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フレックスタイム制の拡充で精算期間が最長3ヶ月に!改正のポイントや注意点を解説

2023.02.07 お知らせ・セミナー情報コラム

働き方改革の一環として、フレックスタイム制についての法改正が行われ、2019年4月に施行されました。この法改正によって、フレックスタイム制が拡充され、より柔軟な働き方が可能になっています。

今回は、法改正の前と後でフレックスタイム制がどのように変わったのか、改正の内容や、制度を導入する際の注意事項などについて解説していきます。

そもそもフレックスタイム制とは?

フレックスタイム制とは、労働者が自ら業務の開始時間や終了時間を決められる制度で、仕事とプライベートのバランスを取りながら働ける仕組みです。労働時間を効率よく分配することで、生産性や業務効率をアップさせられます。

例えば、以下のような人にとって働きやすい勤務形態と言えるでしょう。
・共働きで保育園へ子どもの送り迎えをしなければならない人
・介護をしている人で、日中に何度か仕事を抜けなければならない人
・通勤ラッシュが苦手な人
・体が不自由だったり怪我をして思うように動けなかったりする人

 

フレックスタイム制の精算期間が最長で1ヶ月から3ヶ月に

これまでのフレックスタイム制では、精算期間の上限が1ヶ月と定められていましたが、今回の改正で3ヶ月まで延長できるようになりました。従来までの仕組みと改正後の違いを確認しておきましょう。

 

【従来型】フレックスタイム制の精算期間が最長1ヶ月の場合

精算期間が1ヶ月のフレックスタイム制の場合には、日単位や週単位で時間外労働が発生することはありません。1ヶ月の法定労働時間を超過した時間分が、時間外労働として割増賃金の対象となります。

【改正後】フレックスタイム制の精算期間が最長3ヶ月の場合

フレックスタイムの精算期間が3ヶ月の場合には、労働時間を3ヶ月の範囲内で調整できるようになります。

3ヶ月を精算期間とする場合、3ヶ月の所定労働時間合計を超過した場合には、企業側が割増賃金を支払う義務が生じます。一方、実労働時間が所定労働時間に満たない場合には「欠勤と扱われ賃金が控除される」または「欠勤とならないよう仕事が終わっていても労働時間に達するまで働かなければならない」などの実態がありました。

精算期間が3ヶ月に延長されたことによって、月をまたいでより柔軟に働けるようになりました。閑散期や繁忙期がある企業では、労働力を効率良く調節できるようになったのです。例えば、1ヶ月あたりの所定労働日数が22日の場合「22日×87時間50分×3ヶ月=517時間」となり、517時間を3ヶ月間で振り分けられます。

 

改正後の3つのポイント

法改正後の3つのポイントを紹介します。間違いのないよう確認し、社内で共通認識を図っておきましょう。

 

①繁忙期に偏りすぎた労働をすることはできない

精算期間を1ヶ月以上に設定する場合でも、以下の2つの条件を超えて偏った労働を行うことはできません。
(1)精算期間全体の労働時間が「週平均40時間」を超えないこと
(2)1ヶ月ごとの労働時間が「週平均50時間」を超えないこと

精算期間が3ヶ月になったことで、労働時間を柔軟に調整できるようになりましたが、(1)(2)の範囲内にとどめる必要があります。上記の時間を超える分は、時間外労働となり、割増賃金が発生します。

※労働者に時間外労働を行わせるには、36協定の締結が必要です。労働者と会社の間で協定を結び、労働基準監督署に届出を提出します。加えて、就業規則にも記載しなければなりません。

 

②精算期間が1ヶ月を超える期間に設定する場合は届出が必要

これまで、フレックスタイム制を導入する際には、労使協定の締結のみで、届出を行う必要はありませんでした。しかし改正後は、精算期間を1ヶ月超えに設定する場合は、労働者と使用者との間で結ばれる「労使協定届」を所轄の労働基準監督署へ提出しなければなりません。

