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賃金支払いの5原則とは?違反した際の罰則や例外・違反例も合わせて解説!

2022.10.28 お知らせ・セミナー情報コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、賃金支払いの5原則について解説していきます。

労働基準法には、労働の対価として労働者が受け取る賃金について明確に定められており、給与計算はこの5原則に従って行われています。違反することがないよう、5原則の内容や、例外、違反例について理解しておきましょう。賃金支払いの5原則が守られなかった時の罰則についてもお伝えしますので、参考にしてください。

賃金支払いの5原則とは?

労働基準法24条には、「賃金は、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。ここから賃金支払いに関して、以下の5つの原則が読み取れます。

  • ・通貨支払いの原則
  • ・直接払いの原則
  • ・全額払いの原則
  • ・毎月1回以上払いの原則
  • ・一定期日払いの原則

賃金支払いの5原則の内容・例外・違反例

賃金支払の5原則について、詳しい内容を解説します。原則の例外、違反例を合わせて見ておくことでより理解が深められますので、参考にしてください。

①通貨払いの原則

通貨とは、法律の規定によって国内に流通する貨幣のことです。日本においては、日本円に当たります。通貨払いの原則では、日本円かつ現金で支払うことが定められています。

例外(1)口座振り込み

労働者本人の同意を得ている場合は、現金の直接手渡しではなく、銀行口座への振り込みが認められています。

例外(2)通勤手当の現物支給

労働組合との労働協約を結んでいる場合に限り、通勤手当を定期券の現物で支給することは問題ないとされています。

例外(3)退職金の小切手での支払い

労働者本人の同意がある場合には、退職金の支払いを銀行振出小切手や、銀行支払保証小切手、郵便為替で行うことが認められています。

違反例(1)外国通貨での支払い

外国通貨で賃金を支払うことはできません。たとえ、ドルやユーロなどの基軸通貨であっても違反となります。外国人労働者に対しても、日本円で支払う必要がありますので注意しましょう。

違反例(2)通貨以外の物による支払い

通貨以外の、正確な金銭的価値を持たない物による支払いは違法に当たります。例えば、商品券や自社商品、有価証券や小切手などによる支払いも認められません。

②直接払いの原則

賃金は必ず、労働者本人に直接支払わなければならないという原則です。第三者に賃金が支払われることを禁止し、中間搾取を防ぐことを目的としています。

例外(1)使者への支払い

労働者本人が、怪我や病気などの事情によって賃金を直接受け取れない場合、使者への支払いが認められています。この場合、配偶者や家族を、代理人ではなく使者として支払います。

使者と代理人の違いは以下の通りです。

・使者:本人に言われたことを伝える人。自ら意思決定をすることはできない。

・代理人:本人から与えられた代理権の範囲内で、自ら意思決定をできる。

つまり、使者は受け取った賃金をそのまま労働者本人に渡すだけなのに対し、代理人は受け取った賃金を自分の判断で使用したり処分したりできるという点で異なります。

例外(2)裁判の決定を受けて差押債権者へ支払う場合

裁判所から、労働者の差し押さえ指示が出ている場合は、差押債権者への支払いが認められています。しかし、裁判所からの判断が下されている場合に限りますので注意しましょう。

違反例(1) 債権者への支払い

労働者が民間の消費者金融などから借金をしている場合、企業側から「賃金で返済してほしい」と迫られることがあっても、支払ってはいけません。返済として賃金を第三者に支払うことは違法です。例外(2)のように、裁判所の決定がなされていない場合には、絶対に支払わないようにしましょう。

違反例(2)代理人への支払い

代理人は権限上、自らの意思で賃金を不当に扱うことができるため、代理人への賃金の支払いは認められていません。

未成年に賃金を支払う場合、法定代理人である親に支払うことも違法とされています。本人の同意がある場合や、委任状を介する場合でも認められないので注意しましょう。

③全額払いの原則

賃金は、指定されている期日に、全額を支払わなければならないと定めた原則です。労働者の生活の安定を目指すため、賃金の一部を控除することは禁止されています。また、会社の経営状況など、いかなる理由があっても分割払いは認められません。

