【社労士が解説】年次有給休暇の取得義務(働き方改革)とは?
- 2021.12.01
目次
年次有給休暇の取得義務(働き方改革)
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は2019年4月から施行された「年次有給休暇の取得義務」についてお伝えします。
現在、年次有給休暇を取得できる権利はあるものの、職場への気兼ねや請求へのためらいなどによって、多くの従業員が十分な年次有給休暇を取得できていません。このような現状を改善するため、使用者に対し、年5日間の年次有給休暇をに取得させることが義務化されました。
制度の変更に伴い、企業が行うべき対応も定められています。どのような対応が必要なのか、どのように従業員の年次有給休暇を管理すればよいのかなどについて知っておきましょう。
年5日の年次有給休暇取得が義務化!その内容とは
2019年4月から、すべての使用者に対し、従業員に年次有給休暇を取得させることが義務づけられました。対応方法を誤ると、企業運営にリスクが生じますので、まずはしっかりとどのような法改正なのか内容を確認しましょう。
年次有給休暇取得義務化の対象となる従業員
義務化の対象となるのは、年次有給休暇が10日以上付与されている従業員です。
正社員のようにフルタイムで働く人にとどまらず、パートタイム従業員にも対応しなければならない場合があります。それぞれ見ていきましょう。
フルタイム従業員は雇用形態によらず対象
フルタイムで勤務している従業員には、年次有給休暇が10日以上付与されます。そのため雇用形態を問わず、年5日の年次有給休暇を取得させることが必要です。
どの雇用形態であるにしても、
- 6ヶ月間以上の継続勤務
- 8割以上の出勤実績
の要件を満たせば、10日の年次有給休暇が付与され、年次有給休暇取得義務化の対象となります。
パートタイム従業員も対象となる場合がある
パートタイム従業員のように労働日数が少ない人であっても、年次有給休暇の取得義務化の対象になるケースがあるため注意が必要です。
労働日数に応じて取得義務が発生するタイミングが異なりますので、確認しましょう。
引用元:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
週3日・週4日勤務のパートタイム従業員の場合
週4日勤務のパートタイム従業員の場合、年10日の年次有給休暇が付与されるのは、雇用開始から3年6か月が経過した段階です。すなわち、3年6か月勤務した段階で初めて、年次有給休暇取得義務化の対象者となります。
週3日勤務のパートタイム従業員の場合、雇用開始から5年6か月が経過した段階で年10日の年次有給休暇が付与されるため、年次有給休暇取得義務化の対象者となります。
パートタイム従業員に年次有給休暇取得義務化が適応される場合にも、直近1年間の出勤実績が8割以上であることが必要です。
週2日・週1日勤務のパートタイム従業員の場合
所定労働日数が週2日以下のパートタイム従業員の場合、雇用期間が長くなっても、年次有給休暇の付与日数が10日に達することがありません。
年次有給休暇の付与日数は、週2日勤務の場合で最大7日、週1日勤務の場合は最大3日と規定されています。
つまり所定労働日数が週2日以下のパートタイム従業員は、年次有給休暇取得義務化の対象者とはなりません。
年次有給休暇取得義務化で定められた「年5日の時季指定義務」の仕組み
企業の規定内容により、年次有給休暇付与の基準日が異なります。ここでは4つのパターンにわけて解説します。
基本:入社6ヶ月後に10日以上の年次有給休暇を付与する場合
まず入社6ヶ月後に10日以上の年次有給休暇を付与する、基本のケースについて見ていきましょう。
このケースにおいて、使用者は「年次有給休暇を付与した日から1年以内に」「5日間の年次有給休暇を」「時季を指定して」取得させる義務があります。
ただし、すでに従業員側から年間5日の有給休暇申請がある場合や、計画年休で付与する場合は使用者から時季指定することはできません。
4月1日に入社した、フルタイム勤務の人を例に考えてみましょう。
入社からの出勤実績が8割以上の場合、年次有給休暇が10日付与されるタイミングは、入社から6か月経過した10月1日。使用者は、この日から翌年の9月30日までの1年間に、5日間の年次有給休暇を従業員に取得させなければならないということになります。
引用元:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
年次有給休暇を前倒しで付与している場合
中には年次有給休暇を前倒しで付与している企業もあります。法定の基準日よりも前に、年次有給休暇を付与した場合の対応方法について見ていきましょう。
【パターン1】入社から6ヶ月経つ前に10日以上の年次有給休暇を付与する場合
企業によっては入社と同時に年次有給休暇を付与するなど、入社後6か月を待たずに年次有給休暇を付与しているケースもあります。
このケースでは、入社日から1年以内に5日間の年次有給休暇を取得させる義務が生じます。
引用元:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
