意外と知らない退職金。経営者が知っておきたい退職金のルールをまとめて解説
- 2022.12.02 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。
今回は知っているようで知らない、退職金についてお話していきたいと思います。
退職金とはそもそもどんなものか?
退職金制度がなくても法的に問題ないのか?
退職金制度を新たに設ける場合はどうしたらいいのか?
そんな退職金にまつわることについて解説します。
目次
退職金とは
まず、前提となる退職金の定義について解説します。
退職金とは、一定期間勤続した従業員が退職した場合について支払われるお金のことを指します。
企業によっては退職手当、退職慰労金、退職功労報奨金など様々な名称を使うこともありますが、ここでは同じ扱いとして一律に「退職金」とします。
退職金の支払い方法
退職金の支払いとしては、「退職一時金」と「退職年金」の2種類があります。
片方のみの企業もあれば、両方を併用する企業もあります。
一般的に多いのは「退職一時金のみ」の支払いをする企業のようです。
退職金の原資となるお金としては、その企業の準備金や、中小企業退職金共済制度のような各種共済、また両方を組み合わせて捻出したお金から賄われるようです。
退職金制度なしは違法?
結論から申し上げますと、退職金自体に法律上の支払い義務はありません。
退職金制度や支払いについては各企業の判断にゆだねられているのが現状です。
しかし、従業員の離職を防止するためや、採用率の向上のために退職金制度を備える企業も増えてきています。
退職金の種類とは?
さて、退職金の種類には、どんなものがあるのでしょうか。
前項で軽く触れましたが、ここでは退職金の種類について詳細に解説していきたいと思います。
退職金一時金制度
従業員が退職したときに、企業が従業員に対して一時金を支給する制度です。
企業による柔軟な制度設計ができ、退職事由による給付の差を設けることができるため、企業にとっては扱いやすい面があります。
また、従業員が「自分がいくら受け取れるか」を見積もりやすいという一面もあります。
確定給付企業年金
確定給付企業年金とは、企業が将来の給付額を保証する制度をいいます。
こちらも、退職金一時金制度同様に、従業員が自分がいくら受け取れるかを見積もりやすいという一面を持っており、また、受給方法については、年金と一時金の選択が可能です。
しかし、運用結果により赤字が出た場合は企業に補塡義務が生じるというデメリットも持っています。
種類には、規約型と基金型の二つがあります。
規約型
企業から委託を受けた信託銀行・生命保険等が年金資産の運用・管理・給付を行うパターン
基金型
外部機関の基金が年金資産の運用・管理・給付を行うパターン
企業型確定拠出年金(企業型DC)制度
企業型確定拠出年金(企業型DC)制度とは、年金資産が従業員個人別に管理され、本人の運用実績に応じて将来の給付額が変動する制度のことを言います。
退職金の原資となる掛金の拠出は原則企業が行いますが、資産の運用指図は従業員である加入者本人が行います。運用でありますので、当然運用結果は自己責任という形になります。
そのため、企業は従業員に対して投資教育の努力義務が発生します。
退職金共済制度
独力では退職金制度を設けることが難しい中小企業について、相互共済の仕組みなどで退職金の原資を確保する制度です。
掛金の拠出は企業が行い、退職金は基本退職金と付加退職金の合計額で支払われます。
基本退職金は、月額の掛金と掛金を納めた月数に応じて制度全体の予定運用利回り1%で設計し定められています。運用利回りが予定運用利回りを上回った場合には、付加退職金が加算されることがあります。
中小企業退職金共済制度では国の助成を受けることも可能です。
退職金の相場
それでは次に退職金の相場についてお話していきます。
退職理由別、勤務年数別についての相場をお伝えしますので、新たに退職金制度を設ける場合など、準備金の参考にしてみてください。
退職理由別の退職金相場
退職理由別の退職金の相場額は下記のとおりになります。
今回、対象となる従業員は退職給付(一時金・年金)制度がある勤続20年以上かつ45歳以上の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)として算出しています。
退職理由別の退職金相場※勤続20年以上かつ45歳以上の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の場合 |
|
定年退職 |
1,983万円 |
会社都合 |
2,156万円 |
自己都合 |
1,519万円 |
早期優遇 |
2,326万円 |
出典:「平成30年就労条件総合調査結果の概況」
こうして見ると、最も高額な退職金が支給されているのは早期優遇であることがわかります。
次に会社都合による退職で2,156万円。
最も少額な退職金は自己都合の1,519万円となっています。
勤務年数別の退職金相場
では次に、同じデータ(大学・大学院卒(管理・事務・技術職)を対象)にした勤続年数別の退職金相場をみてみましょう。
勤務年数別の退職金相場※勤続20年以上かつ45歳以上の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の場合 |
|
勤続20~24年 |
1,267万円 |
勤続25~29年 |
1,395万円 |
勤続30~34年 |
1,794万円 |
勤続35年以上 |
2,173万円 |
最も退職金額が多いのは、やはりとも言うべき、勤続35年以上の2,173万円でした。
勤続20~24年の1,267万円と勤続35年以上の2,173万円では、1,000万円近い差があります。
この数字から読み取れることは、勤続年数が増えるにつれて退職金の相場が高くなっているということ。長く勤務した従業員は高い退職金が支払われています。
退職金制度を設けるメリット・デメリット
従業員には大きなメリットを感じる退職金ですが、企業にとってのメリット、デメリットには何が挙げられるでしょうか?
