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懲戒処分を行う場合の留意点とは?処分の種類や基準、手順も解説

2022.03.31 コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、企業が従業員の懲戒処分を行う際の留意点を解説していきます。懲戒処分の種類やルール、手順についてもお伝えしますので、いざという時に備えて確認しておきましょう。

懲戒処分とは?

懲戒処分とは、“企業の就業規則や企業秩序に違反した従業員に対して科せられる制裁措置”のことです。

懲戒処分の目的は、主に二つあります。一つは、問題となる行動を起こした本人への戒め。もう一つは、しかるべき制裁措置を講じることで、企業秩序の乱れに対する管理体制が整っていることを全従業員に周知し、風紀を保つことです。

【留意点懲戒処分の種類

戒告

通常、懲戒処分の中で最も軽い処分に位置付けられるのが、戒告処分です。従業員の問題行動に対して、口頭や文書で将来を戒めることを言います。厳重注意などの指導をしても、従業員の行動が改善されない場合などに下されることがあります。

戒告に至らない、程度の軽い違反行為については「厳重注意」が行われることがあります。これは本人に反省を促すためのもので、厳重注意は一般的に、懲戒処分には当たらないとされます。

譴責(けんせき)

譴責も、戒告と同じように従業員の将来を戒める処分です。戒告との違いは始末書を提出させるかどうかにあります。戒告は始末書を提出させないのに対し、譴責は始末書を提出させる処分です。

減給

減給は、本来支給されるべき賃金から一定の額を差し引く処分です。減給による差引額の範囲については、労働基準法の91条で「1回の減給の限度額が1日の平均賃金の半分以下で、減給の総額が1賃金支払い期の賃金総額の10分の1以下でなければならない」と定められています。

上記に従う必要があり、1度の減給処分で差し引けるのは1回だけです。また1賃金支払い期の中で、複数回に渡って減給処分を講じた場合でも、差引額は賃金総額の10分の1以下に収めなければいけません。

出勤停止・懲戒休職・懲戒停職

出勤停止・懲戒休職・懲戒停職は、いずれも従業員の一定期間の勤務を禁止する処分です。処分の表現方法は「出勤停止」「懲戒休職」「懲戒停職」などがありますが、どれも同じ意味を示します。

出勤を禁止されている間は、給与が支給されません。期間の上限について、法律では定められておらず、通常は各企業の就業規則で規定されています。

降格・降職

降格・降職は、従業員の職位や役職、資格などを引き下げる処分です。

これは従業員に対して、出勤停止よりも大きな経済的制裁を与えます。なぜなら出勤停止の場合は、一定期間が過ぎれば元の給与を得られますが、降格・降職の場合は再び元の役職に戻るまで給与が下がったままとなるからです。

諭旨解雇・諭旨退職

諭旨解雇・諭旨退職は、懲戒解雇(最も重い処分)が従業員に与える不利益が大きいために、退職届を提出する機会を与える温和的な処分です。従業員に退職届の提出を勧告して、退職届を提出しない場合には懲戒処分を下します。

諭旨解雇と諭旨退職の内容は、ほぼ同じです。「諭旨解雇」は従業員に退職届を提出させて解雇する一方、「諭旨退職」は従業員に退職届を提出させて退職扱いとします。処分に対して、企業が「解雇」と考えるか「退職」と考えるかで処分の名称が違ってくると覚えておきましょう。

懲戒解雇

懲戒の中で一番重い処分で、問題行動を起こした従業員に対して企業が一方的に労働契約を終了させるものです。退職金や解雇予告手当が支給されず、即日解雇となるのが一般的です。

【留意点懲戒処分を行うための必要条件

従業員に対して懲戒処分を下すためには、大前提として処分を講じる正当な理由があることと、懲戒処分に関する規定が就業規則に定められている必要があります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

懲戒処分を下す理由(懲戒事由)があること

正当な理由なく、従業員に懲戒処分を下すことはできません。例えば、数分の遅刻や故意ではない些細なミスなどは、懲戒処分の対象にならないということです。処分の実行に値する理由(懲戒事由)が明確でなければならず、懲戒事由については就業規則に明記しておく必要があります。

就業規則などに懲戒処分について規定されていること

就業規則に懲戒処分を行う根拠が明示されている必要があります。ただ単に懲戒処分に関する記載があるだけでなく、以下の3つのポイントを押さえることが大切です。

①懲戒処分の種類や内容、また懲戒事由について明確に定められていること

②定められた内容が合理的であること

③就業規則が全従業員に周知されていること

【留意点懲戒処分を行う際に守らなければならない6つのルール

従業員に懲戒処分を下すにあたって、守らなければならない法律上のルールがあります。守らずに懲戒処分を下した場合には、後々従業員から裁判を起こされて敗訴するリスクもありますので注意が必要です。以下6つのポイントを押さえておきましょう。

懲戒処分の内容が懲戒事由相当であること

懲戒処分を下すには、懲戒事由と照らし合わせて、処分が相当でなければなりません。企業が受けた損害の程度、問題行動の内容や動機、反省の様子(態度)などを含めて判断する必要があります。

平等処遇が保たれていること

どの従業員も平等に扱わなければならず、同じような問題行動に対する処分は同程度のものでなければなりません。従業員に対する処分の決定は、主観的な判断に委ねられることなく、公平に行われる必要があるのです。

