有期契約社員の雇止め、不当解雇トラブルを未然に防ぐには
- 2022.03.31 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は有期契約社員の雇止めトラブルに関して解説します。
有期契約の従業員に対して、何度かの契約更新をし、一定期間雇用を継続したにも関わらず、雇用契約をやめることを「雇止め」といいます。
企業や人事としては致し方ない場合もあると考えますが、従業員してみれば生活にも関わる大きな問題です。
そのため、この雇止めに関してトラブルとなるケースが多々あります。
対策をとり、トラブルとなる要素を未然に防ぎましょう。
目次
有期契約社員の雇止めはトラブルが多い
有期契約社員であれば、雇用期間が決められています。
雇用契約の期間が終了すれば雇用関係も終了となりますが、契約期間を何度も更新し、雇用している状態が常態化すると、働く従業員側としては雇用契約の期間があるようでないという意識になっていきます。
そうした状態が一定期間続いたにも関わらず、期間終了、と一方的に契約終了の通知をした場合、契約期間の存在を希薄に感じている有期契約社員との認識の違いが生じていきます。
そのため、トラブルに発展するケースが増えてきています。
そもそも有期契約社員とは?雇止めとはどういう状況か?
前提として、そもそも有期契約社員とは「雇用契約の期間に定めがある従業員」のこと。
「契約社員」や「パートタイム」「アルバイト」のように呼ばれ、1年や6ヶ月の期間が区切りになることが一般的です。
会社によっては、独自の雇用形態として「臨時職員」「準社員」のようなケースもありますが、名称に関係なく雇用契約に期間がある場合は有期契約社員となります。
期間が定められているため、雇用契約の期間が終了した場合、雇用契約が解除されます。
雇止めとは、雇用契約の期間に定めのある従業員に対して期間満了をもって契約の更新をしないことをいいます。
有期労働契約には目的・理由は不要
有期労働契約をする上で、契約期間は最大で原則3年というルールこそありますが、
期間を定めることについては目的・理由は必要ありません。
ただし、トラブルに繋がりやすい契約方法でもありますので、注意が必要です。有期労働契約をする上で、契約期間は最大で原則3年というルールこそありますが、
期間を定めることについては目的・理由は必要ありません。
ただし、トラブルに繋がりやすい契約方法でもありますので、注意が必要です。
有期契約社員の雇用を守るものー「雇止め法理」
従業員側の雇用を保護する目的で成立したのがいわゆる「雇止め法理」になります。
根拠となる法律:労働契約法19条
雇止め法理の根拠となる法律が、労働契約法19条の条文です。
以下、参考のため全文を引用します。(労働契約法より引用)
この19条に抵触した場合、有期契約社員の契約更新拒否および雇止めは違法とみなされます。従って、同等の契約内容で更新されたものと扱われます。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
次に、19条1項、2項について詳しく説明をしていきます。
雇止め法理-実質無期契約型
雇止め法理において、実質無期契約型とされる契約は、19条の1項での内容に記載されています。
具体例を挙げると、半年間の雇用契約を10回更新し、長期間継続して雇用していたような場合などです。このような場合に雇止めを行うと、客観的にみても期間の定めのない契約との違いがない状態と判断されると、19条1項に抵触したとみなされ、違法とされる場合があります。
雇止め法理ー期待保護型
実質無期契約型が19条1項であったならば、雇止め法理の期待保護型は19条2項に相当します。
こちらも具体例を挙げると、特に支障がない限り契約更新とする、といった約束事があったケース、更新手続きが過去に一度も拒否されたことがないケースなど、契約期間が終了しても更新されることが期待されて当然である状況の場合に雇止めを行うと、19条2項に抵触したとみなされ、違法とされる場合があります。
企業の雇止めが違法とされた場合の罰則は?
