【最新版】最低賃金制度に違反していたら?罰則や特例についても解説します!
- 2023.08.25 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、最低賃金制度に関する罰則や、基礎知識、違反していないかのチェック方法などについて解説していきます。
使用者が従業員に対して給与を支払う際には、最低賃金のルールを守らなければなりません。最低賃金制度に違反していた場合には、使用者に差額分の支払いが義務付けられます。差額の支払いに応じなかった場合には罰金を課せられ、社会的な信用を失ってしまうことも。
健全な経営をしていく上で必要不可欠な最低賃金制度についての知識を確認しておきましょう。
目次
令和6年度の山梨県の最低賃金は?
山梨地方最低賃金審議会の答申によると、山梨県の最低賃金は令和6年(2024年)10月より、50円引上げが行われ988円となる見込みです。
これは最低賃金が時間額単独となった平成14年度以降最大の引き上げ額となります。
令和5年10月~ | 令和6年10月~ | |
最低賃金の引き上げ額 | +40円 | +50円 |
引き上げ後の最低賃金(時給) | 938円 | 988円 |
参考:厚生労働省 山梨労働局「山梨県最低賃金は50円の引上げ」
最低賃金制度とは?
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて、使用者に最低賃金以上の賃金の支払いを定めている制度です。労働者の生活を安定させることなどを目的としています。
使用者と労働者の間で、合意の上で最低賃金を下回る給与を定める契約を結んでも無効となるので注意が必要です。
最低賃金制度の法的根拠
最低賃金については、労働基準法28条に言及されており、詳細は最低賃金法に明記されています。
労働基準法28条には、『賃金の最低基準に関しては、最低賃金法(昭和34年法律第137号)の定めるところによる』とあります。【引用:労働基準法】
最低賃金制度の対象
雇用形態(正規雇用、パート、アルバイトなど)、産業、職種、年齢、性別、国籍に関係なく全労働者が最低賃金制度の対象です。
最低賃金の種類
最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があります。この2つの両方が適用される場合には、高い方の最低賃金を支払わなければなりません。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、都道府県ごとに定められた最低賃金のこと。各都道府県に1つずつ、47件の額が定められています。
地域別最低賃金は、年に一度、都道府県ごとに改定を検討します。全国的に整合性を図るために、毎年、中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会に対して賃金改定のための引き上げ額の目安を提示します。地方最低賃金審議会は、提示された目安額を参考に、地域の実情を考慮しながら、地域別最低賃金を改定するための審議を進めていきます。最低賃金が改定される場合には、毎年10月から適用されます。(都道府県によっては、必ずしも10月1日が改定日となるわけではありませんので注意が必要です。)
特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金は、特定の産業に設定されている最低賃金で、令和2年9月1日時点では全国で228件が定められています。地域最低賃金よりも最低賃金の水準を高く定めるべきと、関係労使が認める産業に設定されるものです。
特定(産業別)最低賃金の改定は、関係労使の申し出に基づいて、最低賃金審議会が改訂する必要があると認めた場合に調査審議を経て決定しており、地域別最低賃金と同じように、原則、都道府県ごとに改訂を検討することになっています。
最低賃金法に違反した場合の罰則とは?
従業員に対して、最低賃金を下回る給与しか支給していない場合には、いずれ従業員から差額分の支払いを請求されるか、労働基準監督署から是正勧告を受けるでしょう。ここでは、最低賃金法に違反した場合の罰則について解説します。
最大で過去2年分の差額を支払う
最低賃金未満の給与しか支払っていなかった場合には、最大で過去2年分の差額の支払いが雇用主に課されます。
ただし、2020年4月1日に施行された改正労働基準法では、賃金請求権の消滅期間が2年から5年に変更されているのがポイントです。当面は3年とされていますが、2022年4月1日以降に差額を支払う場合には、過去2年以上の期間が支払い対象となり、支払う金額がより大きくなります。
差額を支払わなかった場合には罰金を課せられる
地域最低賃金との差額を支払わなかった場合には、最低賃金法40条に則り、50万円以下の罰金に処せられます。
また特定(産業別)最低賃金との差額を支払わなかった場合には、「賃金全額支払い原則」違反となり、労働基準法24条と120条に則って、30万円以下の罰金に処せられます。
最低賃金法に違反していたことがわかった場合どのような対応をすればいい?