先ほどと同様、4月1日に入社した、フルタイム勤務の人で考えてみましょう。
入社と同時に10日の年次有給休暇を付与された場合、1年後の3月31日までに5日間の年次有給休暇を取得させることが必要です。その後も、4月1日から3月31日を1年として考えます。
【パターン2】入社年と翌年で年次有給休暇を付与する基準日が異なる場合
企業によっては、全社員の年次有給休暇を付与する基準日を合わせようとするケースもあるでしょう。
そうなると入社の年と翌年以降の基準日が異なり、重複期間が生じてしまいます。そのようなケースにおいては、元々の期間に対する重複期間の割合から算出した日数の年次有給休暇を取得させることが認められています。
引用元:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
2019年4月1日に入社した、フルタイム勤務の人を例に考えてみましょう。
この場合、2019年10月1日が最初の年次有給休暇付与基準日なので、2019年10月1日から2020年9月30日までの間に5日間の年次有給休暇を取得することになります。
しかし、毎年4月1日を基準日とすることが会社の規定で定められているとすると、2020年4月1日から2020年9月30日までが重複してしまいます。そこで2019年10月1日から2021年3月31日までをまとめて考えようとするのが、重複期間が生じる場合の方法です。
重複期間がある場合の年次有給休暇日数は「月数÷12×5日」で算出します。
今回の場合、
18か月(2019年10月1日から2021年3月31日までの月数)÷12×5日=7.5日
となり、2019年10月1日から2021年3月31日までに7.5日の年次有給休暇を取得させることになります。
とくにこちらのケースは、管理が非常に複雑になってしまいます。
社会保険労務士法人中込労務管理では、それぞれの企業に応じて正確に対応させていただいておりますので、ぜひご相談ください。
【パターン3】従業員が自ら請求し、年次有給休暇を前倒しで取得していた場合
従業員が年次有給休暇を付与される前に、自ら希望して年次有給休暇を取得しているケースもあるでしょう。こういったケースでは、その取得日数を控除する必要があります。
引用元:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
再度4月1日に入社した、フルタイム勤務の人を例に考えてみましょう。
年次有給休暇が発生する10月1日以前に、従業員からの希望で、2日の年次有給休暇を取得させていたとします。
そうなると、すでに取得した年次有給休暇の2日分が控除され、10月1日から翌年9月30日までに取得させなければならない年次有給休暇は3日となります。
もし従業員自らの希望により、5日以上の年次有給休暇をすでに取得していた場合は、年次有給休暇を追加して取得させる必要はありません。
時季指定とは?時季指定の際の注意点
年次有給休暇取得の義務化において、使用者は期間を指定して従業員に年次有給休暇を取得させることが必要です。このように期間を指定することを「時季指定」と言います。
使用者が時季を指定して年次有給休暇を取得させるとき、従業員の意見を尊重することが重要です。
面談やメール、年次有給休暇取得計画表などを活用し、従業員の意見を聞くこと、さらにできる限り従業員の希望に沿って年次有給休暇を取得させることが求められます。
ただし、すでに5日以上の年次有給休暇を取得している従業員には、時季指定する必要はありませんし、することもできません。
有給休暇の取得義務化に違反したときの罰則
従業員に年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合や、使用者が時季指定を行うことを就業規則に記載していない場合には、30万円以下の罰金が科せられます。
また、従業員が請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合にも、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が定められています。
これらは従業員ひとりに対してひとつの罪として扱われるため、使用者に大きな制裁が加えられる可能性があるのです。
年次有給休暇取得義務化に伴う企業の対応方法
年次有給休暇の取得が義務化されたことで、企業側にも対応が求められています。企業がすべき対応と注意点について見ていきましょう。
就業規則への規定
年次有給休暇取得の義務化に伴い、以下の2点の内容を、就業規則に記載する必要があります。
- 対象となる従業員の範囲
- 時季指定の方法
休暇に関する内容は、労働基準法第89条で定められた「絶対的必要記載事項」に含まれています。しっかりと対応しましょう。
年次有給休暇管理簿の作成・保管
年次有給休暇取得の義務化に伴い、使用者は年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保管することが求められます。
年次有給休暇管理簿に記載すべき内容は以下の3つです。
- 年次有給休暇が付与される基準日
- 年次有給休暇の取得日数
- 年次有給休暇を取得した時季
