余剰人員の削減!中小企業が整理解雇を行う前にやるべきこと
- 2022.03.01 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。
企業として、業績および経営状況如何では時に厳しい判断をせざるを得ないこともあります。
その一つに、余剰人員の削減があります。
人員の削減、つまりリストラとは、手法はたくさんありながらも、一筋縄ではいかない方法でもあります。
なぜなら、日本では人員削減は最後の手段として捉えられているからです。
あらゆる手段を講じた上で、それでもなお人員を減らさなければならない理由がなければなりません。
中小企業であっても例外ではなく、必要な手順を踏まなければトラブルの種が増えてしまう結果になります。
ここでは、中小企業が整理解雇を行う前にやるべきことを詳しく解説していきます。
目次
整理解雇とは?
そもそも、整理解雇と解雇はどのように違うのでしょうか。
解雇と一括りに言いますが、実は大きく3つに分類されます。
それが、「普通解雇、整理解雇、懲戒解雇」です。
普通解雇とは、従業員の勤怠不良など、従業員に債務不履行がある場合の解雇のこと。
懲戒解雇とは、企業内の刑罰により解雇されることを言います。
そして最後に、整理解雇とは、企業の経営不振、経営合理化のための人員削減を目的とした解雇、となります。
普通解雇、懲戒解雇と異なり、整理解雇には従業員に非がない場合に行う解雇となります。
従業員にとって仕事を失うことは生活に大きな影響をもたらすことになります。
従って、企業が整理解雇を実行するには厳しい要件を満たす必要があります。
日本において、解雇は簡単には認められていない
前述したように、日本においては従業員の解雇は簡単には認められていません。
なぜなら、従業員が職を失うことは死活問題になるからです。
労働契約法第16条には、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上において相当と認められた場合」に限り、普通解雇ができるとされています。
つまり、下記のような条件がなければ難しいということです。
・業務に関する能力が著しく低い
・協調性が著しく低く、業務に支障が生じている
・病気やケガ等で欠勤が続いており、業務に支障が生じている
解雇、合意退職との違い
仕事を辞める、という意味では退職という言葉もありますが、解雇と合意退職の違いを確認しておきましょう。
解雇はすでに説明済ですが、企業側から従業員への労働契約を解除することを言います。
合意退職とは、企業と従業員の間で合意のもとに労働契約を解約するものです。
従業員が労働契約の解除を希望し、企業が同意したのであれば、双方不利益がないという状態になります。
整理解雇ができる条件とは
それでは、企業が整理解雇を行う場合、成立するための要件・条件について解説いたします。
整理解雇において要求される4つの項目
企業が従業員を解雇するためには、労働契約法第16条には、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上において相当と認められた場合」に限る、と解説しました。
整理解雇は、従業員に非がない状態で一方的に労働契約を解除することになりますので、さらにその条件は厳しくなります。
整理解雇を成立するためには次に解説する4つの項目を満たしていることが必要になります。
経営上、人員削減の必要性がある
企業の運営上、経営上、人員を削減することにやむを得ない合理的な理由があるかどうか、が必要になります。
企業は、どの程度経営状態が悪化しているのかを数値や指標で明らかにし(エビデンス)、どの程度の人員削減が必要であるのかを客観的資料などで従業員や労働組合に説明する必要があります。
解雇回避努力をしている
当然ながら、整理解雇は最終手段になりますので、その前に解雇になる状況を回避するための対策を行ったかが必要になってきます。
解雇回避の手段によって経営状態が回復できる見込みがあるのに、それを飛ばして整理解雇を行った場合は、無効とされる可能性が高くなります。
解雇回避の手法には次のようなものがあります。
・交際費等の経費削減
・新規採用活動の中止
・役員報酬の減額
・希望退職者を募る
上記以外にも対策はありますし、雇用調整助成金という手段もあります。
対策や助成金について詳しく知りたい場合は、中込労務管理へご相談ください。
人選に合理性がある
解雇回避の対策をしても尚、整理解雇の必要性が出てきた場合、整理解雇の対象となる従業員を決定するには、その基準・運用が合理的で公平であることが求められます。
具体的な選定ポイントとしては下記のような条件があげられます。
・勤務地
・所属部署
・担当業務
・勤務成績
・会社に対する貢献度
・年齢
・家族構成等
これらの要素を客観的に見て、解雇対象となる従業員を選定しなければなりません。
つまり、整理解雇対象となる従業員を個人的感情などで選んでいないか、ということがポイントになります。
手続に相当性があるか
いよいよ整理解雇が避けられない状況になった場合、整理解雇を実施するまでの間に労働組合や従業員に対し、整理解雇の必要性やその具体的内容(規模、時期等)について、しっかりと説明をしなければなりません。
当然、納得がいかない従業員も出てきますので、誠意をもって協議や交渉をしなければなりません。