手続きが適正であること

懲戒処分を下すためには、適正な手続きが行われなければなりません。例えば、事実関係の調査や本人への聞き取り、弁明の機会を与えることなどがあります。詳しい手順については後ほど解説します。適正な手続きを経ていない場合、処分が無効となる可能性もあるので、注意が必要です。

二重処分にならないこと

1回の問題行動に対して、処分を2回以上下してはいけないというルールです。例えば、1つの問題行動について、出勤停止と降格の両方を行うことはできません。

しかし、従業員に反省の色が見られず問題行動が何度も繰り返される場合、その11つに対して処分を下すことは可能です。

遡及処分を行わないこと

懲戒に関する新しい規定を定めたり追加したりした場合に、それ以前の行為に適用してはならないということです。規定が制定された後に起きた事案にのみ、規定が有効とされます。

個人の責任に対して連帯責任を負わせないこと

個人の問題行動に対する処分として、連帯責任を負わせてはいけません。例えば、一人が行った違反行為について、チームや部署全員に対して懲戒処分を下すことはできないので注意が必要です。

懲戒処分を適切に行うには、各々の企業に合わせた対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

【留意点懲戒処分を下す理由(懲戒事由)

主な懲戒事由は、以下の5つに分類されます。それぞれについて詳しくお伝えしていきます。

経歴詐称

採用時に履歴書に偽りの経歴を記載していた場合です。経歴の詐称は、企業と従業員との信頼関係を失わせるため、懲戒の対象となります。ただし懲戒事由に当たるものは、経歴詐称のうち重大なもののみで、軽微なものは含みません。重大な経歴詐称の例としては、最終学歴や職歴、犯罪歴の詐称などがあります。

職務懈怠

職務懈怠は、従業員としての職務を怠ることです。具体的には、遅刻・早退過多、無断欠勤、出勤不良、出勤成績の不良、職務専念の義務違反などがあります。

業務命令違反

業務命令違反とは、使用者や上司の指示や命令に違反することを言います。具体的には、日常の業務に関する指示・命令に加え、出張命令、休日労働命令、時間外労働命令、配転命令、出向命令などに違反した場合です。ただし、指示・命令の内容が労働契約の範囲内であることや、労働基準法に違反していないことが大前提となります。

懲戒事由となるかの判断は、従業員が指示命令に違反せざるを得ない理由があるかどうかがポイントとなります。

職務規律違反

職務の遂行などに関して規定している、職務規律に反することです。例えば、金銭や物品の横領、他の従業員に対する暴力行為・強迫行為、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどが当てはまります。

職場外での非違行為

従業員の私生活での行動は自由であり、原則として使用者が規制を与えられる範疇ではありません。しかし、企業の社会的評価を低下させる恐れがある非違行為を行った場合には、懲戒事由と認められます。

【留意点】懲戒処分の段階的な実施

従業員が問題行動を起こした場合、それが就業規則に定められている懲戒事由に当てはまる場合でも、いきなり懲戒処分を行うのは現実的ではありません。

まずは、指導や厳重注意などで従業員の意識や行動を改善させるよう努めましょう。それでも同様の問題行動や違反行為が繰り返される場合には、軽い処分から講じていきます。軽い懲戒処分を下してもなお反省の色が見られない場合には、徐々に重い懲戒へと移行していくのが望ましい方法です。

【留意点懲戒処分を講じる際の手順

軽い処分から重いものまで、実際に懲戒処分を下すことになった際どうすれば良いのか、手順を知っておくことが大切です。様々な工程がありますので、あらかじめ確認しておきましょう。

①事実確認を行う

まずは、就業規則の懲戒事由に当たる問題行為や違反行為などがあったのか、事実の確認を行います。本人への聞き取りや、客観的な証拠などを元に慎重に確認しましょう。本人が否定していたり、事実が明確でなかったりするのに懲戒処分を行うと無効となります。

②弁明の機会を与える

懲戒処分を行う場合には、一方的に処分を下すのではなく、本人に弁明の機会を与えてしっかりと話を聞く機会を設けることが重要です。

③懲戒処分の種類を検討する

どの懲戒処分を下すか、就業規則に規定された懲戒事由と照らし合わせながら、以下の内容も考慮して総合的に判断していきます。

・問題行動に至った動機

・企業が被った損害の程度

・他の従業員や取引先への影響の程度

・従業員の日頃の勤務態度

・問題行動後の従業員の態度

・過去の問題行動の有無

④懲罰委員会で審議を行う

就業規則の中で、懲戒処分を行う際に懲罰委員会の実施を定めている場合には、委員会を開いて審議を行う必要があります。規定されているにも関わらず、懲罰委員会を開催しなかった場合、処分が無効となりますので注意しましょう。

⑤本人に伝える

従業員の懲戒処分が決定した場合には、処分の内容や理由を合わせて本人に通知します。

懲戒処分に関するご相談は社会保険労務士まで

懲戒処分を下すには、守るべきルールや注意すべき点がたくさんあります。留意点を見落としたり、ルールに反して懲戒処分を下したりしてしまうと、後々裁判になるなどのトラブルになりかねません。

今回解説した「懲戒処分」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、労務トラブルの対応や、就業規則整備に強い専門家が対応をさせていただきます。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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