割増賃金を支払っていない

もし未払い残業代があった場合、従業員数に比例して金額が大きくなり、数千万円〜から数億円規模に至る場合もあります。未払い残業代が発覚するとIPO審査ももちろん停止となりますので、早い段階でクリアにしておきたい問題です。
未払い残業代の発生を防ぐために取り組むべきことは、以下の通りです。

(1)労働時間の適正な管理

労働時間が適切に管理されていないために未払い残業代が発生するケースには、以下のようなパターンがあります。
・そもそもタイムカードや勤怠システムなどによる労働時間管理をしていない
・勤怠管理を行っているが、一定時刻に強制的に打刻させるなど記録と実労働時間に乖離がある
・労働基準法では分単位での賃金支払いが定められているが、15分単位や30分単位で労働時間を切り捨てている

労働時間を適切に管理するためには、タイムカードだけでなく、パソコンの使用履歴や勤怠管理システム、入退室記録などと照らし合わせて判断することが一般的となっています。タイムカードと実労働時間に乖離がある場合には本人にヒアリングが行われる場合もあります。

(2)割増賃金を正確に計算できる体制を整える

賃金計算の実務を担当する従業員も、間違いに気付いていないうちに、未払い賃金が発生していることがあります。例えば、以下のようなケースです。
・基本給だけで残業代を計算している
・残業単価を定額で計算しているため割増賃金を下回っている
・割増賃金率が法定率を下回っている
・年俸制を採用しており残業代が不要と誤認している
・残業単価を計算するための分母となる所定労働時間が正しくない
・テレワークやリモートワークでの残業が割増賃金計算に含まれていない

社内の実務担当者と以上の内容を中心に確認し、今一度正確な割増賃金が計算されているか確認することが大切です。もし正確に計算されていなかった場合には、今後ミスが起きないような環境づくりに努めましょう。

(3)管理監督者の定義を明確にする

管理監督者は、1日の労働時間が8時間を超える場合であっても、労働基準法の規定の対象外となり、割増賃金が支給されません。管理監督者の定義に当てはまらないにも関わらず残業代を支払われていない、いわゆる「名ばかり管理職」がいる場合、未払い残業代が発生することになるのです。

管理監督者とは、労働基準法において指定されている従業員のうち、経営者と一体的な立場にあり、他の従業員の指揮監督を行う立場にある者を指します。具体的には以下の3つの要素を満たさなければなりません
*権限・職務:経営会議に参加して意見を言うことができ、業務上の判断や指示命令の権限を持つ。
*労働時間:会社の拘束の限りではなく、本人の裁量で時間管理が任されている。
*処遇:職務の重要性に見合う役職手当など、一般従業員と比べて相応の待遇がなされている。

IPO審査では、「会社が定義している管理監督者」の状況についての質問も行われますので、明確に回答できるよう定義を明らかにしておきましょう。

(4)歩合給制を採用している場合でも割増賃金を支払う

歩合給制を導入している場合には、残業代を支払わなくても良いという間違った認識を持っている企業も少なくありません。歩合給制でも、時間外労働が発生した場合には割増賃金の対象となりますので、改めて確認しておきましょう。計算方法は、「しっかりマスター割増賃金編|東京労働局」の6ページをご参照ください。

②過重労働(長時間労働)問題

時計のイラスト

過重労働(長時間労働)問題は、重点的に審査されるポイントです。過重労働(長時間労働)は、時間外労働や休日労働の時間が、2ヶ月〜6ヶ月間の平均で月80時間を超えることを言います。月の平均で80時間を下回っていても、1ヶ月で100時間を超えると過重労働(長時間労働)に当てはまります。

過重労働(長時間労働)を防ぐための取り組みは、IPO審査でよく聞かれる項目です。具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

(1)労働時間の正確な計測と管理

過重労働(長時間労働)の実情を見える化するために、従業員の労働時間を正確に把握することが大切。従業員の労働時間を正確に把握できていない企業は、出勤と退勤、休憩時間などを記録するシステムの導入を検討しましょう。過重労働(長時間労働)の傾向がある従業員に対しては、定期的な声かけや面談などでコミュニケーションをとることも必要です。

(2)業務負担の見直し

従業員の業務負担の高さが、過重労働(長時間労働)の原因になっている場合があります。そのため、部署やチームで従業員各々の業務負担を把握し、適切な業務量に調整することが大切です。全体の業務量が多すぎて分担しきれない場合には、業務の優先順位を検討する、業務を簡易化するなどの工夫も必要です。

(3)休暇制度の整備

従業員が適切に休暇を取得できる環境を整えることが、過重労働(長時間労働)の予防につながります。法定の有給休暇や慶長休暇はもちろん、リフレッシュ休暇制度などの導入も検討してみましょう。

(4)従業員の意識改革

過重労働(長時間労働)を防止するには、従業員の意識改革も非常に重要です。「残業が当たり前」という考えを改めて、効率的かつ生産的な働き方を考えるカルチャーを少しずつ育んでいきましょう。過重労働(長時間労働)による健康被害や生産性低下のリスクなどを従業員に周知して、労働時間を削減するよう協力を促すことも大切です。

③ハラスメント問題

メガホンを持って語りかける男性のイラスト

これまでハラスメント問題は個人の問題とされる傾向にありましたが、近年では法の整備が進んだこともあり、企業側の責任を問われるようになってきました。2015年からは年に1回のストレスチェックが義務化され、2020年にはパワハラ防止措置が義務付けられました。パワハラ防止措置によって、企業の相談窓口の設置や、パワハラ防止の体制づくりが必須とされています。

