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懲戒処分における適正手続きとは?就業規則に規定がない場合でも弁明の機会は付与すべき?

2022.05.20 コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は懲戒処分を行う際の適正手続きについてお伝えします。

勤務態度に問題がある、業務命令に違反するといった問題社員でお困りではありませんか?そのような場合、懲戒処分について検討したことがあるかもしれません。

しかし懲戒処分をめぐっては、となる従業員と企業の間でトラブルが生じやすいため、慎重な判断が必要です。

そこで本稿では、懲戒処分を行う際に大きなポイントとなる適正手続きについて解説します。問題社員でお困りの方はもちろん、懲戒処分について知っておきたい方はぜひ参考にしてください。

懲戒処分とは

懲戒処分について正しい知識をおもちでしょうか。まずは懲戒処分について解説します。

懲戒処分は「問題のある従業員に制裁を与えること」

懲戒処分とは、社内規定に違反した従業員や、会社の秩序を保てない従業員に対して制裁を与えることを意味します。

遅刻や早退、無断欠勤が続く場合や、窃盗や傷害、詐欺などの犯罪行為があった場合などに、懲戒処分が検討されます。

しかし、どんな場面にどんな懲戒処分がくだされるのかといった内容については、法律で規定されていません。

懲戒処分の具体的な内容については、就業規則などに基づいて企業側が判断するものなのです。

懲戒処分には7種類ある

懲戒処分には一般的に、の軽いものから順に、戒告・譴責(けんせき)・減給・出勤停止・降格・諭旨(ゆし)解雇・懲戒解雇の7種類があります。処分内容の詳細についても法律に規定はありません。

ただし懲戒処分のように制裁をする場合や減給を実施する際には、労働基準法以下のように定められています。

制裁(懲戒)をする場合:制裁に関する内容について定めるときは就業規則に記載する必要があること(労働基準法第89条)

実施する場合:就業規則で減給について定める場合は1回の減給が平均賃金の1日分半分以下であること同一労働者が複数回減給となる場合でも、減給の総額賃金支払期における賃金総額の10分の1以下とすること労働基準法第91

懲戒ルールを明確化している多くが大企業

懲戒処分を行う可能性があるのは、大企業も中小企業も同様です。しかし、厚生労働省の労働契約法制研究会の最終報告(平成17915日)で、懲戒ルールを明確にしているのは大企業が中心であることが明らかになりました。

報告によると、懲戒処分についての規定を作っている企業は80.5%。それに対し、従業員 1000 人以上の大企業だけをみると、98.9%が懲戒ルールを明確化していることがわかりました。

もちろん中小企業においても、懲戒ルールの設計は必要です。従業員が安心して働くためにも、企業が問題社員に振り回されないためにも、ぜひ懲戒ルールを明確にしておきましょう。

社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じた内容をご提案させていただいております。お気軽にご相談ください。

適正手続きとは

 懲戒処分の判断をするときには、以下の7つの原則を考慮しなければなりません。

  • 罪刑法定主義の原則:懲戒の根拠を明らかにすること
  • 平等取扱いの原則:以前に同様の事例があった場合は、当時の処分とのバランスを考えて判断すること
  • 二重処罰禁止の原則:同じ事由で複数回処分できないこと
  • 効力不遡及の原則:懲戒に関する規定が制定された後に問題となった行為に対して、処分が適用されること
  • 個人責任の原則:個人の行為に対し連帯責任を負わせないこと
  • 合理性・相当性の原則:処分の種類や程度には客観的な妥当性が必要であること
  • 適正手続きの原則:処分をくだすには、就業規則などで定めた手続きが必要であること

 

本稿では、上記7つの原則のうち「適正手続きの原則」について解説します。

 適正手続きの原則についても、法律で規定されているものではありません。そのため、それぞれの企業で判断する必要があります。

 懲戒処分に際し適正な手続きが行われていないと、懲戒処分が無効であると判断されたり、懲戒権の濫用だとみなされたりすることもありますので、注意が必要です。

 適正手続きは「就業規則などに定められている手続きを遵守すること」

適正手続きとは、懲戒処分を決定する前に、就業規則などで定められている手続きを行うことを意味します。

 手続きの一例としては、

  • 弁明の機会を設けること
  • 懲戒委員会を開催すること
  • 労働組合などとの協議を行うこと

などがあげられます。

 就業規則などに懲戒処分前の手続きが明記されている場合は、必ず実行しなければなりません。

 就業規則などに規定がない場合の適正手続きとは

懲戒処分前の手続きについて、就業規則などにとくに規定していない場合もあるでしょう。その場合は、必ずしも上記のような手続きを行う必要はありません。

しかし、懲戒処分前には弁明の機会を設けておくことが必要だと思われます。弁明とは、懲戒処分の対象となっている事由に対して、懲戒対象者が意見すること。

とくに、解雇を伴う重い処分のときには原則必須です。また最近では、「出勤停止や降格といった処分をくだす際にも、弁明の機会を付与すべき」といった裁判例も増えています。