違法な雇止めをしたとしても、実は罰金などの罰則は法律上規定されていません。
ただし、労働基準監督署からの指導を受ける可能性があるだけでなく、
・従業員から損害賠償請求をされる
・裁判になり、企業ブランドに悪影響が生じる
・トラブル鎮火に向けて、労力や時間が掛かる
このような、経営上のリスクに繋がることは間違いありません。
企業が雇止めを実施する場合に注意したいこと
以上を踏まえて、雇止めを実施する場合に企業が注意したいことについて解説します。
当然ながら、企業によって対策が異なります。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
有期契約社員に雇用契約を更新しない場合
雇用契約を更新せず、終了させる場合、認められるケースとそうでないケースがあります。
認められるケースとはどんなものかを解説していきます。
正当な理由が必要
まず、契約を更新しない(雇止めをする)場合、その正当な理由が必要になります。
具体的には、下記のような理由があります。
・本契約を更新しないことに関して前回契約更新時に合意されている
・本契約が、契約締結の際に決められている更新回数の上限にあたる
・該当(担当)業務が終了した
・事業縮小
・業務を遂行する能力が不足していると立証された
・職務命令違反、無断欠勤などの勤務不良がある
・健康状態が著しく悪い
上記のように、客観的で合理的な理由があることが前提となります。
必要な手続き
正当な理由があり、雇止めを行う場合、下記の条件に当てはまる場合は手続きとして、雇止めに関する予告をしなければなりません。
・有期労働契約が3回以上更新されている
・1年を超えて継続して雇用されている、
少なくとも契約の期間が満了する30日前までにその予告をする必要があります。
雇用契約を更新しないことを伝える場合の注意点
雇用契約を更新しないと決定した時点で、できるだけ早期に面談を実施しましょう。
最低でも契約の期間が満了する30日前までに実施し、本人に配慮し丁寧に対応します。
もちろん、契約更新しない(雇止め)の理由についても不満を残さないよう、丁寧に説明してください。
なお、従業員が雇い止めの理由について証明書を求めてきた場合には、証明書を遅滞なく交付しなければいけませんのでご注意ください。
雇用契約を更新しないことを認められない場合とは
前述したように、客観的で合理的な理由を欠いた雇止めは認められていません。
具体例を挙げると、以下のような理由である場合、雇止めが認められない可能性があります。
・業務内容などが臨時的なものでなく恒常的なもの
・契約上の地位が正社員とほぼ変わらない
・反復更新の有無や回数、通算の勤続年数が多い
・契約更新手続がずさん
・企業から雇用継続の期待を持たせる言動・約束事があった
・同様の職責・地位の従業員について過去に雇止めの実績がない
・勤続年数や年齢に上限がない
新たなトラブルになる前に知っておきたい「無期転換ルール」
無期転換ルールとは、有期契約社員の雇用の安定を図るために2013年4月1日に改正労働契約法により施行されました。
内容は、「企業と有期契約社員との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期雇用契約社員からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルール」となります。
契約更新を繰り返し、5年以上の雇用契約関係が続いた従業員を雇止めした企業で敗訴となる企業も少なくありません。
5年以上の契約更新をしている場合は無期転換ルールにも注意を払う必要があります。
有期契約社員の解雇(途中解約)をおこなう場合の注意点
臨時的な業務に対応するために有期契約社員を雇用しているケースにおいて、予想よりも早く業務が終了した場合、有期契約社員の契約を途中解約することはできるのでしょうか?
労働契約法第17条によれば、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)とは、あらかじめ企業と従業員が合意して契約期間を定めている契約のため、企業はやむを得ない事由がある場合を除き、契約期間の途中で従業員を解雇することはできない、とされています。
やむを得ない理由により有期契約社員との雇用契約を解約する場合、少なくとも30日前に予告をするか、日数分の解雇予告手当を支給する必要があります。
解約予告もしくは解約予告手当について
前述したように、有期労働契約は契約期間が過ぎれば原則として自動的に労働契約が終了することが前提です。
しかし、3回以上契約更新をしている場合や1年を超えて継続勤務している従業員については、契約を更新しない場合、使用者は30日前までに予告しなければなりません。
やむを得ない事情による途中解約の場合は30日前までに予告、もしくは解約予告手当を支給する必要があります。
有期契約社員の労働条件を変更する場合の注意点
企業の経営状況や業務の状況によっては、契約更新のタイミングで有期契約社員の労働条件を変更して雇用したいと考えることもあるかと思います。
当初の労働条件より条件が良くなる、悪くなる、いずれにしても従業員と協議の上、従業員が条件変更に同意をすることで可能となります。
しかし、条件変更には「合理的理由・社会的相当性」の枠内で判断されるものになりますので、その正当性を問われる場合があります。
条件変更の正当性が問われる
会社が労働条件を変更しての更新を申し入れたことに対して、その「合理的理由・社会的相当性」の枠内で判断され、その正当性を問われる場合があると前述しました。
具体的には下記の要件のもと、判断されます。
・労働条件の変更に必要性があったか
・労働条件の変更に伴う従業員への不利益の程度
・企業が提示した補償に関する措置
・手続きの相当性など
なお、有期契約社員との間で労働条件の同意が得られず、雇用終了となった場合でも雇止め法理の適用されないものとの見解です。
雇止め法理を踏まえて、事前にやっておくべき労務管理上の対策
有期契約社員との雇用契約において、いくつかトラブルに発展しやすい要素を解説しました。
それらを踏まえて、有期契約社員との雇用契約を結ぶ際、予め対策を取っておくことでトラブルを防ぐことができるようになります。
そのためには、まず雇い入れの際の対応が肝心です。
大事なことは雇用契約書に明示をすること。
下記3点を必ず明示しておきましょう。
①雇用契約の期間
②契約の更新の有無
③更新する場合の基準
また、実質無期契約と変わらないような契約になっていないか、契約更新を期待させること言わないなどにも注意しましょう。
具体的な有期契約社員の雇止めには専門家にご相談ください
有期契約社員との雇用契約トラブルは、ともすれば訴訟問題に発展することもあります。
しかし、雇い入れの際にしっかり雇用契約書に明示しておくこと、解約の前には従業員に丁寧に説明することなどいくつか対策を取ることで防ぐことができます。
有期契約社員の雇用契約や更新に関して、難しいと感じた場合は専門家へ相談することをオススメいたします。個別のご相談につきましても社会保険労務士法人中込労務管理にお任せください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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