在宅勤務導入時の就業規則の改正&新規定作成の方法!ポイント・手順も解説
- 2021.12.23
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、企業が在宅勤務・テレワーク制度を導入する際の就業規則の見直しや改正方法などについて解説していきます。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が取り入れることとなった在宅勤務。今後も在宅勤務やテレワークの継続を続ける企業も少なくありません。社内に在宅勤務を行う従業員がいる場合には、それを加味した内容に就業規則を改正しなければならないと法律で義務付けられています。在宅勤務制度を取り入れる場合には、出社を前提とした就業規則を改める必要があるのです。
この記事では、在宅勤務やテレワークを導入する際の就業規則改正の必要性や、規則を変更したり新設したりする際のポイント、手順、注意点などについてお伝えしていきます。
目次
在宅勤務を導入する際の就業規則変更・社内規定作成の必要性
在宅勤務制度の導入にあたって、社内規則やルールの策定が必要になるケースがあります。
就業規則の変更や、新規定作成の必要性について解説していきます。
就業規則を変更する必要がある場合
在宅勤務制度を導入しても、労働時間や給与、その他の労働環境が同じ場合には、就業規則を変更する必要はありません。しかし、在宅勤務の導入に伴って、従業員に通信費を負担させる場合や、始業・終業、休憩時間などの変更、フレックスタイム制度・みなし労働時間制度を新しく導入する場合には、就業規則の変更が必要です。また、通勤手当や在宅勤務手当を導入する際にも、就業規則の変更を行う必要があります。
「テレワーク勤務規定」を新たに作成するとわかりやすい
就業規則の変更が必要となる場合には、在宅勤務に関する内容を既存の就業規則に盛り込む方法と、新たに「テレワーク勤務規定」を作成する方法があります。どちらにするかはそれぞれの会社の判断に委ねられていますが、わかりやすさを考えるとテレワークに関する事項をまとめた「テレワーク勤務規定」を作成するのが良いでしょう。
「テレワーク勤務規定」は、会社で取り入れるテレワークの形態によって、「在宅勤務規定」「サテライトオフィス勤務規定」「モバイル勤務規定」の3つに分かれます。各会社の働き方に応じて、必要な規定を作成しましょう。(厚労省「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜」参照)
就業規則の作成義務がない会社の場合
常に従業員を10名以上雇用している会社は、就業規則を作成する義務がありますが、従業員が9名以下の場合には特に義務付けられていません。しかしこのような会社においても、社内のルールを明確にしておくのが望ましいといえます。在宅勤務制度の導入を機に就業規則に準ずるものの作成を進めましょう。
在宅勤務に関して就業規則に定める項目とポイント
在宅勤務制度の導入に伴う就業規則の変更や新規定の作成には、定めるべき項目を把握しておくことが大切です。社内規定に定めておくべき項目について解説していきますので、抜け漏れのないよう確認しておきましょう。
在宅勤務やテレワークの定義
社内における、在宅勤務やテレワークの定義を定めましょう。自宅でのみ勤務を認めるか、自宅外のサテライトオフィスなどでの勤務も認めるかなど、ルールを明確にしておきます。セキュリティ面や従業員の家庭環境などを考慮して検討してみてください。
テレワーク形態は、以下の3つに分かれています。
・在宅勤務
自宅でパソコンなどを使って業務を行う働き方です。在宅勤務は、さらに以下の2つに分けられます。
»終日在宅勤務:終日自宅で作業を行う働き方。
»部分在宅勤務:自宅での作業の他にオフィスでの作業や取引先の訪問などを組み合わせた働き方。
・サテライトオフィス勤務
勤務先のオフィス以外の場所をサテライトオフィスとし、そこでパソコンなどを使って業務を行う働き方です。サテライトオフィスが従業員の自宅に近い場所にある場合には、通勤時間の削減に効果的。サテライトオフィスの契約形態によって、以下の2つに分類されます。
»専用型:自社や、自社グループ専用として、スペースとを利用する形態。
