社労士が解説!2022年4月施行の『育児・介護休業法改正』で企業側の対応方法とポイントをご紹介。男性育休への対応で何が変わる?
- 2021.10.25 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、2022年4月施行の『育児・介護休業法改正』で変わる、企業側の対応方法とポイントを紹介します。
2021年6月、男性が育児休業を取得しやすくなることを目的に「改正育児・介護休業法」が成立ました。育児・介護休業法は、改正によってどのような変更があるのでしょうか。
2022年4月からの施行前に、しっかりと内容を確認しておきましょう。
目次
育児・介護休業法とは?
そもそも育児・介護休業法とはどのような法律なのでしょうか。まずはその概要から説明します。
育児・介護休業法の概要
育児・介護休業法は、育児や介護と仕事の両立を無理なく行うための、環境作りや支援を目的とした法律。1991年に作られた「育児休業等に関する法律」を元に、度重なる改正が行われ、現在の内容となりました。
育児・介護休業法が作られた背景には、子どもの減少や高齢者の増加が大きく関与しています。このような人口課題を抱えながらも、女性の活躍の場や安定した雇用を確保するために、育児・介護休業法は重要な役割を果たしているのです。
この制度の利用を希望する労働者に対しきちんと対応することは、事業主の義務。制度の利用を理由に、減給や降格、解雇などを行うことは禁止されています。
育児・介護休業法に盛り込まれる「育児休業制度」とは
育児休業制度は、育児のための支援制度として、育児・介護休業法に盛りこまれています。産前産後休業や子の看護休暇、転勤に対する配慮などが主な内容です。
育児休業制度は、1歳未満の子どもを療育する労働者に対して適応され、最長2歳までこの制度を利用し休業できます。
育児・介護休業法に盛り込まれる「介護休業制度」とは
介護休業制度は、介護のための支援制度として、育児・介護休業法に盛りこまれています。介護休業や介護休暇などが主な内容です。
介護休業制度は、要介護状態の家族を介護する労働者に対して適応される制度。ここでいう「家族」とは、配偶者や父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫と決められています。
介護休業は、休日を含め通算93日まで取得可能。介護休業の期間を事業者が指定することはできません。
育児・介護休業法改正の背景と改正によって変わること
時代に合わせて改正を繰り返してきた育児・介護休業法。今回改正されたのにはどんな背景があるのでしょうか。また、法改正によってどのような変更点があるのでしょうか。
育児・介護休業法が改正された背景
皆様の企業では、育児や介護を理由にした中・長期的な休業は取れていますか?
経営者の方から日々寄せられるご相談の中には
・休まれると仕事が回らない
・取得してほしいけど、現場が疲弊するため育児休業の取得をすすめにくい
このようなお悩みがあり、育児・介護休業制度が活用できていないケースも多く見受けられます。
厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査」によると、2018年10月1日から20199月30日までの1年間に出産または配偶者が出産した人のうち、2020年10月1日までに育児休業を開始した人の割合は、女性が91.6%、男性は12.65%。
男性の育児休業取得率は、以前よりは多少増えています。とはいえ、依然として育児の負担が女性に偏っている状況に変わりありません。
また、厚生労働省がまとめた「改正育児・介護休業法参考資料集」によると、介護をしている人のうち介護休業を取得した人の割合は3.2%です。
介護をしている労働者の9割以上が制度を利用できていない現状が、浮き彫りになっています。
このように制度はあるものの、実際に活用できていない現状を改善するために、今回の育児・介護休業法改正が行われました。この法改正によって、今後何が変わるのでしょうか。
育児・介護休業法改正で変わる4つのこと
育児・介護休業法改正では、大きく4つのことが変わります。1つずつ解説していきましょう。
1.男性が子どもの出生直後から休業できる
今回の改正で変わったポイントの1つ目が「出生時育児休業の新設」です。これは、現在の育児休業制度をより活用できる内容で「男性の産休制度」と呼ばれるもの。
出生時育児休業制度では、男性が子どもの出生直後から8週間以内の間に、4週間までの休業を取得できます。
引用元:男性の育児休業取得促進等に 関する参考資料集|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000704768.pdf
申請期間が短期間ですむことも、現在の育児休業と異なるポイント。原則2週間前までに取得申請をすればよいため、産後の母子の様子を見てから取得の検討を始めることも可能です。
また出産予定日がずれた場合にも対応しやすいため、サポートが必要な時期に合わせて休業できるでしょう。
出生時育児休業を取得している間、労使協定を結べば、あらかじめ決めた範囲内での就業も可能です。家事や育児の時間をしっかりと確保しながら、仕事もできるようになります。
ただし働き方によっては、出生時育児休業を認められなくなる場合もあるので、労働条件などの確認が必要です。
出生時育児休業中には、税金の負担減や社会保険料免除も受けられます。また現在の育児休業と同様、育児休業給付金が支給されるので、男性の休業による収入面の不安も少なくてすむでしょう。
新設の出生時育児休業制度 | 取得可能期間 | |
---|---|---|
取得可能期間 | 原則子どもが1歳(最長2歳)まで | 原則子どもが1歳(最長2歳)まで |
申請期間 | 原則休業の2週間前まで | 分割取得 |
2回まで分割可能 | 2回まで分割可能 | 原則分割不可 |
出生時育児休業中の就業 | 原則就業不可 | 原則就業不可 |
2.育児休業の分割取得が可能になる
今回の改正で変わったポイントの2つ目が「育児休業の分割取得が可能になったこと」です。前述した出生時育児休業も2回に分けて取得できるため、これらを合わせて計4回の休業が可能となります。
