定期監督は拒否できる?労働基準監督署への望ましい対応・やってはいけないこととは
- 2022.07.04 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、労働基準監督官によって行われる定期監督について解説します。
定期監督を拒否することはできませんが、仮に拒否してしまった場合どうなるのかを知っておくことは大切です。また、労働基準監督署への望ましい対応や、定期監督でやってはいけないことなどについてもお伝えしますので、いつ訪れるかわからない定期監督に備えて確認しておきましょう
目次
定期監督とは
定期監督とは、労働基準監督署が行う立ち入り調査の一つ。厚生労働省が毎年春に作成する方針に基づいて、労働基準監督署が対象となる事業場を選別します。
定期監督は、
労働者からの申告によらない定期監督を行うことで、労働基準関係法令違反による弊害を予防したり、最小限に抑えたりするのが目的です。
定期監督の拒否はできない
労働基準監督署の定期監督を拒否することはできません。労働基準監督官が行う調査の権限は、労働基準法や安全衛生法に定められています。調査を拒否したり、調査で虚偽の申告や報告を行ったりすると、罰金や刑事罰を科せられることもあります。
定期監督を受けやすい企業
定期監督を行う企業は、先述の通り、労働基準監督署によって選定されます。中でも調査の対象となりやすい企業には以下のような特徴があります。
・規模が大きい企業
・過去に労災を起こしている企業
・36協定の特別事項における協定時間が長い企業
・毎年労働基準監督署に届け出が必要な書類(36協定・裁量労働制の協定など)が提出されていない企業
・労働基準法等の改正があった際に就業規則の変更届けが提出されていない企業
・各都道府県労働局の行政運営方針でその年に重点的に調査を行うと決められた業種
労働基準監督署への対応
労働基準監督署への対応で最も大事なことは、できるだけ誠実な対応を心がけること。日頃から労働基準関係法令を遵守した体制を整えておくことが何より大切ですが、不安があるからといって調査の拒否や連絡の無視などはやめましょう。予告なく定期監督にやってきた場合と、労働基準監督署への呼び出しがあった場合、どのように対応すれば良いか解説します。
予告なく定期監督にやってきた場合
労働基準監督官が予告なく定期監督にやってきた場合、どうしても調査を受けられない場合を除いては、調査を受け入れ、可能な限り誠実に対応しましょう。労働基準監督官が調査を行う際の事業所内への立ち入りは、建造物侵入罪にあたることはありません。
ただし、業務中であることや、労務の担当者が不在の場合も考えられます。その場合、誠実にその旨を伝えると後日訪問の日程調整をしていただけることがあります。
労働基準監督署から呼び出しがあった場合
労働基準監督署から呼び出しがあった場合の対応は、確かに任意とされていますが、理由なく拒否したり無視し続けたりするのは得策ではありません。
労働基準監督署からの心証が悪くなるのはもちろん、事業場に後日連絡が入ったり、抜き打ちで労働基準監督官からの調査が入ったりする場合があります。調査に協力的でないと判断して、労働基準監督署側が厳しい姿勢で調査を行うことも考えられます。
その後の調査などに悪影響を与えないよう、労働基準監督署に呼び出された場合には、速やかに出向くようにしましょう。
定期監督を拒否した場合に起きること
何の連絡もなくいきなり担当者がやってくるため、定期監督に関する知識がないと、労働基準監督官を社内に入れることなく帰してしまう場合もあるようです。しかし、定期監督を拒否した場合には、以下のような罰則等を科される可能性があります。
30万円以下の罰金を課される可能性がある
労働基準監督官の調査を拒んだり、嘘の陳述をしたりした者には30万円以下の罰金を科す旨が、労働基準法に定められています。以下が労働基準法第120条の内容です。
『次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。(中略)第101条(第100条第3項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者』【引用:労働基準法 第120条】
強制捜査を受ける可能性がある
労働基準監督官には、定期監督などの調査を行う権限以外にも、労働基準関係法令の違反に関する罪において司法警察官と同じように犯罪捜査ができる権限が認められています。裁判官からの捜査差押許可状の発行を受ければ、事業場への強制的な立ち入り、逮捕、差し押さえ、送検などを行えるのです。この権限は労働基準法102条に定められています。
『労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う』【引用:労働基準法第102条】
対応できない場合は日程の変更を
労働基準監督官が予告なくやってきたために担当者や代表者が不在だった場合には、再来訪をお願いしましょう。ただしその場に、定期監督で確認が必要な書類の保管場所がわかる従業員がいる場合には、担当者や代表者が不在でも調査を実施できることがあります。
通知書が事前に届いた場合には、すぐに労働基準監督署に連絡をすることで、日程変更に応じてもらいやすくなります。しかし、度重なる日程変更や直前になってからの変更などは、何らかの事情により調査を拒否していると判断されることもありますので注意が必要です。
定期監督の流れ
ここでは、定期監督の大まかな流れを紹介します。流れを知っておけば、いきなり労働基準監督官が事業場にやってきたときにも慌てずに対応することができます。
会社の規模にもよりますが、大抵の場合は1〜2時間程度で終了します。出席者は、提出資料の内容を説明できる総務・人事関係の担当者が望ましいです。社会保険労務士に顧問を受けている場合には、可能であれば同席してもらいましょう。
①帳簿や書類などの確認
会社の就業規則や賃金台帳をはじめとする書類の確認を行います。
②事業主や労働者への聞き取り調査
