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無期転換ルールの対応は大丈夫?適用の条件や留意点を社労士が解説!

2022.05.20 コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、無期転換ルールの基礎知識や適用の条件、転換の3つの形態などについて解説します。メリット・デメリットや留意点もお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

無期転換ルールとは?

無期転換ルールは、同じ使用者の元において有期契約で5年以上働いている労働者を、期限の定めのない無期労働契約に転換するルール。201341日の改正労働契約法によって施行されました。

5年以上継続して働いている有期契約の労働者から「無期契約にしてほしい」と無期転換の申し込みがあった場合には、会社は申し出に応じなければならないと定められています。

無期転換ルールの対象者

契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなど、契約期間に定めがある労働者であれば名称問わず、全て対象です。

派遣社員が契約を結んでいるのは、派遣先の企業ではなく派遣元の企業。よって、派遣社員の無期転換ルールの対応を行うのは派遣元であり、派遣先の企業での対応は不要です。

無期転換ルールの開始時期

無期転換ルールが施行となったのは、201341日。ルールが適用となるのは、この施行日以降に締結または更新される契約です。施行日以前に契約を結んでいる場合には、施行日以前の期間は通算期間にカウントされません。

無期転換ルールが定められた背景

有期契約の社員のうち、約3割が通算で5年以上働いている状況にあることから、多くの企業にとって有期契約の社員が戦力として定着していることがわかります。契約上は有期であっても、実際には毎年自動的に更新を続けているだけの状態です。この実態に合わせて制度の改正が必要になり、より適切な雇用関係を実現していくための取り組みとして定められました。

無期転換ルールによって、雇い止めの不安がなくなり労働者が安心して働けることを目指しているのです。

必ずしも「無期契約社員=正社員」ではない

有期契約社員から無期契約社員に転換したからと言って、必ずしも正社員になるわけではありません。転換の形態は主に3つあり、実際には、雇用期間の制限がなくなるだけで、福利厚生や労働条件などは変化しないことも多いのです。詳しくは記事の後半で解説していますので、確認してみてください。

無期転換を回避するための雇い止めはNG

雇い止めとは、有期契約の期間を満了した後に契約を更新せず、そのまま雇用を終了することを言います。有期契約のように、期間を定めて労働契約を結ぶ場合は、期間の途中で雇用関係を終了すること(解雇)は原則できません。

有期契約社員への雇い止めを行った際に、合理的な理由がないと判断された場合には、労働契約法第19条に基づいて、労働基準監督署から指導を受ける可能性があります。

有期契約が満了となる前に、使用者が一方的に更新回数などに上限を設けた場合でも、無効と判断されることがありますので慎重に対応しましょう。

無期転換ルールが適用となる条件

無期転換ルールが適用となる条件は以下の3つを満たした場合です。

①同一の使用者との間で、有期労働契約の通算期間が5年を超えている

②1回以上契約が更新されている

③現時点で同一の使用者と契約を結んでいる

この3つの条件を満たすためのポイントを解説しますので確認しておきましょう。

通算期間の計算方法は?

契約期間が1年だと、1年に1回更新を行って丸5年を過ぎた後に無期転換ルールの適用となります。しかし、例えば契約期間が3年の場合、通算5年時点では契約期間の途中のため適用にはならず、通算6年目の更新時から適用となるので注意が必要です。

間違いやすいポイントなので、厚生労働省「無期転換ルールハンドブック」を確認しておきましょう。

クーリング期間とは?

同一の企業との間で契約を結んでいない空白の無契約期間がある場合、その長さによって「通算期間の5年」にカウントされない場合があります。このように、通算期間のカウントから除外される(=クーリングされる)期間を、クーリング期間と言います。

クーリングの基準となる期間は以下の通りです。

無契約期間前の通算契約期間

無契約期間

2ヶ月以下

1ヶ月以上

2ヶ月超〜4ヶ月以下

2ヶ月以上

4ヶ月超〜6ヶ月以下

3ヶ月以上

6ヶ月超〜8ヶ月以下

4ヶ月以上

8ヶ月超〜10ヶ月以下

5ヶ月以上

10ヶ月超〜

6ヶ月以上

 

例えば、有期契約を更新せずに退職し、再び戻ってきた場合などは注意が必要です。

同一の使用者の定義とは?

「同一の使用者」とは、職場が同じということではなく、使用者である事業主が同じであるという意味です。

例えば、本店で1年働いた後、支店で4年働いた場合は、同一法人内なので同一の使用者の元で5年働いたことになります。しかし、子会社で2年働いた後、親会社で3年働いた場合には、別の法人となるので同一の使用者とはみなされず通算されません。

使用者側が無期転換ルールを免れるために、意図的に労働者の使用者を切り替えたと判断できる場合には、同一の使用者の元で働いていると認められます。

無期転換ルールを適切に実施するには、各々の企業に合わせた対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

無期転換の3つの形態

有期契約社員を無期契約社員に転換する際には、以下の3つの形態があります。

①雇用期間のみを変更

②多様な社員への転換

③正社員への転換

3つそれぞれについて詳しく見ていきましょう。

①雇用期間のみを変更

有期契約社員の契約期間のみを変更して、賃金・労働日数・労働日数などの変更は行わないパターンです。企業側の負担が一番少なく対応しやすい方法といえます。

一定の成績を満たした場合や、意欲やスキルが向上した場合には「多様な社員」や「正社員」への転換もできる制度にしておくと、社員のモチベーションアップにつながります。

②多様な正社員への転換

多様な正社員とは、正社員ながら以下の条件で働く社員のことです。

・配置転換や転勤などがない

・仕事の内容に制限がある

・勤務時間に制限がある(残業がないなど)

