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問題のあった従業員に対して退職金の減額・没収・不支給は可能か?徹底解説

2022.05.20 コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。
退職金とは、従業員が退職した際に支払う金銭のことをいいます。
退職金は、長年勤務した従業員が退職をする際に、慰労金や功労金といった意味合いで支払われるイメージがありますが、企業の制度によっては自己都合の場合や解雇の場合でも支払われるケースがあります。
さて、企業側として気になるのは問題があった(起こした)従業員に対して、高額な退職金を支払う必要があるのか、ということではないでしょうか。
退職金自体は企業に支払い義務はありません。
しかし、その企業ごとに就業規則や労働協約で定められている場合は少し状況が異なります。
今回は、問題のあった従業員に対して退職金の減額・没収・不支給が可能かを解説します。

退職金の減額・没収・不支給となる従業員はどの程度の問題を起こしたら対象となるか

退職金には、
・功労報酬的な性格
・退職後の生活保障的性格
・賃金の後払い的性格
など、様々な考え方・捉え方がありますが、
就業規則などによって支給される条件が明確に定められていると、「労働の対象」としての賃金に該当しますので、
企業側に支払う義務が発生することになります。
このような退職金が減額、不支給になるような「問題のあった従業員」の問題とは、どのような内容になるでしょうか。
結論、懲戒解雇や服務規定違反等に該当するのかどうか、が重要になります。
しかし、懲戒解雇や服務規定違反等に抵触したからといって、簡単に退職金の減額・没収・不支給ができるわけではありません。
退職金が賃金に該当している場合、労働基準法の「賃金全額払の原則」に従う必要があり、所定支払日に、全額を支払う必要があるのです。
これに違反していないことが重要になります。

問題のあった従業員の退職金の扱いはどうなる?

前述したように、企業に退職金の支払い義務はありませんので、就業規則などで退職金制度がある企業を前提にお伝えします。
賃金規程や就業規則等に、問題のあった従業員の退職金について、「支給しない」または「減額する」と定められており、その問題の程度と減額・没収・不支給に合理性があれば退職金の不支給や減額は認められると考えられます。
注意したいのは、このような規定があったとしても、懲戒処分を理由とした退職金の減額・没収・不支給が常に認められるわけではありません。
自社の場合がどうかを判断するには、事前に社会保険労務士といった専門家にご相談いただくことを推奨します。 

問題のあった従業員の退職金を減額・没収・不支給するには

問題のあった従業員の退職金を減額・没収・不支給とするには、2つの条件があります。
一つ目は、就業規則等に退職金の減額・没収・不支給について定めた規定が存在すること、二つ目は、退職金の減額・没収・不支給が相当と判断されるだけの従業員に非があること、背信行為が行われたことになります。

退職金の減額・没収・不支給の相当性があるケースとは?

従業員の起こした問題(懲戒事由)と、退職金の減額・没収・不支給の措置釣り合っているかどうかを判断するには判例を見てみると参考になります。
退職金を減額が認められたケースになりますので、ご紹介します。

■三晃社事件ー最判昭和52年8月9日

【概要】従業員が自己都合での退職を申し出たため、就業規則(退職金規程)に基づいて、自己都合で退職した場合の計算方法で算出した退職金を支払し、支払いを終えた後に、その従業員が同業他社に再就職していることが発覚。
この企業の就業規則(退職金規程)では、一定期間内に同業他社に就職をしたときは、退職金の支給額を自己都合で退職した場合の2分の1とすることを定めており、それを根拠に支給した退職金の返還を求めて従業員を提訴したという話になります。

問題のあった従業員の退職金を減額・没収・不支給するために必要なこと

企業には退職金を支払う義務はありませんが、支払う制度があるのであれば、減額・没収・不支給する場合には就業規則にその記載がないと減額・没収・不支給をすることができません。

従業員が問題を起こした場合の退職金の減額・没収・不支給の事前の措置

従業員が問題を起こした場合の退職金の減額・没収・不支給とするには、その場の判断で実行することはできません。つまり、事前に社内規定を整備しておくことが必要になります。

就業規則に定めておく

事前に行う社内規定の整備とは、就業規則や退職金規定に退職金に関する規定を定めること。
退職金を減額・没収・不支給にする根拠とするには、就業規則や退職金規定等に退職金が適用となる従業員の範囲、算定・支払方法、支払時期といった項目を明記(労基法89条)、さらには懲戒解雇や服務規定違反等による退職について、不支給や減額を行うことに関することも明記しておきましょう。就業規則については具体例があるとわかりやすいので、次に退職金に関する就業規則の記載例をご紹介します。

