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長時間労働を是正するための「働き方改革のポイント」と「対策」

2022.10.28 お知らせ・セミナー情報コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は「長時間労働の是正」をテーマに、働き方改革のポイントや企業に求められる対応などを解説します。

2019年から順次施行されている働き方改革でも、長時間労働の是正に関与する内容は多く、長時間労働をなくそうという動きの活発化が見て取れます。長時間労働が常態化している企業は早急に対応する必要があるでしょう。

いったん長時間労働を改善できたとしても、その後再び長時間労働が多くなってしまうようでは意味がありません。長時間労働を根本的に是正するためには、企業をあげて対策を講じることが大切です。

「長時間労働をどうにかしたい」とお考えの方は、ぜひ参考にしてください。

長時間労働の基準とは?

「長時間労働の是正」を理解するための予備知識として、まず「長時間労働の基準」についてお伝えします。

そもそも、どのくらい働くと長時間労働にあたるか知っていますか?実は、明確に「〇〇時間以上」と定義されているわけではありません。法律や裁判例を見ても明確な基準はわかりません。

そこでここでは、健康被害を及ぼす可能性のある労働時間の目安を紹介します。

現在の労働行政では、月80時間が過労死ラインともよばれており、長時間労働と健康被害の因果関係が認められやすい基準となっています。 

労働時間の実態

次に、日本における労働時間の実態についても触れておきましょう。

厚生労働省の調査によると、総実労働時間は1960年をピークに減少しています。1960年には年2,400時間を超えていた労働時間ですが、2000年には1,850時間程度に、2020年には1,700時間を下回るほどになっています。

また総務省の調査によると、長時間労働者の割合も減少傾向です。1週間の就業時間が 60 時間以上の人の割合は、20032004年の12.2%をピークに減少しており、2018年には6.9%にまで減少しました。

一方で、最近は在宅勤務による長時間労働も懸念されています。

2020年頃から、新型コロナウイルス感染拡大の影響により在宅勤務を行う人が増えました。自宅での勤務は働き方が見えづらく、知らず知らずのうちに長時間労働となってしまうことも多いようです。

日本労働組合総連合会の調査によると、調査対象となったテレワーク経験者のうち半数以上が「通常時よりも長時間労働になることがあった」と回答。「時間外・休日労働をしたにも関わらず申告していない」と回答した人は6割以上に上ります。

今後は、オフィスでの勤務に加え、在宅勤務でも長時間労働にならない仕組みが求められるでしょう。

従業員の長時間労働は、企業にとってもリスクがあります。労働力に関するリスクと費用に関するリスクにわけて解説します。

労働力に関するリスク

労働時間が長くなると心身の健康に悪影響を及ぼすことがわかっています。長時間労働により食生活が乱れたり睡眠時間が減ったりすることで疲労感が蓄積し、身体面にも精神面にも苦痛が生じるのです。

軽度の段階でケアできずに長時間労働を続けると、状態は益々悪化します。入院治療が必要となるケースも出てくるため、企業としては貴重な労働力を欠くことになってしまうでしょう。

また疲労感の蓄積により、思考力や集中力、やる気なども低下します。このような状態で仕事に取り組んでもモチベーションは上がりません。業務効率も悪くなり、生産性も低下してしまうでしょう。

このように身体面や精神面に苦痛を感じると、離職を希望する人も増えてきます。人材を確保しなければ事業が成り立ちませんので、企業は新たな人材を雇用することになります。しかし、新たな人材が業務を覚えるまでには時間が必要です。生産性が低下することは避けられないでしょう。

さらに、長時間労働が常態化している企業はSNSで悪評が広がるリスクもあります。特に若年層は就職・転職活動においてSNSを活用する人が多いです。「ブラック企業」として認知されてしまうと、企業の将来を担う若年層に入社してもらえなくなることも考えられます。

費用に関するリスク

従業員の労働時間が長くなると、残業代が発生します。法定労働時間(18時間・週40時間)を超えた部分は、割増賃金として支払うことになるため大きな負担です。

長時間労働が多くなり従業員の標準報酬が増加すると、企業が負担する社会保険料も高額になりますし、全社員の賃金の総額から算出される労災保険料の負担も大きくなります。

長時間労働の是正につながる働き方改革のポイント

労働環境を見直し、すべての人が働きやすい社会を作るために、20194月から働き方改革が順次施行されています。

働き方改革のうち「長時間労働の是正につながるポイント」は以下の8点です。

・時間外労働に上限規制を導入

・年次有給休暇の取得の義務付け

・高度プロフェッショナル制度の導入

・労働時間の客観的把握の義務化

・勤務間インターバル制度

・同一労働同一賃金の確保

・フレックスタイム制の⾒直し

・割増賃金引き上げ

時間外労働に上限規制を導入

働き方改革では、時間外労働に上限規制が導入されました。

今までも時間外労働に上限はあったものの、それを超えたとしても罰則などがなかったため、長時間労働を制限するには至りませんでした。

働き方改革を機に、時間外労働の上限が月45時間・年360時間以内と定められ、超えた場合には罰則が設けられました。原則、企業はこの時間数を超える時間外労働を従業員にさせてはいけません。