最低賃金に違反していたことがわかった場合の対応をお伝えします。最低賃金に違反していることが分かるタイミングとしては、従業員からの申告や、給与計算の担当者のチェック時や労働基準監督署の調査などが挙げられます。
万が一、支払うべき賃金を支払っていなかった場合には、誠意を持って速やかに対応することが大切です。
①最低賃金と支払い給与額の差額を計算する
まずは、従業員に対して支払っていた賃金と最低賃金を比較して、総額の差額を計算しましょう。差額を出す際には、後述する各種手当の取り扱いに注意しながら、正確に計算してください。
②差額分を速やかに支払う
最低賃金との差額分を算出したら、従業員に対して差額を支払います。
差額分を支払わないまま放置していると、罰金を課されるだけでなく、対外的な信用も失ってしまいます。現代の情報化社会においては、最低賃金法に違反した企業であることが瞬く間に広まり、企業のイメージは大きくダウンします。その企業で働きたいと思う人材は減り、取引先との信頼関係も一気に崩れてしまいます。
それぞれのケースに応じて、会社側は対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
最低賃金以上支払っているかの確認方法
会社で支給している給与が、違反なく最低賃金を上回っているかをチェックする方法は、給与形態によって変わってきます。
時給制の場合
最低賃金は時給額で設定されているので、支給している時給額が最低賃金以上であれば問題ありません。
時給≧最低賃金額(時間額)
日給制の場合
日給制の場合には、日給を1日の所定労働時間で割った額が最低賃金を上回っている必要があります。
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
※ただし、日額が決められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合は、その日額以上の日給額に設定します。
月給制の場合
月給制を採用している場合には、月給を1ヶ月の平均所定労働時間で割って時給額を算出します。
月給÷1ヶ月の平均所定労働時間≧最低賃金(時間額)
※1ヶ月の平均所定労働時間は以下の方法で算出します。
1ヶ月の平均所定労働時間={(年間所定労働日数–会社が定める年間休日数)×1日の所定労働時間}÷12
年俸制の場合
年俸制を採用している場合には、年俸を12で割って1ヶ月当たりの給与を算出し、その額を1ヶ月の平均所定労働時間で割った額が最低賃金を上回っているかで判断します。
(年俸÷12)÷1ヶ月の平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
※ただし、年俸に賞与が含まれている場合には、最初に賞与分を除いてから算出する必要があります。
出来高払い制・歩合制・請負制の場合
実際の成績や成果に応じて賃金が支払われる出来高払い制や歩合制、また一定の作業に対して給与が支払われる請負制の場合には、賃金の総額を総労働時間で割って時給額を算出します。
賃金の総額÷総労働時間≧最低賃金額(時間額)
最低賃金を算出する際の各種手当の取り扱いは?
実際、従業員に支給する給与には、様々な手当が含まれています。最低賃金を算出する際に含めない手当と含める手当がありますので、間違いのないよう確認しておきましょう。
みなし残業代は除外してから算出する
みなし残業代とは、企業が一定時間の残業を想定して、あらかじめ月給に固定して加えている手当です。
みなし残業代分の労働は、所定労働時間を超える労働なので、最低賃金を算出する際には省かなければなりません。月給にみなし残業代が含まれている場合には、その分を先に除外してから時間給の計算をして最低賃金と比較しましょう。
みなし残業代が最低賃金を下回っていないかチェックする
みなし残業代自体が最低賃金を下回っている場合も違法です。固定残業時間が1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える分の賃金については、割増賃金率が適用されるので、下記の計算方法を用いて確認しておきましょう。
固定残業代÷(固定残業時間×1.25)≧最低賃金額(時間額)
固定残業代が5万円で、固定残業時間を35時間と定めている場合には、50,000÷(35×1.25)=1,143円となります。1,143円が最低賃金額を上回っていれば問題ありません。
最低賃金の算出に含まれる手当・含まれない手当
最低賃金を算出する際に、あらかじめ除外しておかなければならないのは以下の手当です。
- 臨時で支給される手当(結婚手当、傷病手当など)
- 1ヶ月を超えて期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 22時〜5時までの時間帯のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分の賃金(深夜割増賃金)
- 通勤手当、家族手当、精勤手当など
【参考:厚生労働省】
資格手当は含めて算出する
資格手当とは、従業員が何らかの資格を持っている場合や、新たに資格を取得した際に企業から支給される手当のこと。資格手当は基本的な賃金とみなされるので、最低賃金を算出する際には含めましょう。
最低賃金制度の対象とならない特例