説明や協議の場を設けず、いきなり整理解雇を実施することは認められていません。
なお、労働組合と解雇協議条項について定めがある場合は、労働組合に対する説明や協議も必要になりますので、事前に確認をしておきましょう。
その他:整理解雇を有効に導く措置があるか
整理解雇は企業側には当然でも、従業員側には退職を強要された、と遺恨が残る可能性もあります。
従業員にしてみれば、将来の計画も職に就いていればこそ。
大きな人生の転換になることは間違いありません。
従業員が被る不利益に対して措置を講じておくことで、整理解雇が合理的であると認められる可能性も高くなります。
例えば、退職金の積み増しや再就職先の手配などが挙げられます。
手厚くフォローすることで、従業員の不満を解消し、不利益を緩和します。
整理解雇の前に行うべきこと
それでは次に、整理解雇を行う前に実行すべきことを具体例を交えて解説いたします。
希望退職の募集
整理解雇の前に、希望退職者を募ることで整理解雇を回避できます。
希望退職であれば合意退職になりますので、企業としても整理解雇を実行するための時間も労力も策必要がありません。
具体的には、目標削減人数を設定し、退職者を募集します。
募集の際、従業員側が応じるだけの条件提示をすることがポイントです。
当然、相応のコストがかかることになりますが、長い目で見た場合、総人件費の大幅な削減が実現できます。中長期的な損益を算出しておくとリスクも明確になるでしょう。
その上で退職条件を検討し、掲示します。
退職を勧奨
希望退職の募集の他に、退職勧奨も同時並行で行います。
希望退職との違いは、希望退職が従業員からの意思になるのに対して、退職勧奨は企業側の意思によるものになります。
つまり、退職勧奨とは、企業が従業員に対して労働契約の合意解約を行うこと。
「解雇」ではなく、「退職を勧める」ことですので、当然ですが、労働者の意思を尊重する必要があります。
こちらも希望退職同様、従業員側が応じるだけの条件提示をすることがポイントです。
ただし、退職勧奨の交渉は慎重に進めなければ、従業員からすると「解雇なのでは?」という不安が生じ、トラブルの種になってしまいますので、注意が必要です。
新規採用活動の中止
解雇回避の項目でも記述しましたが、これから整理解雇する状況であるにも関わらず、新規採用を行うのは合理的ではありません。
新規採用活動に係る経費を削減することで整理解雇回避に繋がることもあります。
労働時間の短縮・残業時間削減の取り組み
企業は労働時間を対価に給与などを支払いしています。
整理解雇をする前に、支払いする給与などを削減するためには、対価となる労働時間の短縮や残業時間の削減を行うのも有効な手段といえます。
休業
休業とは、店舗自体の休業をイメージする方もいるでしょう。
もちろんそれも手段の一つですが、店舗の閉鎖やお客様が大幅に減ったことにより、人員が余っている状況になった場合、従業員の休業措置を図ることもできます。
従業員を休業させる場合には、労働基準法26条により平均賃金6割以上の休業手当を支払う必要がありますが、賃金コストを引き下げることができるという見方もできます。
さらに、雇用維持に向けた企業としての努力を示すこともできるため、有効な手段といえます。
なお、ここで利用できる助成金もありますので、詳しくは社会保険労務士法人中込労務管理までお問い合わせください。
役員報酬の削減
企業の人件費を削減するにあたり、従業員の賃金引下げの前に、役員報酬を削減することが挙げられます。
一般的には従業員の報酬よりも多いとされている役員報酬。
整理解雇として人員削減する前に、会社の責任者である役員からその報酬を削減していくことが優先されます。
配置転換
現在の業務では経営上立ち行かない場合や利益が出にくい場合、他の部門、職種等への配置転換を行います。人材の活用をするというわけです。
企業によって、配置転換ができない場合は、前述した労働時間の短縮、残業時間の削減、もしくは労働条件の変更などを行います。
整理解雇が不当と認められた場合のリスク
前述したように、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当と認められなければ、解雇権の濫用として違法、無効となります。
これを、「解雇権濫用法理」といいます。
なお、整理解雇であっても、少なくとも30日前に解雇となる旨の予告をしなければなりません。
30日前に予告をしない場合、企業は30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労働基準法20条1項)。
整理解雇の実行には専門家の支援を受けることをお勧めします
企業を経営する上で、時には厳しい判断を下さねばならないこともあります。
人員の整理はまさにその苦渋の決断の一つと言えます。
整理解雇は、必要な手順を踏んで進めなければ法的に認められない可能性が高くなりますので、注意が必要です。
整理解雇の必要性を感じた場合、すぐに専門家に相談することをオススメします。
社会保険労務士法人中込労務管理では、労務問題に強く、人員計画の策定やトラブル予防に向けたアドバイスができますので、まずは弊社までご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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