各企業の実情に合わせて、条件を組み合わせることもできます。

一定の制限がある働き方ですが、安定した雇用の元でライフワークバランスを重視した働き方ができる形態です。労働者にとっても企業にとってもメリットが大きい方法といえるでしょう。

③正社員への転換

有期契約社員から正社員に転換するケースです。勤務時間や福利厚生も他の正社員と同様になります。企業はそれなりの報酬を支払う必要がありますが、労働者の活躍の場を提供できる転換方法です。

有期契約社員からいきなり正社員として雇用する他にも、まずは多様な正社員として雇用し、能力や適性次第で正社員に昇格させる方法もあります。

無期転換ルールの適用によるメリットデメリット

無期転換ルールが適用されることによって、企業側にも労働者側にもメリットとデメリットがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

企業側のメリット

企業側にとってのメリットは以下の通りです。

採用や人材育成のコストを削減できる

新しい人材を採用して教育していくと、時間的にも費用面でもコストが当然かかります。5年以上働いている有期契約の労働者は、会社のことや仕事内容を理解しており、既に会社の戦力となって働いています。有期契約社員をそのまま無期契約社員として雇用することで、新しい人材の採用や教育にかかるコストを大幅に削減できるのです。

政府から助成金を受けられる可能性がある

一定の条件を満たすことで、政府からキャリアアップ助成金が受けられる可能性があるのも、企業にとってはメリットです。

キャリアアップ助成金は、有期契約社員などの非正規雇用労働者のキャリアアップを促すために、賃金アップや正社員化をはじめとする処遇の改善を行った企業に対して、一定の金額が助成されるものです。詳しくは、「厚生労働省キャリアアップ助成金」のページをご覧ください。

企業側のデメリット

企業側にとってデメリットとなる点を見ていきましょう。

人員の調整が難しくなる

有期契約は、会社の業績に応じて契約満了時に雇用関係を終了できるので、人員の調整が比較的しやすい雇用形態です。一方、無期契約になると、解雇するには労働基準法で定められた厳しいルールがあるので、簡単には人員の調整が行えなくなります。

労働者の管理が大変になる

アルバイト、パート、契約社員などの有期契約社員が大半を占めている会社では、誰に無期転換の申込権があるのか複雑になるので、把握するのが大変です。管理にかかる人的コストもデメリットとなり得ます。

労働者側のメリット

続いて、労働者側にとってのメリットを解説します。

長期間の雇用が保証され安心して働ける

雇い止めの不安がなくなり長期的な雇用が保証されることで、労働者は安心して働けるようになります。契約更新の不安なく、労働者が仕事に集中できる環境を作り出すことができるのです。

スキルアップやキャリアアップしやすい

職場を転々としていると、その度に一から仕事を覚えなければなりません。しかし無期転換が適用されると、長期間に渡って専門的なスキルを磨くことができます。スキルを熟練させることによって、キャリアアップが期待できます。

労働者側のデメリット

労働者側にとってデメリットとなり得る点も確認しておきましょう。

有期契約に比べて責任が重くなる可能性がある

待遇や仕事内容は有期契約の時と比べて変わりませんが、無期契約社員になったことによって責任が重くなる可能性があります。安定した雇用よりも、背負う責任は最低限のまま働きたいという人にとっては、有期契約のままの方が良い場合もあるのです。

待遇が特段向上しないこともある

無期契約社員になったからといって、必ずしも正社員と同じ待遇が得られるわけではありません。正社員に転換となる場合もありますが、契約期間のみの変更で有期契約の時の労働条件が継続されることもあります。

給与アップや、ボーナス、退職金、産休育休、有給休暇、昇給、昇進など、処遇はこれまでと何も変わらないのに責任だけ重くなる場合にはデメリットとなります。

無期転換ルールの留意点

無期転換ルールを導入する際の留意点を4つ解説します。よく確認した上で、トラブルなくルールを運用していきましょう。

全社員への周知が必要

無期転換ルールについて周知しなかったことで、社員が不利益を被るなどのトラブルを避けるため、当該社員だけでなく全社員への周知が必要です。無期転換ルールは自動的に適用される訳ではなく、社員からの申請が必要である点も必ず周知しておきましょう。

無期転換ルール導入の際に就業規則の整備が必要

有期契約社員を無期契約社員に転換する際に、転換後の働き方などについて就業規則を整える必要があります。全員を正社員に転換する場合には就業規則の修正は比較的簡単です。しかし、転勤がなかったり短時間労働を取り入れたり、多様な正社員として雇用する場合には、労働条件などに関して明確に記載しておきましょう。

就業規則を新たに作成した場合や就業規則を修正した場合には、所轄の労働基準監督署への届け出と労働者代表などからの意見聴取、全社員への周知が必要です。

無期転換申込の拒否はできない

有期契約社員から、無期転換の申し出があった際には、使用者はこの申し込みを受理しなければなりません。労働基準法により、申し出を拒否することはできないと定められています。

無期転換の申し込みは書面で行う

法律上、口頭での無期転換の申し出も可能ですが、記録に残らずトラブルにつながる恐れもあります。労働者と使用者の間で書面を交わすのが望ましいでしょう。この際、無期転換の申し込み書類の作成に加えて、前述している就業規則に申し込みのルールも併せて整備しておきましょう。

無期転換ルールに関するご相談は社会保険労務士まで

無期転換ルールに関しては、労働者との間に予期せぬトラブルが起きないよう、慎重に対応していく必要があります。就業規則の整備や、新しい取り決めの運用などについて、社内で十分検討しながら進めていきましょう。

「無期転換ルール」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、無期転換ルールに強い専門家が対応させていただきます。

 

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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