以下の①〜⑥に当てはまる労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に、最低賃金を減額する特例が認められています。これは、最低賃金を一律に定めてしまうと、一般の労働者に比べて著しく労働力が低いと判断される労働者の雇用機会を狭める可能性があるためです。
①精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
身体的な障害や精神的な障害によって、労働能力が著しく低いと判断される場合です。「手先が不器用だから」などの理由は含まれないので注意が必要です。
最低賃金の適用除外の許可が下されるのは、業務を遂行する上で直接支障を与えることが明白である上に、さらに支障の程度が著しい場合に限定されています。
②試験期間中の者
試用期間とは、本採用前に業務に対する適正や能力があるかなどを見極める期間であり、一定の試用期間の後に本採用が予定されている状態をいいます。試用期間中は他の従業員同様の十分な労働力としては期待せず、研修などが中心となることから最低賃金の適用除外の対象となっています。
ただし、会社の就業規則や労働規約に試用期間がある旨が明記されていなければ、適用除外の許可が下されないので注意が必要です。
③職業能力開発促進法に基づく職業訓練を受ける者のうち一定の者
職業訓練を受けている間も、試用期間と同じように、一般的な労働力として期待しないことから最低賃金除外の適用となります。しかし、適用除外を受けるためには、生産活動に従事する時間が所定労働時間の2/3以下(1日の平均)でなければなりません。所定労働時間が2/3以上となる場合には、適用除外の許可は与えられませんので注意しましょう。
④所定労働時間が特に短い者
所定労働時間が特に短い場合とは、事業場で定められている一般労働者の所定労働時間の2/3以下であることを指します。これに該当する上で賃金が、日給、週給、月給で定められている場合に限り、最低賃金の適用除外の対象となります。
時間給で定められているパートタイム労働者は、所定労働時間が特に短い場合でも、適用除外の対象にならない点に注意が必要です。
⑤軽易な業務に従事する者
事業場において最も軽易な作業に従事して最低賃金の適用を受けている労働者と比較して、さらに軽易な業務に従事している場合にのみ適用除外の対象となります。ただ単に従事する業務が軽易であるからという理由では許可が与えられませんので注意しましょう。
最低賃金が年齢に関係なく定められている場合に就労を認められている、15歳未満の児童などにも当てはまります。
⑥断続的労働に従事する者
断続的労働とは、作業が間欠的であり、実作業時間が少なく労働時間内における手待時間が多い場合を指します。例えば夜間に泊まり込みで業務に当たる宿直などがこれに該当します。
適用除外の許可基準は、「その事業所での最低賃金の適用を受ける労働者の実作業時間の1/2程度以下であること」とされています。【参考:厚生労働省】
最低賃金に関する留意点
最低賃金制度に関する留意点を解説します。間違いやすいポイントを2つお伝えしますので、確認しておきましょう。
最低賃金の適用単位
最低賃金制度は、事業単位で適用されるため、企業単位ではないことに注意が必要です。1事業としての判断基準は、場所が分散しているか否かです。
例えば、本社が東京にあり、支店が北海道にある場合には別事業となり、それぞれの都道府県の最低賃金が適用となります。東京で働いている従業員は東京の最低賃金、北海道で働いている従業員は北海道の最低賃金が適用されるというわけです。
18歳未満または65歳以上の適用
特定(産業別)最低賃金は18歳未満または65歳以上の労働者は適用外となります。しかし、地域別最低賃金では適用の対象です。高校生や高齢者だからといって、最低賃金を支払っていなかったということがないよう気を付けましょう。
最低賃金に関するご相談は社会保険労務士まで
最低賃金とは、言葉の通り従業員に支払うべき最低水準の金額です。最低賃金を下回る給与を支払うことは認められませんので、自社が支払っている給与が各種手当を除いた上で最低賃金を上回っているかを確認しておくことが大切です。
最低賃金以下の給与を支払う場合には、特例に当てはまるかどうかをチェックし、都道府県労働局長の許可を得ましょう。
今回解説した「最低賃金の違反」に関して、少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人労務管理PLUSでは、最低賃金制度の順守に強い専門家が対応させていただきます。
最低賃金制度に関するよくあるQ&A
Q1.最低賃金制度とは何ですか?
A.最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて、使用者に最低賃金以上の賃金の支払いを定めている制度で、労働者の生活を安定させることなどを目的としています。
Q2.最低賃金を下回る給与を定める契約は有効ですか?
A.使用者と労働者の間で、合意の上で最低賃金を下回る給与を定める契約を結んでも無効となります。
Q3.最低賃金法に違反した場合の罰則は何ですか?
A.従業員に対して、最低賃金を下回る給与しか支給していない場合には、いずれ従業員から差額分の支払いを請求されるか、労働基準監督署から是正勧告を受けるでしょう。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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