就業規則の記載例

ここでは、退職金に関する就業規則の記載例をご紹介します。
就業規則を設ける際、変更する際の参考にしてみてください。

【記載例】

第○条(退職金適用範囲)
この規程は正社員以外の社員(契約社員、アルバイト、パートタイマー、嘱託社員、その他特殊雇用形態者)に対しては適用しない。
第○条(退職金受給要件)
勤続年数○年以上の従業員が、就業規則○条または○条の規定により退職し、または解雇されたときは、この規則の定めるところにより退職金を支給する。
・退職金の減額・没収・不支給等の規定例
第○条(退職金の減額・没収・不支給等)
従業員が、次の各号の一に該当する場合は、退職金の一部を減額、没収、支給しないことができる。
すでに退職金が支給されている場合には、その全額または一部の返還を求めることができる。
・懲戒解雇されたとき
・諭旨解雇されたとき
・禁固以上の刑に処せられ、解雇されたとき
・自己の重大な過失により解雇されたとき
・勤務に忠実でない、不正の行為により退職したとき
・在職中の行為に、懲戒解雇、または諭旨解雇に相当する行為が発見されたとき

実際に問題を起こした場合の退職金の減額・没収・不支給とするための対応

就業規則などの事前準備が整い、実際に従業員が問題を起こした場合に退職金を減額・没収・不支給とするには、どのように対応するのでしょうか?
具体的な行動をお伝えすると、就業規則に違反したとされる根拠となる証拠を集めることです。
なぜなら、減額・没収・不支給を行った場合、後日従業員から訴訟を起こされるケースもあります。その場合に備えて、証拠を集めておく必要があります。

状況別、退職金の扱いおよび減額幅について

それでは、解雇の種類別に退職金の扱いがどのようになるのか、減額の幅について見てみましょう。

普通解雇の場合の退職金の扱い・減額幅

普通解雇とは、例えば能力不足や勤怠不良、病気等を理由として十分に労務を行うことができなかった従業員を解雇することをいいます。
一般的に、普通解雇とした場合には退職金を支払うことが多いようです。
就業規則などに退職金の規定がある場合はその規定通りに支払いをする必要があります。
しかし、従業員側に著しい不適格などの理由があった場合、5割程度の支給まで減額することもあります。状況によって判断が難しいため、専門家へ相談してもいいでしょう。
社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ご相談ください。

諭旨解雇の場合の退職金の扱い・減額幅

諭旨解雇とは、問題があった従業員が反省をしていると認められる場合、その従業員を企業側が諭して退職を勧め、解雇とするものになります。
懲戒解雇より軽い懲戒処分になります。
諭旨解雇とはいえ、問題があったことに違いはありませんので、就業規則に定めがあり且つ
減額・没収・不支給が相当と思われる背信行為などがあったことが重要です。
全ての条件が一致した場合、退職金の2~4割程度支給まで減額することもあります。

懲戒解雇の場合の退職金の扱い・減額幅

最も重い解雇の種類が懲戒解雇になります。
企業が従業員に対して行う最も重いペナルティを課すのが懲戒解雇。
こちらも就業規則に定めがあること、従業員側に著しい背信行為があったことが条件になります。全ての条件が一致した場合、退職金の不支給とすることもあります。

退職後に問題行為が発覚した場合の退職金の扱い

従業員の問題発覚は、在職中にだけとは限りません。
退職し、企業が退職金を支払い終わった後に発覚するケースもありえます。
その場合、就業規則に則り満額の退職金を支払いしている企業が多いでしょう。
こちらも、就業規則に退職後でも懲戒解雇になるような問題があった場合は退職金の全部又は一部を返還しなければならないという規定を就業規則に記載しておくことが対策になります。
そうすることで、退職金の返還請求権を持てることになります。

競業避止義務違反をした場合の退職金の扱い

競業避止義務違反とは、所属する企業の不利益となる競業行為を禁ずるものになります。例えば、自社の情報を持ったまま競業他社に再就職し、自社に不利益をもたらす、といった内容です。

競業避止義務違反をした場合の退職金を減額・没収・不支給とする場合、下記の条件が揃っているかも判断されます。

・競業が禁止されている期間
・競業が禁止される場所や範囲
・禁止されている競業について必要な制限があるかどうか
・代償措置の有無
入社時に雇用契約書に競業禁止に関する記載をすること、また誓約書を取り交わしておくこと、就業規則に定めておくことも重要になります。

退職金の減額はどの程度まで可能か?

退職金にかかるトラブルを回避するために退職合意書を作成しておく

退職金に関するトラブルは想像以上に多く発生しています。
従業員にとっても退職金は金額も大きい分、生活基盤となる重要な金銭です。
減額・没収・不支給といった処分には大きく反発されることもあるでしょう。
そういった紛争トラブルを回避するためにも退職合意書を取り交わしておくことを推奨します。

まずは専門家にご相談ください!

問題があった従業員とはいえ、退職金の減額・没収・不支給とするにはそう簡単ではありません。
就業規則等の整備も必要になりますし、該当の従業員が起こした問題に悪質性・背信性が共に高いものであるか、功績を打ち消すほどのものかなど判断が難しいことが多いでしょう。
こういった判断の難しい問題こそ、早めに専門家へ相談することをオススメいたします。
社会保険労務士法人中込労務管理でも退職トラブルに強い専門家が対応させていただきます。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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