労働基準監督官の権限と業務を社労士が解説!臨検調査の種類や監督指導の流れも紹介
- 2022.06.07 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、労働基準監督官の権限や業務、臨検調査の種類、監督指導の流れなどについて解説します。
労働者の健全な雇用、企業のクリーンな経営を行う上で大切になるのが、労働基準監督署との関わりです。労働基準監督署や監督官にはどのような役割があるのか、よく理解しておきましょう。
目次
労働基準監督官とは?
労働基準監督官は、厚生労働省の専門職員で、国家公務員です。労働基準監督官が所属する労働基準監督署は、厚生労働省の出先機関で、監督課・労災課・安全課の3つで構成されます。
労働基準監督官の業務
労働基準監督官の業務は、労働条件の確保・向上と、働く人の安全と健康を確保することです。労働基準監督官のことを、別名「労働Gメン」と言うこともあるほど。
具体的には、労働基準関係法令に基づいて工場や事務所などの事業場に立ち入り、法に定められている労働条件や安全衛生の基準を事業主に守ってもらえるよう、必要な指導を行います。
例えば、労働者が長時間にわたるサービス残業を強いられていないか、悪質な環境で働かされていないかなどについて調査し、指導を行っているのです。また、労働災害に遭われた方に対して、労災補償の業務も行っています。
労働基準監督官の権限
労働基準監督官には、以下の3つの権限が認められています。
①企業への立ち入り調査
適正な調査を行うために、予告なしで事業場に立ち入る権限が認められています。労働基準監督官による立ち入り調査は「臨検」や「臨検監督」と呼ばれることがあります。
【引用:ILO第81号条約第12条1項】
「正当な証明書を所持する労働監督官は、次の権限を有する。(a) 監督を受ける事業場に、昼夜いつでも、自由に且つ予告なしに立ち入ること。」
②法令違反への指導と監督
2つ目は、調査を行うために事業場の帳簿類を確認したり従業員などに尋問したりする権限です。ここで言う「帳簿類」とは、労働者名簿や賃金台帳、雇用・解雇・災害補償などに関する重要な書類のことを指しています。
【引用:労働基準法第101条第1項】
「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。」
③法令違反者の逮捕
3つ目は、使用者が立ち入りや調査を拒んだり妨げたりした場合は、その者を処罰できる権限です。労働基準監督官は警察官でこそないものの、労働関係法令の違反に関する罪においては、逮捕・差し押さえ・捜査・送検などを行う権利が認められています。
【引用:労働基準法第120条】
「次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。(中略)第101条(第100条の2第3項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者」
労働基準監督官が扱う法律
労働基準監督官が扱う法律は以下の通りで、これらの法律のことを労働基準関係法令と言います。
労働基準法
使用者が守るべき、労働条件に関する最低基準を定めた法律で、日本国憲法に基づいて制定されています。労働者の差別や不当な労働を防ぎ、適切な雇用が行われるのが労働基準法の目的です。労働契約や労働時間、賃金、休日、有給休暇、安全衛生、年少者や妊婦の扱い、災害補償、就業規則などについて規定しています。
最低賃金法
使用者が支払うべき最低額を定めている法律です。最低賃金は、各都道府県によって決められています。労働者の生活の安定や労働力の資質向上、事業の公正な競争、さらに国民経済の健全な発展を目的としています。
労働安全衛生法
職場での労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的として制定された法律です。安全衛生管理体制や各責任者、職場環境、メンタルヘルス、危険物や有害物、労働者への安全衛生教育などに関して定められています。
じん肺法
じん肺とは、土ぼこりや金属の粒をはじめとする粉じんが起きる環境で仕事をする人が、長年に渡って粉じんを吸い込み続けることによって肺の組織が硬くなってしまうことを言います。
じん肺法は、じん肺に関して適切な予防と健康管理、その他の必要な措置を行うことで、労働者の健康を保持することを目的として定められました。じん肺の定義や健康診断の実施、じん肺管理の区分、事業者が講じるべき措置などについて明記されています。
家内労働法
家内労働者とは、基本的に自宅を作業場として製造・加工メーカーや問屋などの業者から
部品や原材料などの提供を受けて、一人もしくは家族と一緒に物品の製造・加工を行っている人のことを言います。
家内労働法は、家内労働者の労働条件の向上や、家内労働者の生活の安定を目的として制定されました。家内労働法には、家内労働者の定義や労働時間、賃金の支払い、安全衛生などについて記載されています。
賃金の支払いの確保等に関する法律
「賃確法」とも言われる法律で、企業の経営が不安定になった場合や労働者が退職する際の賃金の支払いなどを適正に行うための法律です。労働者の生活の安定を目的として定められました。遅延利息、未払い賃金、退職手当などについて明記されています。
労働基準監督官による臨検調査の種類
労働基準監督官による臨検調査には、以下の4種類があります。企業側は、それぞれの調査の内容を理解し、日頃から労働基準関係法令に沿った経営や労務管理を行うことが大切です。
定期監督
最も一般的と言える調査が定期監督。事前に定めた当該年度の監督計画に基づいて、労働基準監督署が調査対象を選定し、行う調査です。原則、予告なく企業に調査に出向きますが、事前に日程調整の連絡がある場合もあります。
災害時監督
労働者から労災申請があった時や、一定程度以上の労働災害が発生した場合に行う調査です。労災の原因を究明したり、再発防止のための指導を行ったりします。
申告監督