懲戒処分を行う前には、弁明の機会を与えるという心構えでいるとよいでしょう。

懲戒対象者が逮捕・勾留されている場合の対応法

懲戒対象者が逮捕・勾留されている場合でも、就業規則などで弁明機会の付与について規定されているときには、懲戒処分前に弁明の機会を与えることが必要です。

逮捕・勾留により弁明が難しい場合でも、それを理由に弁明の機会を付与しなくてよいというわけではありません。もし弁明の機会を付与せずに処分をくだした場合は、その処分が無効だと判断されることもあるのです。

就業規則などで弁明機会の付与について規定していない場合には、すぐに懲戒処分を決定しても問題はありません。しかし、

逮捕・勾留されている懲戒対象従業員とは、直接接見することはできません。弁明の機会は、弁護人を通して書面で与えることになるでしょう。

懲戒処分前には弁明の機会が必要!その理由は?

前述したように、懲戒処分を決定する前には、弁明の機会を付与することが必要です。その具体的な理由について解説します。

懲戒処分の適正さを担保するため

弁明の機会を付与することで、懲戒処分の適正さを担保できます。

その根拠は労働契約法15の「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」という部分。

懲戒対象者の弁明は、

  • 懲戒処分が「客観的に合理的な理由」で行われるものかどうか
  • その処分が「社会通念上相当」なものかどうか

を決める大切な判断材料です。

従業員にとって懲戒処分は、大きな不利益となります。間違った事実判断による処分や重すぎる処分があってはなりません。

企業として「懲戒処分の適正手続きを行っていること」を明らかにするため

弁明の機会を付与することで、企業として、懲戒処分をくだす前に適正な手続きを行っていることを印象付けられます。

もし裁判になったとしても、懲戒処分の有効性を明確にできますし、弁明の機会を設けたということで丁寧に事実確認をしたと判断される可能性もあるでしょう。

懲戒対象者に弁明の機会を付与する方法

 懲戒対象者に弁明の機会を付与する方法には

  • 面談・口頭
  • 書面

2つがあります。

 就業規則などに弁明機会の方法について具体的な規定がない場合は、どちらの方法で行っても構いません。

 

面談・口頭での弁明の機会

最初に、懲戒対象者を呼び出し、面談によって弁明を聞く方法から解説しましょう。

 面談では、まず事実関係を確認し、企業側の考えを伝えます。その後、懲戒対象者の言い分にも耳を傾けます。

 より慎重に懲戒処分を決定したい場合は、事実関係や企業の考えについてまとめた書類をあらかじめ懲戒対象者に渡し、その後面談の機会を設けてもよいでしょう。

 弁明のために面談を行った場合は、客観的な記録を残しておくことも大切です。録音をしたり議事録を作成したりすることをおすすめします。

 書面による弁明の機会

次に、懲戒対象者に自分の言い分を書面にまとめて提出してもらう方法について紹介しましょう。

 書面で弁明の機会を付与することは、とくに、激しい口論になりそうな場合や冷静に面談を行えそうにない場合に適しています。

 書面で弁明を求めるときには、懲戒対象となっている事由について具体的に通知することが大切です。単に懲戒処分の対象となっていることだけを伝えるのでは、具体的な弁明ができないこともあります。

 懲戒対象者の言い分をきちんと聞くことも、弁明の機会を設ける目的のひとつ。弁明の機会が企業と懲戒対象者の双方にとって有益なものにするためにも、懲戒対象者がきちんと弁明できるようにしましょう。

 懲戒処分と適正手続きに関する裁判例

 懲戒処分をめぐっては、企業と懲戒対象者との間でトラブルになりやすいです。実際、裁判にまで発展することも少なくありません。

ここからは過去の裁判例を参考に、注意すべき点を探っていきましょう。

 就業規則などに規定がある場合の裁判例

就業規則などに適正手続きに関して規定がある場合の裁判例を2例紹介します。

就業規則などに規定がある場合は、その手続きが適正に行われているかが判決に大きく影響するようです。

 千代田学園教員懲戒解雇事件(東京地裁平成1510月9日判決

千代田学園教員懲戒解雇事件は、学校法人千代田学園の教職員が学園に対し、懲戒解雇の無効性などを訴えた裁判です。

就業規則と賞罰委員会規則に、懲戒解雇を行う際には弁明の機会を付与しなければならない旨の規定があるにもかかわらず、学園側は弁明の機会を与えていませんでした。

学園側は弁明の機会を与えなかったことに対し、

  • 資料によって事実が明らかであるため、弁明の機会を与える必要はなかった
  • 民事再生手続きの申立てを行う直前だったため、時間的に余裕がなく弁明の機会を与えなかった