退職金制度を設ける場合、採用時のアピールや従業員が長期勤務しやすくなる、早期退職に応じてもらいやすいなどのメリットがあります。
しかし、その反面で退職金のための原資を確保しなければならない、退職金のための内部留保は課税対象になるなど企業にとってのデメリットも大きいと言えます。
どちらを選択するかは当然企業の自由ですが、難しいと感じる場合は社会保険労務士法人中込労務管理でもご相談を受けておりますのでお気軽にご相談ください。
退職金制度を導入するために必要なステップ
退職金制度を新たに導入しようと思った場合、どういった手続きが必要になるでしょうか?
必要なステップを詳しく解説していきます。
①退職金規定を設定する
退職金を新たに導入しようとした場合、企業内のルールを設ける必要があります。
つまり、退職金に関する規定を設定します。
退職金規定には以下のような内容を設定します。
・退職金を用意する方法
・退職金が適用される従業員の範囲、条件
・掛金の額、変動などの有無
・退職金の額
・懲戒解雇した場合の退職金の有無、減額などについて
・中途退職、従業員が死亡した場合の退職金の扱いについて
・退職金の改廃について
・実施開始日
・退職金規定を実施する以前から勤務している従業員に対しての処遇
・支払い方法、支払い時期
企業によっては上記以外の内容を設定するケースも出てきます。その場合は専門家などにご相談ください。
退職金制度が元々存在する場合の規定変更
元々退職金制度が存在し、規定を変更する場合についても解説いたします。
退職金制度の規定を変更する場合、特に退職金を廃止したり、引き下げたりする場合は要注意です。
なぜなら、労働条件の不利益変更に該当するからです。
労働条件の不利益変更を行うことができるのは、原則その変更に同意した者のみとなります。
変更に反対する従業員がいても規定変更を望むのであれば、その変更内容に客観的合理性(正当性)がある必要があります。
②従業員への説明会の開催
退職金規定の内容が確定したら、次に従業員に対して説明会を開くことをお勧めします。
新たな規定設定は、従業員を混乱させる可能性もあります。
何のために退職金制度を導入するのか、従業員に与える影響などを、きちんとわかるように説明しましょう。
また、退職金制度が適用になる条件や、制度導入から実行へのスケジュールについても伝えましょう。
③行政への届け出
退職金規定を設けたなら、就業規則の相対的必要記載事項に該当します。
従業員数10人以上の企業は変更の届出義務があるため、労働基準監督署への届け出をすることが必要になります。
こんな時はどうなる?よくある退職金FAQ
ここまでで、退職金の基礎知識をお伝えしてきました。
次に、退職金に関するよくある質問をFAQ形式でお伝えしていきます。
Q.自己都合の中途退職の従業員には支払いをする?
退職金においては法的な縛りはありませんので、支払い義務が生じるか否かについては企業の退職金規定によるところが大きいといえます。
一定年数勤務した従業員であれば、支払いをする規定であれば支払いが必要です。
また、従業員の勤続年数等に応じて決まる、自己都合退職による減額率に関する表などを規定で作成している場合はそれに準じる形になります。
Q.懲戒解雇の従業員へ退職金の支払いは免除される?
これも同じく企業の退職金規定に準じる内容になります。
「懲戒解雇された従業員には退職金を支給しない」という内容を規定しているようであれば、懲戒解雇の従業員へ退職金の支払いをする義務はありません。
Q.支払い期限が切れてから退職金の支払いを要求された
労働基準法115条によれば、退職金請求権の時効期間は5年と定められています。
また、未払い残業代などの賃金請求の時効期間は3年となっています。
つまり、少なくとも退職から5年経過していれば支払いをする義務はないといえます。
退職金制度を初めて導入する場合は助成金をうまく活用しましょう
前項で、独力では退職金制度を設けることが難しい中小企業について、相互共済の仕組みなどで退職金の原資を確保する制度「中小企業退職金共済制度」があるとお伝えしました。
これに新規加入する中小企業においては、国からの助成金を受けることができます。
例えば、新規加入後4ヶ月から1年の間は掛金月額の1/2を国が助成します。※従業員ごと上限5000円
パートタイマー等の短時間労働者の場合であれば、上記に加えて以下の額を上乗せして助成されます。
掛金月額2000円の場合:300円
掛金月額3000円の場合:400円
掛金月額4000円の場合:500円
初めて退職金制度を導入する時には専門家の力を借りよう!
今回は、知っているようで知らないことも多い退職金についてお話しました。
退職金は従業員にとって魅力的な条件ですが、企業にとってはその準備金や掛金など負担が大きいのも事実です。
給与額に応じた掛金を支払わなければならず、毎月の掛金が経営を圧迫しないか、正確に判断する必要もあります。
長期的な経営計画も必要になってきますので、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へご相談ください。
また、退職金制度に関する助成金を使用して始められたい場合はその専門である社会保険労務士へのご相談をお勧めしております。
社会保険労務士法人中込労務管理でも、退職金、助成金に関するご相談を受けておりますので、お気軽にご相談ください。
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人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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