中小企業も対象に!時間外労働の割増賃金率引き上げとは
- 2022.10.28 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。
2023年4月以降、時間外労働の割増賃金率引き上げが行われるのをご存知でしょうか?
これまで中小企業の割増賃金率は大企業と比べて猶予がありましたが、それがなくなる、という内容です。
中小企業にとっては負担や手間が増えるかもしれない耳の痛い話かもしれません。
そもそもどういった内容なのか?対策は?など、今回は中小企業も対象となる時間外労働の割増賃金率引き上げについて解説します。
目次
時間外労働の割増賃金率引き上げ法改正の概要
労働基準法では、これまで法定割増賃金率は月60時間以内の時間外労働について25%以上、月60時間を超える時間外労働について50%以上とする、中小企業においては月60時間を超えても割増率は25%と猶予がありました。
しかし、法改正により、2023年4月以降、その猶予措置終了となることになりました。
つまり、中小企業においても大企業同様、法定割増賃金率は月60時間以内の時間外労働について25%以上、月60時間を超える時間外労働について50%以上となる、という内容になります。
対象となる企業とは?
2023年4月以降、中小企業を含む全ての企業が対象となります。
次に、中小企業の範囲、定義について確認していきましょう。
中小企業の定義について
中小企業の定義とは、労働基準法第138条を元に定義すると、以下の企業を指します。
・資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする企業については5000万円、卸売業を主たる事業とする企業については1億円)以下
・常時使用する従業員の数が300人(小売業を主たる事業とする企業については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする企業については100人)
該当する企業については2023年4月より法定割増賃金率の猶予がなくなると認識しておきましょう。
法改正の背景
前述したように、これまで中小企業に適応されていた時間外労働の割増賃金率(月60時間を超えても割増率は25%)は2023年4月からはこの猶予が廃止となります。
その背景には、働き方改革関連法の成立があります。
中小企業においても、時間外労働の負担を減らすこと、また時間外労働分においての補償をし、ひいては企業の業績向上をはかることが狙いです。
どう変わるのか?法定割増賃金率引き上げで中小企業が対応すべきこと
さて、中小企業の皆様にとっては賃金の負担が増えるのではないか?対策が必要なのではないか?と頭を抱えているかもしれません。
まずは状況を整理し、法改正までに対応すべきことを順を追って理解していきましょう。
取り組みなどを難しく感じた場合、社会保険労務士法人中込労務管理でもサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
法改正前までに対応すること
法定割増賃金率引き上げによって、大きく変わっていくのは就業規則の変更、残業代などの人件費が挙げられます。
賃金に関する問題はしっかり理解する必要がありますので、法改正前までに対応すべきことを次にご紹介していきます。
労働時間が適正かどうかを確認する
まずは、現状の従業員の労働時間が適正かどうかを確認する必要があります。
時間外労働時間がある場合は、労働時間の適正化を行います。
例えば、特定の従業員に業務負荷がかかっていないかなど、業務の見直しを行います。
業務を平準化することにより、時間外労働が60時間以内に収まるようであれば、残業代などの負担が増えることもありませんので、まずは労働時間の適正化できることからはじめましょう。
業務効率化を図る
労働時間の適正化、業務の平準化を図っても、時間外労働が発生する場合、業務の効率化を行うことも視野に入れるといいでしょう。
システムや機械の導入、業務をマニュアル化するなど効率化を図ることによって作業時間が減り、労働時間短縮に繋がる可能性があります。
代替休暇の導入を検討
代替休暇とは、時間外労働の代わりにお休みを与えることです。
制度を利用する場合、労使協定を結ぶ必要があります。
36協定を労使で合意
労働時間が超過する場合、そもそも、労働基準法においては、休憩時間を除いて1週40時間、1日8時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならないとの規定があります。
それを超えて労働させる場合は、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出をしなければなりません。
時間外労働があり、36協定を労使で合意していない企業は36協定を締結し、届け出する必要があります。
違反した場合のリスクを解説。対応できていない企業に罰則はあるのか?