»共用型:複数の企業がスペースをシェアして利用する形態。
・モバイル勤務
移動中の公共交通機関や車内、カフェなどを就業場所とする働き方です。時間を有効に活用でき、生産性アップにつながります。
在宅勤務やテレワークの対象者
在宅勤務やテレワーク勤務を認める対象者を明記します。例えば、全従業員、希望者のみ、勤続何年以上など、会社の実態に合わせて決定しましょう。
在宅勤務時やテレワーク時の勤務時間・休憩時間
在宅勤務やテレワークを行う際の勤務時間や休憩時間についても明記しておく必要があります。業務開始時間、終了時間、休憩時間や休憩の取り方などについて検討しましょう。また、「フレックスタイム制」や「事業場外みなし労働時間制」などを導入する場合にも、就業規則で定めて従業員全員に周知します。
勤怠の管理方法や業務状況の報告方法、連絡体制などについても明記しておきましょう。在宅勤務者やテレワーク勤務者に残業をさせない仕組みやルールづくりも大切です。残業の事前申請を取り入れたり、残業可能日数を設定したりする企業もあります。
給与・手当
在宅勤務者やテレワーク勤務者の賃金について、通常勤務の従業員と異なる扱いをする際には、就業規則に明記する必要があります。
通勤手当に関しては、在宅勤務・テレワーク勤務の頻度を基準にする方法があります。例えば、「月に〇日以上出社した場合には通勤手当を支給、出社日数がそれ以下の場合は実費清算とする」などです。
固定残業代や人事評価制度などについても検討しなければなりません。変更を行ったり、制度を新設したりする場合には、規定の追加・変更を行いましょう。
安全・衛生
従業員が心身の負担が少なく働ける環境を作るために、安全や衛生面についての規定を定めておくことも重要です。作業環境・作業管理・健康管理の3つに分けて解説します。
作業環境
従業員が健康で安全に働けるよう、「事務所衛生基準規則」「労働安全衛生規則」に従って、オフィス環境を整えなければなりません。企業側は、在宅勤務者・テレワーク勤務者に対しても、これらの規則と同等になるよう助言することが望ましいとされています。
厚生労働省による「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を参考に、以下の点についてチェックリストを準備しましょう。
・部屋の広さ
・照明の明るさ
・窓、換気設備
・室温、湿度
・机の広さや高さ
・椅子の種類や高さ
・パソコンディスプレイの明るさ など
リストを元に環境整備をルール化することで、従業員の作業環境の改善を進められます。
作業管理
作業管理に関しても規則で定めておくと安心です。1日の作業時間や連続作業時間、VDT機器等の点検については、厚生労働省による「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に基づいて、規則を検討するのが良いでしょう。
健康管理
在宅勤務者やテレワーク勤務者の健康管理については、従業員自らが行うことが多くなります。しかし企業側としても、定期検診や雇用時の健康診断を実施しなければなりません。検診や健康相談などの実施を従業員に義務付ける場合には、就業規則の規定に追加しましょう。
費用負担
在宅勤務やテレワークを行う場合には、勤務を行う上でパソコン代・通信費・消耗品費・印刷代・光熱費などが発生します。これらの費用に関して、企業側と従業員側でどのように負担するのかを定めておきましょう。費用負担の手当として、在宅勤務手当を支給する場合には、その旨も明記しておく必要があります。
服務規律
在宅勤務やテレワーク時に必要な服務規律も新たに定めましょう。主に以下のような点について記載します。
・企業情報、顧客情報の取り扱い
・データの保管方法や取り扱い
・Wi-Fiなど公共性の高いネットワークへの接続ルール
・勤務を行う場所のルール(自宅のみ、サテライトオフィス可、カフェ可など)
・貸与パソコンの使用ルール
・貸与パソコンへのアプリインストール制限
・業務資料の持ち出し、印刷のルール
すでに社内でセキュリティガイドラインがある場合には見直しを行います。ない場合には在宅勤務・テレワークに関するガイドラインを作成し、ルールを徹底できるよう周知しましょう。作成する際には、総務省による「テレワークセキュリティガイドライン」第4版を参考にしてみてください。