例外(1)法令の定めがある場合

社会保険料や源泉徴収など、法律上に定めのあるものに関しては、天引きが認められています。

例外(2)労使協定を結んでいる場合

労働者の過半数で組織する労働組合を有している場合や、労働者の過半数の代表と書面で取り決めをしている場合には、その項目についての天引きは合法です。例えば、社内旅行の積立金や、社内預金、親睦会費用、社宅の賃金などがあります。罰金に関しては、合意があった場合でも、公序良俗の観点から認められません。

違反例(1)不当な天引き

法令の定めがなく、労使協定の手続きをしていない場合の天引きは不当なものとして認められません。労使協定を結んでいない場合に違法となる天引きの例は、親睦会費用、社員旅行の積立金、社内預金、罰金などがあります。

違反例(2)振り込み手数料の労働者負担

振り込み手数料を労働者側に負担させることは違法です。振り込み手数料は、必ず企業側で負担しましょう。

違反例(3)貸付金との相殺

企業が、労働者に金銭を貸し付けている場合、賃金と貸付金の相殺は認められていません。労働者にお金を貸している場合でも、全額の支払いが必要です。

④毎月1回以上払いの原則

賃金を支払う頻度は、毎月1回以上と定められています。月に1回以上であれば、2回でも3回でも構いませんが、2ヶ月に1回、数ヶ月に1回などの支払いは違法に当たります。

例外(1)臨時で支払う賃金・賞与

結婚手当や傷病手当などの臨時で支払う賃金や、年に数回と決められている賞与に関しては、毎月1回以上払いの原則には当てはまりません。

違反例(1)年俸制での支払い

年俸制を定めること自体は問題ありません。しかし、賃金を年に1回の年俸として支払うことは違法です。年俸制を取り入れている場合でも、必ず12分割して、毎月1回以上賃金の支払いを行いましょう。

違反例(2)まとめ払い

例えば、入社した月に数日しか働いていなかったとしても、賃金を次の月にまとめて支払うのは違法です。たとえ出勤日数が1日でも2日であっても、定められた支払日に支払わなければなりません。

⑤一定期日払いの原則

賃金は、「月末締め翌月末払い」「月末締め翌月15日払い」など、一定の期日を定め、支払われなければならないという原則です。一定期日の例は、以下の通りです。

・毎月末締め翌月25日払い

・毎月末締め翌月15日払い

・毎月15日締め翌月5日払い など

例外(1) 毎月末日払い

末日は、28日・29日・30日・31日と変動しますが、「毎月末日」は一定の範囲内で特定されているため認められています。

例外(2)非常時の支払い

非常時とは、急病や出産など、労働基準法に定められている場合を指します。この場合、労働者から請求があった際には、例外として期日前の賃金の支払いが認められます。

例外(3)支払日が休日の場合

定めている支払日が休日に当たる場合には、その前後の別日に支払うことが認められています。

違反例(1) 支払日の曜日指定

「毎月第2水曜日」「毎月第3金曜日」など、毎月支払日が変動する決め方は違法に当たります。

違反例(2)条件を付けて支払日を指定する

「ノルマを達成したら支払う」「契約を〇件取れたら支払う」など、条件を付けて支払日を指定することは認められていません。

それぞれのケースに応じて、会社側は対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。

賃金計算における端数の扱い

賃金支払いに関するトラブルを未然に防ぐためにも、賃金計算における端数の扱いについてもしっかりと理解しておく必要があります。

割増賃金に関する計算

1時間あたりの賃金額・割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合

50銭以上:端数切り上げ(1円に切り上げる)

50銭未満:端数切り捨て

 

1ヶ月における時間外・休日・深夜労働の割増賃金に1円未満の端数が生じた場合

50銭以上:端数切り上げ(1円に切り上げる)

50銭未満:端数切り捨て

 

1ヶ月における時間外・休日・深夜労働の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合

30分以上:端数切り上げ(1時間に切り上げる)