ただし、「特別条項付き36協定」を締結し届け出をおこなった場合は、例外も認められます。例外が認められるのは、「決算締めによる業務増大」「大規模クレームが発生した場合の対応」など臨時的な事情の場合に限られます。

なお、特別条項付き36協定を締結したからといって、青天井で時間外労働が認められわけではありません。加えて、以下のような細かい規定が設けられていますので、しっかりと確認しておきましょう。

・時間外労働:年720時間以内

・時間外労働と休日労働の合計:月100時間未満、かつ23456か月間それぞれの平均がすべて80時間以内

年次有給休暇の取得の義務付け

働き方改革では、従業員に年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。

今までも年次有給休暇の制度はありましたが、同僚への気兼ねや請求しにくい職場風土などを理由に、あまり取得されていませんでした。

ですが、労働者のリフレッシュに効果的な年次有給休暇は、健康に仕事を続けるために必要なものです。従業員に年次有給休暇を取得させること義務付けることで、従業員が健康に働き続けられることをめざしています。

この義務を負うのはすべての企業です。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日、時季を指定して与えなければなりません。なお、年次有給休暇を年5日取得させなかった場合には罰則が科されることもあります。

高度プロフェッショナル制度の導入

働き方改革では新たに、高度プロフェッショナル制度が導入されました。

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識が必要な業務に携わる労働者を対象に、労働基準法に即した労働時間や休日及び深夜の割増賃金などの規定を適用しない制度です。

高度プロフェッショナル制度の対象となっているのは、高度な専門知識や技術が必要で、労働時間と成果の関連性が薄い業務です。たとえば、金融商品の開発や資産運⽤の業務、研究開発といった業務がこれにあたります。

なお、高度プロフェッショナル制度の対象業務であっても、以下の要件を満たしていなければ制度を適用できません。

・労使間の合意に基づき、職務内容が明確に定められていること

・年収が1,075万円以上であること

高度プロフェッショナル制度の導入によって、対象業務をおこなう労働者は今までよりも労働時間の調整がしやすくなります。労働者のモチベーションアップも期待できるため、生産性の向上といった企業にとってのメリットもあるでしょう。

労働時間の客観的把握の義務化

働き方改革では、労働時間を客観的に把握することが義務化されました。

高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者の労働時間が対象となっているので、たとえばパートやアルバイト、派遣労働者などの労働時間も対象です。雇用形態や勤務時間などにかかわらず、ほぼすべての労働者の労働時間を把握することが必要です。

把握する労働時間とは、「使用者から義務付けられた行為をおこなっている時間」を意味しており、朝礼や始業前の体操、終業後の清掃なども含みます。単に業務に取り組んでいる時間をさすのではありませんので注意が必要です。

勤務間インターバル制度

働き方改革では、勤務間インターバル制度の導入が企業の努力義務とされました。

勤務間インターバル制度とは、終業から翌日の始業までの間に十分な休息時間(インターバル)を設ける制度です。国はインターバルの目安を911時間としています。

 

引用元:東京労働局

インターバルを一定時間確保するには、以下のような方法が考えられます。

・残業で終業時間が遅くなった場合は、翌日の始業時間を後ろ倒しにする

・ある時刻以降の残業や、始業前の勤務を禁止する

引用元:東京労働局

上の図のように、終業時間が遅くなった場合に翌日の始業時間を後ろ倒しにするとなると、所定労働時間とインターバルが重複するケースも考えられます。勤務間インターバル制度を導入するには、この場合の扱い方を検討しておく必要があるでしょう。

同一労働同一賃金の確保

働き方改革を機に、パートや派遣などの「非正規雇用労働者」と「正規雇用労働者」との間の不合理な賃金格差を解消するべく、同一労働同一賃金の実現に動き出しています。

今までは同じ職場で同じ業務をしていても、雇用形態によって賃金に差が生じていました。今後は、雇用形態にかかわらず適正に評価される環境を作り、自分に合う働き方を自由に選択できることが期待されています。

 