と主張。

しかし東京地裁は学園側の主張を退け、弁明の機会を付与すべきだったと判断し、懲戒解雇は無効とされました。

中央林間病院事件(東京地裁平成87月26日判決

中央林間病院事件は、病院長が病院経営者からの一方的な懲戒処分に異議を申し立てた裁判です。

経営者は病院長に、「病院の信用を損なう言動をした」「規定に違反して勝手に医療機器などを購入した」といった理由で懲戒解雇を行う通知を送付。

就業規則には、懲戒に際し懲戒委員会を設置することが明記されていましたが、病院長の懲戒解雇に関する懲戒委員会は設置されていませんでした。

また、その代替的な方法も取られていなかったことから、東京地裁は懲戒解雇を無効と判断しました。

 

就業規則などに弁明機会の付与について規定がない場合の裁判例

就業規則などに適正手続きに関する規定がない場合は、裁判所の判断もケースバイケースとなるようです。ここでは「弁明の機会を与えなったことが直ちに処分無効とはならない」と判断された裁判例を2例紹介します。

日本ヒューレット・パッカード懲戒解雇事件(東京地裁平成171月31日判決

日本ヒューレット・パッカード懲戒解雇事件は、従業員が企業に対して懲戒解雇の無効を求めた裁判です。

就業規則には適正手続きに関する規定がなかったため、懲戒解雇に先立って、企業が従業員に弁明の機会を与えたかがひとつの争点となりました。

従業員は「懲戒解雇においては,適正手続保障の見地から懲戒解雇事由を具体的に明らかにした上で被解雇者に弁明の機会を与える必要がある」と主張。

一方企業側は「弁明の機会の付与は,被告就業規則上,懲戒解雇の要件とされておらず,一般的に言っても弁明の機会の付与がなければ懲戒解雇が違法無効となるものではない」と訴えました。

これに対し東京地裁は「確かに,一般論としては,適正手続保障の見地からみて,懲戒処分に際し,被懲戒者に対し弁明の機会を与えることが望ましいが,就業規則に弁明の機会付与の規定がない以上,弁明の機会を付与しなかったことをもって直ちに当該懲戒処分が無効になると解することは困難」との判断をし、懲戒解雇は有効とされました。

大和交通事件(大阪高裁平成116月29日判決

大和交通事件は、タクシー乗務員が暴言や暴力行為などを理由にくだされた懲戒解雇を無効とした一審判決に対し会社側が控訴し、懲戒解雇は有効であると主張した裁判です。

判決において大阪高裁は、「就業規則に弁明、弁解の手続規定がない場合には、弁解聴取の機会を与えることにより、処分の基礎となる事実認定に影響を及ぼし、ひいては処分の内容に影響を及ぼす可能性があるときに限り、その機会を与えないでした懲戒処分が違法となる」と判断。

この事件では、

  • 懲戒解雇の理由となった事実のほとんどが、明白であったこと
  • 会社の就業規則などには弁明機会の付与に関する規定がなかったこと
  • 今まで懲戒処分を行う際、弁明の機会を付与したという事例がなかったこと

から、弁明の機会を与えなかったことで、処分内容に影響があったとは認められないと判断され、懲戒解雇は有効であるとされました。

懲戒解雇のような重い処分を行う場合は弁明の機会を付与すべきとの裁判例

就業規則などに規定がなくても、懲戒解雇のような重い処分を行う場合は、弁明の機会を付与すべきとした裁判例もあります。

ビーアンドブィ事件(東京地裁平成227月23日判決

ビーアンドブィ事件は、不正経理などを理由に懲戒解雇となった従業員が、懲戒解雇の不当性を訴えた裁判です。

この事件では懲戒解雇の理由が、就業規則で認められていた「その事案が重篤なとき」に該当しないとして、懲戒解雇の無効が言い渡されました。

東京地裁は「本件懲戒解雇は,債権者に対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており,拙速であるとの非難は免れず,この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当な懲戒解雇であるということはできない」と、懲戒解雇に先立ち、弁明の機会が付与されていなかったことにも言及。

就業規則などに適正手続きについての規定がなくても、懲戒解雇のような重い処分をくだす場合には弁明の機会を付与すべきと判断しました。

まとめ

懲戒処分は従業員の不利益となるため、企業としても慎重に進める必要があります。

就業規則に規定がある場合はそれに則って、懲戒処分を決定することが必須です。
規定がない場合でも、弁明の機会を付与することは必要だといえます。とくに重い処分をくだす際には必ず弁明の機会を設けましょう。

懲戒処分を適正に行うためには、就業規則の作成や懲戒処分のルール設計が重要です。とくに就業規則の作成義務がない10人未満の小規模な事業所では、懲戒に関する規定を策定していないケースも多くみられます。

懲戒処分に関するルールを作ったり、懲戒に関する就業規則を作成したりすることで、もしものときのトラブルを防ぐことが可能です。加えて、会社としての対応方法も明らかにできます。

就業規則の作成や懲戒処分のルール設計でお困りの際は、専門家に相談するとよいでしょう。社会保険労務士法人中込労務管理では、就業規則や懲戒処分のルール設計にくわしい専門家が対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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