これは精算期間が月をまたぐことで、労働時間が偏ることにより、従業員の健康を害する勤務形態になることがないよう監督署がチェックするためです。

 

③法的労働時間の総枠計算の特例が認められるようになった

これまでの計算方法だと、1日8時間程度の労働で完全週休2日制を採用したフレックスタイム制の場合に、曜日の巡りによって精算期間の労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまうことがありました。今回の法改正では、法定労働時間の総枠計算の特例が認められるようになったので、その違いを把握しておきましょう。

 

これまでの法定労働時間の総枠計算

例えば、労働時間は1日7時間50分で、土日休みの事業場の場合。1日(火)から始まり31日(木)が最終日、祝日の無い月について計算してみましょう。
・精算期間における総労働時間=7時間50分×23日=180.1時間
・法定労働時間の総枠=40時間×(31日÷7)=177.1時間(※)
このように、精算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまいます。残業のない働き方をしていても、上記の場合では時間外労働が発生していることになり、割増賃金の支払いが必要となっていたのです。

 

改正後の法定労働時間の総枠計算

改正後は、法定労働時間の総枠の上限を、「精算期間内の所定労働日数×8時間」とできるようになりました。これによって以下のように精算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠に収まるようになったのです。
・精算期間における総労働時間=7時間50分×23日=180.1時間
・法定労働時間の総枠=8時間×23日=184時間

 

精算期間が3ヶ月のフレックスタイム制を導入する際の注意点

フレックスタイム制の精算期間を1ヶ月超え(最長3ヶ月)に設定する場合、注意しておきたいポイントがあります。ここでは3つ紹介しますので、制度変更を円滑に進められるようお役立てください。

 

①「実労働時間」が「総労働時間」を下回った場合

精算期間において、「実労働時間」が「総労働時間」を上回った場合には、先述の通り超過した分の賃金を支払わなければなりません。しかし一方で、「実労働時間」が「総労働時間を」下回った場合には、以下の2つの対応どちらかを行います。
(1) 不足分の賃金を控除して支払う。
(2) 不足した時間分を次の精算期間に繰り越して、総労働時間に合算する。
※(2)の場合、加算後の労働時間(元々の総労働時間と不足した時間分の合計)が、法定労働時間の総枠の範囲内でなければなりません。

②各月での労働時間の管理

フレックスタイム制は、業務の開始時間と終了の時間を労働者が自由に決められる制度ですが、管理者による実労働時間の管理は必要不可欠。フレックス制の導入によって、労働時間の集計が複雑になる場合も多いです。法違反に当たらないためにも、管理体制を整えましょう。

それぞれのケースに応じて、会社側は対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。

③業務効率が低下してしまう場合

自己管理が十分にできない社員が多い場合や、フレックス制によって社内のコミュニケーションが円滑に行われなくなった場合などには、業務効率が低下してしまうこともあります。

フレックス制を導入する際には、業務に関する取り決めを十分に検討してデメリットを最小限に抑える工夫が必要です。コアタイムやフレキシブルタイムを適切に設定したり、勤怠管理の仕組みを整えたり、またコミュニケーションを活性化させる仕組みづくりを行いましょう。

 

フレックスタイム制を導入するにあたって必要な3つの手続き

フレックスタイム制を導入する場合には、以下の3つの手続きが必要です。

①就業規則に規定する

フレックスタイム制を導入するには、「始業時間及び就業時間を労働者の決定に委ねる」旨を就業規則に明記する必要があります。

 

②所定の事項について労使協定に定める

以下の内容について労使協定に定める必要があります。

(1)対象となる労働者の範囲

フレックスタイム制の対象となる労働者が「全従業員」とは限りません。「〇〇部署の職員」や、個別に「△さん、□さん、・・・」となる場合もあります。全従業員、部署ごと、課ごと、グループごと、各々など対象となる労働者の範囲を明確にしましょう。