フレックスタイム制の⾒直し

働き方改革では、フレックスタイム制が見直され、制度を活用できる期間(清算期間)が今までの1か月から最長3か月にまで延長されました。

そもそもフレックスタイム制は、日々の始業や終業時刻を労働者が選べるという柔軟性が特徴です。それに加え、清算期間が延長されたことで、今まで以上に柔軟な働き方が可能になります。

割増賃金率の引き上げ

働き方改革では、月60時間を超えた時間外労働に対して割増賃金率が引き上げられることになりました。大企業ではすでに適用されていますが、中小企業でも20234月から適用がスタートします。

割増賃金率が引き上げられるのは、時間外労働のうち月60時間を超えた部分です。月60時間以内の部分については、今まで通り25%であるのに対し、月60時間を超えた部分は50%と大幅に引き上げられることになります。

たとえば、月70時間時間外労働をさせた場合、60時間分は25%、10時間分は50%の割増賃金率が適用されるということです。

20234月以降は今までよりも割増賃金の算出が複雑になります。「自社で対応するのが難しい……」「専門家にまかせたい」とお考えの場合は、社会保険労務士法人中込労務管理にご相談ください。

従業員の長時間労働を是正するための具体的な方法

働き方改革による変更点を踏まえ、それぞれの企業が、従業員の長時間労働を防ぐために何ができるのかを考える必要があります。本章では、以下の5つの方法を提案します。

・労働時間を把握する

・新しい勤務制度を導入する

・人事評価制度を見直す

・管理職の意識を変える

・トップが積極的に指針を示す

労働時間を把握する

長時間労働の是正には、労働時間を客観的に把握することが重要です。

始業・終業時刻の自己申告制を採用している企業もあるでしょうが、それだけに頼っていると知らず知らずのうちに長時間労働になってしまうこともあります。客観的に記録できるツールの導入なども検討してみるとよいでしょう。

特に、在宅勤務は労働時間が増えやすいにもかかわらず、適正に管理することが難しい環境です。パソコンの操作時間と勤怠管理システムを連携させるなど、労働時間を客観的に把握できる仕組みづくりが求められるでしょう。

新しい勤務制度を導入する

長時間労働を是正するには、フレックスタイム制や裁量労働制、テレワークなどの柔軟な働き方を導入するのも効果があります。また、勤務間インターバル制度を導入したり年次有給休暇の取得を促進したりして、従業員にしっかりと休息をとってもらうことも有効です。

自分に合う柔軟な働き方や適度なリフレッシュは、仕事のモチベーションアップも期待できます。業務効率がよくなり、長時間労働の是正につながるでしょう。

人事評価制度を見直す

長時間労働を是正するには、人事評価制度を見直すことも大切です。

「成果」に重きを置いて評価している企業もあるでしょうが、それだけで十分とは言えません。「残業してでも成果を上げて評価されたい」といった考えの労働者がいると、労働時間が長くなってしまうリスクがあるからです。

長時間労働を防ぐには「効率のよさ」がポイントになります。「時間あたりどのくらいの成果を出したのか」を重視した評価に変えれば、長時間労働の是正につながります。

管理職の意識を変える

長時間労働を是正するには、管理職層の意識を変える必要もあります。

管理職層には、長時間労働が当たり前とされていた世代も多いです。そのため企業は、長時間労働に関する研修などをおこない、意識を変えていくサポートをしましょう。

また、管理職層が部下の適性を判断して業務を指示できれば、部下の長時間労働を防げます。

部下の適性を正しく判断するには、管理職層と部下のコミュニケーションも大切です。コミュニケーションを促すと同時に、部下とのかかわり方についても研修などをおこなうとよいでしょう。

トップが積極的に指針を示す

長時間労働を是正するには、企業のトップが積極的に指針を示す必要があります。

この際、「残業は月〇〇時間まで」「金曜日はノー残業デー」などのように具体的に指針を示すと、従業員が従いやすくなります。

長時間労働の風土が根付いている場合、いくら残業を減らすよう呼びかけたとしても、従業員としてはなかなか実行しにくいものです。

こういった場合は、企業のトップや管理職層などが率先して行動してみてください。早く帰ったり年次有給休暇を取得したりしやすい社内風土を作ることが大切です。

長時間労働を是正するには仕組みづくりが必要

働き方改革をきっかけに、長時間労働について厳しく制限されることになりました。将来的にも、長時間労働への規制は益々厳しくなっていくと考えられます。社会の流れに合わせ、企業は長時間労働を是正するための仕組みを整えることが大切です。

 

本稿では、働き方改革のポイントや、長時間労働を是正するための方法を解説してきましたが、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、労働問題に強い専門家が対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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