(1)メンタルヘルス対応マニュアルの作成


まずは社内規定として、メンタルヘルス対応マニュアルを作成しましょう。パワハラに対する定義を設けることで、パワハラに対する企業の姿勢を明らかにできます。一定のルールを定めておけば、実際パワハラが起きてしまった際にも迅速な対応につながるでしょう。パワハラとはどのような行為のことを指すのか、またパワハラが起きた時に加害側の従業員にどのような罰則を与えるのかなどを具体的に記載しておきましょう。

(2)実態を把握する

パワハラを予防するには、社内のパワハラに関する実態を把握することが大切です。アンケートなどを用いて調査しましょう。実際にパワハラが起きているのか、今後起きる可能性はないか確認することができます。アンケートには以下のような質問事項を盛り込むのが良いでしょう。
・パワハラについて現時点でどれくらい理解しているか
・上司との関係は良好か
・これまでパワハラを受けた経験があるか
・これまでパワハラを目撃したことはあるか
・パワハラについて従業員から相談されたことがあるか
・パワハラをしてしまったと自覚する出来事はあるか
・今後パワハラに発展しそうな状況はあるか
・会社のパワハラに関する取り組みや予防は十分か
・会社のパワハラに関する取り組みや予防の改善点、要望はあるか

(3)従業員への周知・教育

パワハラに関する社内ルールを従業員に周知したり、教育したりすることも非常に重要です。特にマネジメント層には、傾聴スキルをはじめとする人間関係構築に関わるスキルを教育しましょう。部下のミスに対して責めるのではなく、話を聞きながら原因を洗い出し、改善方法を一緒に考える一連のマネジメント手法の取得も有効です。

マネジメント層以外には、パワハラに関する知識や上司からの適切な指導について周知することが大切。パワハラを受けた際に訴えやすくする環境を整えることで、従業員からSOSを発しやすくなります。

④従業員の健康管理問題

従業員の健康管理問題も、審査で重要なポイントとなります。企業が抱える問題として、従業員がメンタルヘルス不全を起こしてしまう例が挙げられます。うつ病などの心の病は目に見えず、対策が遅れることによって大事に至ってしまうケースも。取り返しのつかない状況になる前に対策を行うことが重要です。

(1)健康診断の実施


企業は、労働基準法により健康診断を年に1回以上実施することが義務付けられています。健康診断を通じて従業員の健康状態を把握し、早期発見・早期対応につなげましょう。

(2)ストレスチェックの実施

企業は労働安全衛生法によって、ストレスチェックの実施が義務付けられています。ストレスチェックの定期的な実施が、ストレスによる健康被害の防止につながります。

(3)職場環境の改善

職場環境を改善することによって、従業員のストレスを軽減させることも可能です。例えば、照明や温度は適切か、座席にゆとりはあるか、休憩時間は十分かなど、従業員に負担を与える要因はないか環境を見直してみましょう。

(4)メンタルヘルス支援の実施

企業は従業員に対して、メンタルヘルスに関する支援を行うことも重要です。具体的には、カウンセリングの実施や、産業医による助言と指導などがあります。

⑤未払い社会保険料問題(社会保険の加入漏れ)

様々な働き方のイラスト

従業員の健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険の加入漏れも審査では頻繁に問題になる事項です。特に注意が必要なのは、パートやアルバイト。2022年10月の法改正により、従業員数が101人以上の企業で、以下の4つの要件を満たす場合には社会保険への加入が義務付けられています。
・週の労働時間が20時間以上
・1ヶ月の賃金が88,000円以上
・1年以上の雇用見込みがある
・学生ではない

万が一加入漏れが発覚した場合には、過去2年に渡って遡り、社会保険料を納めなければなりません。

(1)社会保険の適正な加入、継続管理の徹底

社会保険料の加入手続きが適切に行われているか、加入者数や保険料の支払い状況を定期的に確認することが大切です。新規に入社した従業員の社会保険の加入手続きは迅速かつ正確に行いましょう。

(2)内部組織の整備

給与計算や社会保険の手続きなどの業務を洗い出してプロセスを明確にし、責任を明らかにすることで、業務の抜け漏れを防ぐことができます。また、業務プロセスに沿った適切な文書管理も徹底しましょう。

それぞれのケースに応じて、会社側は対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。

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IPO準備において労務監査が必要なタイミング

IPOに向けた労務監査が必要なタイミングは、以下の2回です。
・直前々々期(N-3)
・直前期(N-1)

監査法人は、深刻な人手不足により、できるだけ課題の少ないIPO準備企業を選ぶ傾向にあります。そのため、直前々々期(N-3)に労務監査を実施して労務環境を改善しておくことで、監査法人に選ばれやすくなります。

「直前期(N-1)」に2回目の労務監査を行うのは、労務環境を万全に整えた上で上場審査に臨むためです。

IPO準備における労務監査の依頼先

IPO準備における労務監査の依頼先は、社会保険労務士が適任です。社会保険労務士は、人事労務管理に関する専門的な知識と経験を持ち、企業の人事労務管理に関する問題点の把握や、改善策の提案が可能。

労務監査を依頼する際には、過去にIPO準備を支援した実績があり、コスト面でも適正な専門家を選ぶことが大切です。

IPO準備に関するご相談は社会保険労務士まで

社会保険労務士の女性のイラスト

IPO準備中の企業が直面する労務リスクは非常に多岐に渡ります。IPO審査までに全ての課題を洗い出して改善するために、計画的に労務監査を行いましょう。

今回解説した「労務監査とIPO準備中のリスク」について、少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、IPO関連に強い専門家が対応させていただきます。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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