(2)精算期間

これまでは、精算期間が1ヶ月までと決まっていましたが、上限を3ヶ月に定められるようになったため、自社に最適な精算期間を定めましょう。

(3)精算期間の起算日

精算期間を決定したら、起算日も決定します。

(4)精算期間における総労働時間(所定労働時間)

精算期間における総労働時間とは、いわゆる所定労働時間のこと。労働者が精算期間で労働すべき時間として定められた時間です。フレックスタイム制を導入する場合には、精算期間を一つの単位として、所定労働時間を定めます。精算期間における総労働時間を定める方法は以下の3つです。

① 計算式に当てはめて割り出す
計算式に当てはめると以下のようになります。
「精算期間における総労働時間≦{精算期間の暦日数÷7日}×1週間の法定労働時間(40時間)」
上記の計算式に当てはめて割り出した精算期間の暦日数による法定労働時間の総枠は以下の通りです。

1ヵ月単位
31日 177.1時間
30日 171.4時間
29日 165.7時間
28日 160.0時間

 

2ヵ月単位
62日 354.2時間
61日 348.5時間
60日 342.8時間
59日 337.1時間

 

3ヵ月単位
92日 525.7時間
91日 520.0時間
90日 514.2時間
89日 508.5時間

 

② 「1ヶ月〇時間」と精算期間を通して一定の時間を定める
「1ヶ月160時間」などと、精算期間を通して毎月一定の労働時間を定める方法もあります。

③ 所定労働日1日あたり〇時間と決める
精算期間における所定労働日を定めて、「1日あたり〇時間」と所定労働時間を定めることもできます。

(5)標準となる1日の労働時間

標準となる1日の労働時間は、「精算期間における総労働時間÷精算期間の所定労働日数」で割り出した時間です。労働者が年次有給休暇を取得した際に、支払われる賃金を算定するための基準となります。
フレックスタイム制で働いている労働者が有給休暇を取得した場合、この標準となる1日の労働時間を労働したものとして賃金を支払います。

(6)コアタイム(必要な場合のみ)

コアタイムとは、労働者が1日の中で必ず業務に当たらなければならない時間です。必ず定めなければならないわけではなく、企業の実態に合わせて設定することができます。「コアタイムがある日とない日を作る」「曜日によってコアタイムの時間帯を変える」なども可能です。

コアタイムが長すぎてフレキシブルタイムが短すぎる場合には、フレックスタイム制とは言えなくなるので、注意しましょう。コアタイムの時間が、1日の労働時間とほぼ同じになっている場合には見直しが必要です。

コアタイムを設けない場合、出勤日も労働者が自由に決められますが、所定休日を定めておく必要があります。

(7)フレキシブルタイム

フレキシブルタイムは、労働者が自分で労働するかどうかを決定できる時間帯のことで、コアタイム同様、必ず必要というわけではありません。フレキシブルタイムの時間帯も協定で自由に定めることができます。

※各事項の詳細については「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き〜厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署〜」のp10〜12をご参照ください。

③労働基準監督署に労使協定の提出が必要な場合

1ヶ月を超える精算期間を設定する場合には、労使協定を所轄の労働基準監督署に提出しましょう。提出していないと、30万円以下の罰金が科せられることがありますので注意が必要。精算期間を1ヶ月以内にする場合には、届出は不要です。

 

フレックスタイム制の拡充に関するご相談は社会保険労務士まで

2019年4月に施行されたフレックスタイム制の拡充で、精算期間を3ヶ月まで延長できるようになりました。月をまたいで柔軟に働けるメリットがある反面、労働時間の管理が複雑化する問題もあります。精算期間を1ヶ月超えに設定する場合には、勤怠管理システムを整えて、時間外労働の処理を正確に行うことが大切です。

今回解説した「フレックスタイム制の拡充」について、少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、フレックスタイム制に強い専門家が対応させていただきます。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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