① の不明点や真偽の確認などを行うため、必要に応じて事業主・社長・労働者などにヒアリングが行われます。
③事業場内への立ち入り調査と労働者への聞き取り調査
実際の事業場に立ち入り、労働者の労働環境を確認したり労働者へのヒアリングを行ったりすることで、実態を把握します。
④口頭での指導や指示
調査の結果から、口頭での指導や今後についての指示が行われます。
調査で問題が判明した場合
定期監督による調査の結果、問題が判明した場合には、以下のような措置が行われます。
使用停止等命令書の交付
使用停止命令書は、施設や設備の不備・不具合によって、緊急に使用を停止しないと労働者の生命や身体に危険を及ぼす恐れがあると判断された場合に交付されます。使用停止命令書には法的拘束力がありますので、交付された場合には、緊急で使用の停止または改善を行わなければなりません。
是正勧告書・指導票の交付
是正勧告書は、労働基準関係法令の違反を指摘し、過去に遡って問題の是正を求めるために交付されます。調査の際に口頭での指導や指示が行われますが、より問題が重大だった場合に書面での指導が行われるのです。
指導票は、労働基準関係法令の違反はないものの、現状が望ましくなく改善が必要と判断された場合に交付されます。
使用停止命令書・是正勧告書・指導票を交付された後の対応
使用停止命令書・是正勧告書・指導票が交付された場合には、定められた期日までに指摘された点を改善し、労働基準監督署に報告書を提出する必要があります。
使用停止命令書と違って、是正勧告書と指導票には法的拘束力はありません。しかし使用者が問題点を放置して改善せずにいたり、労働基準関係法令の違反が原因で労災が発生したりした場合には、検察庁に送検され刑事処分となることもあります。
定期監督で調査される書類
定期監督で調査される書類は以下の通りです。場合によっては追加で提出を求められることもあります。
・会社の組織図
・就業規則
・労働者名簿
・雇用契約書(労働条件通知書)
・賃金台帳(賃金明細書)
・労働時間の記録(タイムカードや出勤簿)
・時間外労働や休日労働に関わる協定届け(いわゆる36協定)
・労働者別の時間外労働や休日労働に関する実績がわかる資料
・有給休暇申請書・有給休暇管理簿
・特殊な定めをしている場合(変形労働時間制・フレックスタイム制など)の労使協定
・健康診断の結果(健康診断個人票)
・安全衛生管理に関する管理体制の組織表
・安全委員会・衛生委員会の設置や運営状況がわかる資料
・ストレスチェックの記録
・産業医の選任に関する資料や面談の記録
定期監督に備えた資料の整備や、健全な労働者の雇用を行うには、各々の企業に合わせた対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
よくある是正勧告の例
実際に多く出される是正勧告の内容を知っておくことで、事前の対策に役立てましょう。主に以下の6つが挙げられます。
・長時間にわたる労働
36協定を超える長時間労働がなされている場合に指導が行われます。
・安全基準
労働者が50名以上いる会社の場合には、衛生管理者・安全管理者・産業医などが必要です。それらの人材が選任されていない場合に指導が行われます。
・健康診断
法律上で定められている健康診断を、労働者に受けさせていない場合に指導が行われます。
・割増賃金が支払われていない
割増賃金が未払いになっている場合、労働者に対して支払うよう指導が行われます。
・労働条件
労働者を雇用するために必要な契約書や、労働条件の通知書などの不備を指摘し改善させるために指導が行われます。
・就業規則
就業規則に記載しなければならない事項の不足や、労働者代表の意見書を取得する手続きの不備などに対して指導が行われます。
定期監督でやってはいけないこと
定期監督の際にやってはいけないことを4つお伝えします。事前に確認して、いつ訪れるかわからない定期監督に備えましょう。
調査の拒否や呼び出しを無視すること
先述している通り、労働基準監督官による調査を拒否したり、労働基準監督署への呼び出しを拒否したりするのは絶対にやめましょう。
横暴な態度をとること
労働基準監督官に対して、横暴な態度や挑発的な態度をとるのもNGです。もし、労働基準関係法令に違反していた場合には、会社側の非を認め、改める姿勢を見せることが大切。
労働基準監督官も人間ですから、横暴な態度をとられることで、指導が厳しくなったり長引いたりすることも考えられます。真摯な態度で調査に臨み、素直に指導に応じましょう。
嘘をつくこと
労働基準監督官からの質問に、嘘をつくのもやってはいけない行為です。虚偽の内容を報告した場合には、30万円以下の罰金が科せられます。(労働基準法第120条)また、悪質だと判断された場合には後々送検される場合もありますので、十分注意が必要です。従業員に嘘の供述をするよう強要することも、同様に悪質であると判断されます。
書類の改ざんや隠蔽
元々なかった書類を以前からあったかのように作ったり、事実と異なる内容に改ざんしたりするのも行ってはいけないことです。書類の改ざんや隠蔽も30万円以下の罰金が科せられます。(労働基準法第120条)
書類を作成していない場合や紛失してしまった場合には、その旨を調査の際に申し出ましょう。
定期監督に関するご相談は社会保険労務士まで
労働基準監督官によって行われる定期監督を拒否することはできません。万が一拒否した場合には、その後の調査が厳しくなったり、刑事罰に処されたりする可能性もあります。
定期監督は予告なく突然やってくるので、日頃の備えが何より大切です。
今回解説した「労働基準監督官による定期監督」に関して、少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、労働基準関係法令の遵守に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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