労働者から申告があった際に行う調査です。例えば、不当解雇や賃金の未払いなど、申告された内容の事実確認を行います。
申告監督の方法は2パターンあります。1つは、労働者を保護するために申告による調査であることを伏せて定期監督のように調査する方法。もう1つは、労働者からの申告があったことを伝えて呼び出し状を出す方法です。
調査の結果、企業の労働基準法違反が明らかになった場合には、労働基準監督官から企業に指導が行われます。
申告調査であっても、労働者からの申告内容のみを調査されるわけではありません。定期監督の調査と同様、労働基準関係法令の内容全般に渡って調査が行われ、違反が見つかった場合には是正勧告が下されます。
再監督
上記の定期監督、災害時監督、申告監督において、指導を行った点が是正されているかを確認するための調査です。
是正勧告を受けたにも関わらず、期日までに是正報告書が提出されていない場合や、報告書に問題点や虚偽の内容があった場合などに行われます。
労働基準監督官による臨検調査で必要な主な書類
一般的に、労働基準監督官による臨検調査で要求されることが多い主な書類は以下の通りです。調査によって、追加で書類の提出を求められる場合もあります。
・会社の組織図
・就業規則
・労働者名簿
・雇用契約書(労働条件通知書)
・健康診断の結果(健康診断個人票)
・賃金台帳(賃金明細書)
・労働時間の記録(タイムカードや出勤簿)
・時間外労働や休日労働に関わる協定届け(いわゆる36協定)
・有給休暇申請書・有給休暇管理簿
・安全衛生管理に関する管理体制の組織表
・ストレスチェックの記録
・産業医の選任に関する資料や面談の記録
会社の経営や労働者の雇用を健全に行うには、各々の企業に合わせた対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
労働基準監督官による臨検調査と監督指導の流れ
労働基準監督官による臨検調査は、一般的に以下のような流れで進められます。
出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「労働基準監督官の仕事」
①臨検監督のきっかけ
臨検監督のきっかけは、調査の種類によって異なります。
・定期監督の場合:定期監督の場合は監督計画に基づいて、調査対象の事業場を決定。
・災害時監督の場合:労働災害や労働事故の発生が端緒となります。
・申告監督の場合:労働者からの申告を端緒とします。
②事業場へ訪問
事業場の調査を実施することを決定したら、労働基準監督官が日程を決めて事業場を訪問。事業場の立ち入り調査では、関係者への事情聴取、就業規則や賃金台帳などの書類の確認などを実施します。災害時監督の場合には、現場検証も行われます。
これらの調査によって特に法違反が認められなかった場合には、調査は終了です。
③文書指導/送検
事業場の調査によって法違反が認められた場合には、文書によって「是正勧告」「改善指導」「使用停止命令」などが行われます。法違反が悪質な内容であった場合には、いきなり送検となるケースも。
④改善状況の確認
文書指導が行われると、一定の期間を置いた後に改善状況の確認を行います。指導内容が是正・改善されている場合には、ここで調査は終了です。しかし、是正・改善が見られない場合には、改善する意向がないとして送検されることもあります。
労働基準監督署との類似機関
労働基準監督署と似ている業務を行っている機関を紹介します。労働基準監督署以外にも、労働環境の整備に関わっている期間がありますので、確認しておきましょう。
都道府県労働局
厚生労働省が管轄する労働基準監督署の上部組織で、各都道府県に配置されています。労働者からの相談を受け付けており、労働関係法令に基づいて、企業と労働者とのトラブルが起きた場合に解決のための助言や斡旋などを行っています。
労働基準監督署は企業の法違反を取り締まることができますが、都道府県労働局にはその権限がありません。
労働基準局
都道府県労働局のさらに上部組織で、厚生労働省内の機関。組織は上から、「労働基準局>都道府県労働局>労働基準監督署」となっています。都道府県労働局や労働基準監督署を円滑に機能させるのが主な業務で、直接労働者からの相談を受けることはありません。
総合労働相談コーナー
労働基準監督署や都道府県労働局に設置されていて、労働者の相談に対する助言や、適切な機関の紹介などを行っています。
労働基準監督官が対応できる事柄・対応できない事柄
労働基準監督署で対応できる事柄と、対応できない事柄があります。
労働基準監督官が対応できる事柄
労働基準監督署は、労働基準法に違反する内容に関しては対応することができます。例えば以下のような事柄です。
・賃金の支払いについて(支払日や締め日、支払い方法など)
・割増賃金について(深夜や休日の法定時間外労働など)
・解雇手当について
・労働条件について
・36協定について
・労働時間について
・労働者に対して与えなければならない休日数や休憩時間について など
労働基準監督官が対応できない事柄
労働基準監督署は、労働基準法に違反しない内容については、対応が期待できない場合があります。国家公務員であるため、民事紛争に関する事柄には介入すべきではないという「民事不介入」が原則とされているからです。例えば、以下の事柄が挙げられます。
・パワハラ
・いじめや嫌がらせ
・人事評価が適切か
・妥当な解雇か否か
・妥当な退職か否か
・人事異動が妥当か
・懲戒処分に関すること
・派遣の雇い止めが違法でないか など
健全な経営や労働基準関係法令に関するご相談は社会保険労務士まで
労働基準監督官の権限は、企業への立ち入り調査・法令違反への指導と監督・法令違反者の逮捕の3つがあります。
社会保険労務士法人中込労務管理では、労働基準関係法令の遵守に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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