これらを明らかにした書類を、従業員ごとに作成する必要があります。
年次有給休暇管理簿は、従業員名簿や賃金台帳と合わせることも可能です。またシステム管理されたものでも構いません。
実務上の注意点
年次有給休暇の取得義務について、企業側が注意すべきことがあります。とくに注意すべき2点について解説しましょう。
従業員が時間単位で年次有給休暇を取得した場合は通算できない
年次有給休暇取得義務化の制度において、時間単位で従業員が取得した年次有給休暇については通算できないと規定されています。
ただし就業規則で半日単位の休暇を認めている企業の場合、従業員が半日単位で取得した年次有給休暇は通算することが可能です。つまり半日休暇1回で0.5日分、2回取得すると1日分として計算できるのです。
年次有給休暇を取得させられないからといって買取はできない
年次有給休暇取得義務化の制度において、年5日の年次有給休暇を取得させられないからといって企業が買い取ることはできません。
そもそも年次有給休暇の取得義務化は、従業員に与えられた年次有給休暇という権利を十分に使えていない現状から考えられた制度です。そのため、使用者は従業員に正しく年次有給休暇を取得させることが大切なのです。
確実に年次有給休暇を取得させる3つの方法
従業員に年次有給休暇を取得させるには、どのようにしたらよいのでしょうか。使用者側ができる3つの方法について紹介します。
年次有給休暇取得計画表の作成
年次有給休暇の取得義務を正しく果たすためには、年次有給休暇取得計画表を作成するとよいでしょう。
従業員の年次有給休暇取得が、業務に大きな影響を及ぼしてしまうと、企業としても痛手を被ります。誰がどのタイミングで年次有給休暇を取得するのかといった調整を計画的に行うことで、スムーズに業務が行えるでしょう。
また、計画表があることで、従業員が「周りの方に気を使って有給休暇を使えない」という状態の改善にもつながります。
より細やかに対応するためには、四半期ごとや月ごとの計画表を作成することをオススメします。従業員に年次有給休暇を確実に取得させるためにも、年次有給休暇取得計画表を作成することは大切です。
使用者からの時季指定
年次有給休暇の取得義務を正しく果たすため、使用者は従業員に、適当なタイミングで時季指定を伝えるようにしましょう。
使用者は従業員に、時季指定をして年次有給休暇を付与しています。しかし中には、数か月経っても取得されていないケースがあるかもしれません。
そのようなケースにおいて、使用者は「〇〇までに〇日の年次有給休暇を取得する」ことを再度伝える必要があるでしょう。
計画年休の活用
年次有給休暇の取得義務を正しく果たすために、計画年休を活用するのもひとつの方法です。
計画年休とは、前もって休暇の取得日を決めておくこと。事業の見通しが立つので、使用者にとっては労働管理がしやすくなります。また職場に遠慮なく年次有給休暇を取得できるため、従業員にとってもメリットと言えそうです。
ただし計画年休を導入するためには、就業規則による規定と労使協定の締結が必要です。
あらかじめ段取りが必要となったり、規則で規定することで柔軟な対応が難しくなったりする可能性もあるでしょう。
【企業の特徴別】従業員の年次有給休暇を管理しやすくするためのコツ
ここからは、従業員の年次有給休暇を管理しやすくするためのコツを紹介します。
従業員が多い企業・新卒一括採用をしている企業
従業員が多い大企業や新卒一括採用を実施している企業では、年始や年度始めに年次有給休暇を付与する基準日を統一することがオススメです。統一することで、多くの従業員をまとめて管理できるようになります。
入社年とその翌年において年次有給休暇基準日に重複が生じてしまうため、管理が複雑になることは否めません。とはいえ長い目で考えると、基準日を統一するほうが従業員全体を管理しやすくなるでしょう。
中小企業・中途採用をしている企業
中途採用を積極的に実施している企業や中小企業では、年次有給休暇を付与する基準日を毎月1日にするなど、複数作ることがオススメです。これにより、同じ月に入社した従業員を一括して管理できるようになります。
中途採用が多い企業で、前述したような年1回の基準日にまとめようとすると、管理が非常に複雑になってしまいます。
基準日を統一する段階と年次有給休暇を管理する段階での負担を合わせて考えると、複数の基準日を作るほうが管理しやすいと言えるでしょう。
まとめ
労働関係の制度は頻繁に変更されており、企業にも対応が求められます。対応への遅れはトラブルにつながる恐れもあり、信頼喪失などのリスクもつきものです。
今回解説しました年次有給休暇の取得義務について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをオススメいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、有給休暇の管理に強い専門家が対応させていただきます。ぜひお気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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