育児休業を分割して取得できることで、家庭の状況に合わせた制度の利用が期待できます。「上の子どもの長期休暇に合わせて、育児休業を取得する」「夫婦で交代して育児休業を活用する」といった利用も可能です。より実用的な育児休業の取得ができるでしょう。
3.有期雇用労働者が休業しやすくなる
今回の改正で変わったポイントの3つ目が「有期雇用労働者が育児・介護休業を取得しやすくなったこと」です。
有期雇用労働者とは、期間を決めて労働契約を結んだ人のこと。契約社員や臨時社員のような呼び方をされることもあります。
元々、有期雇用労働者は以下の2つの要素が育児・介護休業の対象となる要件でした。
1.引き続き雇用された期間が1年以上
2.1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない
今回の改正で、1つ目の「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が撤廃されることになりました。
そのため今後は、子どもが1歳6か月になるまでに契約の満了が明らかでなければ、育児・介護休業を申請できるようになります。
ただし、雇用期間が1年未満の場合は、労使協定の締結により、今まで通り育児・介護休業の対象から除外することも可能です。
4.事業主に義務が課される
今回の改正で変わったポイントの4つ目が「事業主に対する義務」です。育児・介護休業法改正に伴い、事業主が対応すべきことについては、次の項目でお話していきましょう。
育児・介護休業法改正後、企業が対応すべきこと
育児・介護休業法改正に伴い、新たに追加された事業主の義務について、1つずつ解説します。
社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案させていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
【すべての企業】育児休業を取りやすい雇用環境の整備
すべての事業主には、育児休業を申請しやすくするための、雇用環境の整備が義務づけられます。
具体的には
・育児休業に関する研修や勉強会
・育児休業の相談窓口の設置
が必要となります。
今後定められる省令をしっかりと確認し、自社に合う方法を導入することが求められます。
【すべての企業】育児休業制度の個別周知・意向確認の実施
すべての事業主には、労働者やその配偶者の妊娠や出産について申し出を受けた場合、育児休業制度を個別に知らせることも義務づけられます。
また、制度の利用についての意向を確認するため、面談で制度の説明をしたり、書面で情報を提供したりすることも必要です。
育児休業の個別周知や意向確認の方法や内容は、今後省令で定められるので、確認しておきましょう。
【従業員数1,000人超の企業のみ】育児休業等取得状況の公表
従業員1,000人以上の事業主は、毎年1回以上、育児休業等の取得状況を公表することが義務となります。
公表内容についての詳しいことは、今後省令で定められる予定です。公表方法に関しては、企業公表文書への記載が見込まれています。
従業員の割合に対して育児休業取得率が高い場合は、企業のイメージアップにつながることも考えられます。
優秀な人材を採用する際に、企業ブランドの1つとして活用できますので、育児休業の取得を推進していきましょう。
育児・介護休業法改正への対応を怠ることによる事業主側のリスク
育児・介護休業法改正に伴い、事業主に大きく3つ(従業員1,000人未満の企業の場合2つ)の義務が課されることとなりました。
この義務を怠ると、事業主は行政から義務違反に関しての報告を求められます。行政から法律に則った対応を行うようにと、助言や指導、勧告を受けることもあります。
行政への報告をしない、行政からの勧告に従わないなどの場合には、企業名が公表され、最大20万円の過料が課せられることも決定しました。
このような措置を受けると、企業イメージに大きなダメージを与えかねません。法改正に伴う事業主の対応をしっかりと確認し、正しく対応しましょう。
育児・介護休業法改正の今後
育児・介護休業法改正に伴った変更事項は、段階的に施行される予定です。今後の予定についてお伝えしましょう。
2022年◯月
施行時期は未定ですが、2022年内に改正予定となっている内容は3点あります。
・出生時育児休業制度が開始
・育児休業の分割取得
・雇用保険法の整備
出生時育児休業制度と育児休業の分割取得については前述した通りです。
雇用保険法については「被保険者期間の計算起点に関する特例」が認められる予定となっています。今までは出産のタイミングによって、育児休業給付の受給要件から外れてしまう場合があったことから、今回の法改正を機に整備されることになりました。
今後は出産のタイミングに関係なく、育児休業給付を安心して受給できるようになるでしょう。
2023年4月1日
2023年4月1日からは、1点新たに追加されることがあります。
・育児休業等の取得状況の公表が義務化
内容については前述した通りです。
このタイミングで義務化の対象となるのは、従業員1,000人以上の企業のみですが、今後中小企業にも拡大することが予想されます。事業規模に関わらず、育児休業等の取得業況についてまとめておくと、今後対応しやすいかもしれません。
育児・介護休業法改正の対応には社労士の活用をご検討ください
今回の育児・介護休業法改正は、男性の育児休業取得促進が目的です。制度を活用し、男性が育児休業を取りやすくなるためには、事業主の対応も欠かせません。
今後労使協定を見直したり、新たに追加された義務に対応したりと、事業主としてやるべきことがたくさん出てくるでしょう。
今回解説しました「育児・介護休業法改正に伴う対応」について、少しでも難しいと感じられた場合は、専門家へ相談することをオススメいたします。
社会保険労務士法人中込労務管理では、育児・介護休業法改正に強い専門家が対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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