30分未満:端数切り捨て

1ヶ月あたりの時間外・休日・深夜労働の割増賃金の総額に関する計算

1ヶ月の賃金支払い額に、100円未満の端数が生じた場合

50円以上:端数を切り上げ(100円に切り上げる)

50円未満:端数を切り捨て

※この取り扱いについては就業規則への明記が必要です

 

1ヶ月の賃金支払い額に1,000円未満の端数が生じた場合

端数を翌月の支払日に繰り越して支払うことが認められている

※この取り扱いについては就業規則への明記が必要です

賃金支払いの5原則が守られない時の罰則

賃金支払いの5原則は、いずれか1つでも違反した場合には罰則が科せられます。罰則の内容について理解しておきましょう。

30万円以下の罰金

賃金支払いの5原則は労働基準法24条の違反となり、30万円以下の罰金刑に処されます。これに合わせて、時間外労働や休日労働分の割増賃金も未払いだった場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となり、罰がさらに重くなります。

立ち入り調査や逮捕も

企業側が労働者に対して賃金を支払わない場合には、立ち入り調査が行われ、最悪の場合逮捕に至ることもあります。

逮捕までの流れは以下の通りです。

  • 労働者が賃金を払ってもらえないことを労働基準監督署に相談する。
  • 労働基準監督署が企業に支払いを促す。
  • それでもなお賃金を支払わない場合、労働基準監督署による立ち入り調査や行政指導が行われる。
  • 度重なる指導をしてもなお賃金が支払われない場合には、検察官に書類送検され、労働基準監督署が逮捕に踏み切る。

その他の規定

賃金支払いの5原則に加えて、労働者の生活の保証を目的として、賃金に関するいくつかの規定が定められています。4つ紹介しますので、確認しておきましょう。

残業代と割増賃金の計算

残業代と割増賃金の計算については、混同しないよう理解しておく必要があります。

割増賃金が発生するのは、企業が定める所定労働時間に対してではなく、法定労働時間に対してです。18時間、1週間で40日を超えた場合にのみ、割増賃金が発生します。

例えば、所定労働時間を10時〜18時、休憩を1時間、すなわち所定労働時間が7時間と定めている場合。労働者が18時以降に2時間残業すると、初めの1時間は、所定労働時間を超えているため残業代として扱われます。その後の1時間は、18時間を超えた法定労働時間外の労働として、割増賃金として扱われるのです。

遅刻・早退に関する賃金の支払い

遅刻や早退に関しては、その分の労働が発生しないため、賃金を支払う必要はありません。ただし、遅刻・早退した分を超えて賃金を支払わないことは違法となります。

休業時に関する賃金の支払い

労働者が休業する際や休暇を取得する際には、賃金が発生する場合と発生しない場合があります。以下で確認しておきましょう。

 

・有給休暇

支給額について就業規則に記載しておく必要があります。

 

・慶弔休暇

労働基準法では定められていないので、慶弔休暇の日数や、賃金の支払いについては就業規則で定める必要があります。

 

・産前産後休業

有給にするか無給にするかについては就業規則で規定します。

 

・育児休業、介護休業

有給にするか無給にするかについては就業規則で規定します。

 

・休職期間

賃金の取り扱いについて就業規則で定める必要があります。

 

・会社都合による休業手当

会社の都合による休業の場合には、平均賃金の6割以上を労働者に対して支払わなければなりません。労働者が完全に休業していて労働していない場合でも、会社側は賃金の保証が必要になります。

 

給与明細の交付

企業側から労働者に対する支払明細書の交付は、所得税法で定められています。労働者に賃金を支払う場合には、企業は給与明細の交付が必ず必要です。

 

賃金支払いの5原則に関するご相談は社会保険労務士まで

賃金支払いの5原則は、どれか1つでも違反した場合、罰金刑が科されます。原則の例外と違反例をよく理解した上で、正しく賃金の支払いを行わなければなりません。

今回解説した「賃金支払いの5原則」について、少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、賃金支払いの5原則に強い専門家が対応させていただきます。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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