従業員に時間外労働をさせた場合、企業は割増賃金を支払わなくてはいけないと労働基準法で定められています。
これに違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。(労働基準法37条1項、119条1号)
時間外労働の割増賃金率引き上げ法改正以降の実務に関するよくあるご質問
では次に、時間外労働の割増賃金率引き上げ法改正以降の実務について、具体的な対応をFAQ形式で解説いたします。
給与計算の方法は従来と変わるのか?
時間外労働が月60時間を超えた場合、中小企業においても割増賃金率の猶予がなくなるため、時間外労働が月60時間を超えると給与計算に変動が生じます。
時間外労働が月60時間を超えない場合は従来通りとなります。
具体的な計算方法は次にご紹介いたします。
時間外、休日・深夜労働をさせた場合の割増賃金率の計算方法
時間外、休日・深夜労働をさせた場合について、具体的な割増賃金率の計算方法をご紹介いたします。
◆時間外労働(月60時間を超過しない場合)
法定労働時間を超過した時間外労働には、1日あたりの賃金に25%を割り増して計算します。
1日あたりの賃金が1,500円だとした場合、以下のような計算をします。
1,500円×1.25=1,875円
つまり、1時間あたりの時間外労働割増賃金は1,875円という計算です。
◆休日労働させた場合
通常、法定休日労働させた場合の労働には、35%を割り増して計算します。
月60時間の時間外労働時間の算定には、法定休日に行った労働時間は含まれていません。
しかし、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。
1日あたりの賃金が1,500円だとした場合、以下のような計算をします。
1,500円×1.35=2,025円
これが、法定休日労働させた場合の1時間あたりの割増賃金となります。
◆深夜労働をさせた場合
深夜労働とは、深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせる労働を指します。
通常、深夜労働をさせた場合の労働には、25%を割り増して計算します。
そこに、月60時間を超える時間外労働をした場合は深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%として計算します。
1日あたりの賃金が1,500円だとした場合、以下のような計算をします。
1,500円×1.75=2,625円
深夜労働の1時間あたりの割増賃金は1,875円になります。
月60時間を超過した場合の割増賃金率の計算方法
月60時間を超えた分には、2023年4月以降、中小企業も50%を割り増して計算します。
1日あたりの賃金が1,500円だとした場合、以下のような計算をします。
1,500円×1.5=2,250円
月60時間を超過した場合の割増賃金は1時間あたり2,250円となります。
休日の扱いは従来と変わるのか?
休日の扱いは従来通りになります。
ただし、一ヶ月60時間を超えた分の時間外労働については企業は「代替休暇」を付与することができます。
代替休暇を付与することで、企業は法定割増賃金率「引き上げ分」の割増賃金の支払いを、有給の休暇に代えることができる、という訳です。
代休を取得させる方法
代替休暇を付与したからといって、必ずしもその利用を従業員に強制はできません。
つまり、代替休暇の取得は従業員の判断によるものになります。
なお、代替休暇の時間数については下記のように計算します。
代替休暇の時間数=(1ヶ月の法定時間外労働時間-60)×換算率
※換算率…「代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率」と「代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率」の差
労働時間の管理はどうすべきか?
時間外労働の割増賃金率引き上げにおいて、最も重要なことは労働時間の管理といえるでしょう。
法改正前に、労働時間の適正化を行うためにも、現状の労働時間を正確に把握する必要もあります。
労働時間の把握、分析のためにも勤怠管理システムなどの導入を検討してみるのもひとつの手段であるといえます。
時間外労働の割増賃金率引き上げは専門家と二人三脚で対応!
いかがでしたでしょうか?
今回、時間外労働の割増賃金率引き上げについて解説いたしました。
2023年4月というと先の話のように聞こえますが、確認すべきこと、実施すべきことも多く、あっという間に期日がきてしまうことも想定されます。
法改正は社内の整備に手間もかかりますが、今回の改正でいけば企業は時間外労働を減らすチャンスともいえます。
時間外労働が減れば、企業の負担も従業員の負担も減り、メリットも大きな話です。
よりよい職場環境の実現にもなります。
一人で難しくとも、労務のプロと二人三脚で進めることで現実になっていきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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