教育・研修
在宅勤務・テレワーク勤務では、出社の従業員と違ってOJTの機会が少なくなるので、教育制度・研修制度を改める必要があります。出社せずに教育・研修を行うには、動画で学べる環境を整えたり、1on1を定期的に行ったりする方法があります。
在宅勤務に関する就業規則を作成する手順
①導入するテレワークの形態を把握する
在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務など、導入するテレワークの形態を明確にします。
②既存の就業規則や雇用形態で対応可能かを検証する
在宅勤務制度を導入するにあたって、現在の就業規則のままで対応が可能かどうかを検証します。もし見直しが必要な場合は、
・既存の就業規則を変更するのか
・就業規則とは別に規程として作成するのか
会社によって異なりますので、ぜひ社会保険労務士法人中込労務管理へご相談ください。各企業の状況や今後の方針をヒアリングさせていただき、適切な対応方法をお伝えいたします。
③必要な場合は「就業規則」の変更案や「在宅勤務規定」を作成する
②の検証によって、就業規則の変更や新たな規則の策定が必要と判断された場合には、案の作成に取り掛かりましょう。
④全従業員へ説明を行い、要望をまとめる
作成した就業規則の変更案や、在宅勤務規定案を用いて、全従業員への説明を行います。新しい制度の導入には、全従業員の理解や協力が必要不可欠です。在宅勤務者やテレワーク対象者だけでなく、全従業員への説明を行うのが望ましいといえます。従業員からの要望が出た場合には、まとめておきましょう。
⑤問題点を改善する
④で出た従業員からの要望や問題点があれば、改善に向けた取り組みを行います。
⑥変更または新設した規則を全従業員に周知する
従業員からの要望や問題点を含めて改善した規定を、提出前に再度全従業員に周知しましょう。
⑦所轄の労働基準監督署長へ提出する
⑥で従業員からの同意が得られたら、所轄の労働基準監督署長宛に提出します。
⑧在宅勤務の対象者に労働条件を明示する
労働契約法によって、企業側が一方的に労働者に不利益となるよう就業規則を変更することは禁止されています。在宅勤務・テレワーク対象者には、改正した就業規則や新たな規則を明示して、同意を得る必要があります。ここまで完了したら、いよいよ在宅勤務・テレワークを実施しましょう。
在宅勤務の就業規則を作成する際に注意すること
在宅勤務・テレワーク勤務制度の導入に伴う就業規則の改正や、新規規則の作成の際に、注意しなければならないことをお伝えします。改正や作成をスムーズに進めるためにも、事前によく確認しておきましょう。
就業規則は労働基準法に従って作成する
在宅勤務やテレワーク勤務の際に生じやすい時間外労働に関して、割増賃金などを適切に設定しなかった場合、深刻なトラブルにつながりかねません。就業規則を作成する際には、労働基準法の内容をよく確認し、遵守することが大切です。
在宅勤務を希望しない従業員に配慮する
在宅勤務・テレワーク制度を導入する際には、従業員の希望や各々の家庭事情などを考慮することも必要です。厚労省が定める「テレワークガイドライン」でも、“労働者本人の納得の上で、対応を図る必要がある”としています。企業側から一方的に在宅勤務を義務付けるのは、ガイドラインに反しますので注意が必要です。
従業員それぞれの事情によって、在宅勤務が難しい場合には、サテライトオフィスやコワーキングスペースを活用するなどの対策を行いましょう。
就業規則についてのご相談は社会保険労務士まで
在宅勤務制度を導入する際には、企業の規模や業務内容などを考慮して、適切な就業規則の改正を行うことが大切です。企業と従業員の間でのトラブルや労働基準法違反などを防ぐために、計画的にルールの見直しを行いましょう。
今回解説した「在宅勤務制度の導入に伴う就業規則の改定」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、就業規則に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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