変形労働時間制とは?起こりやすいトラブルや残業代の考え方も解説
- 2022.10.03 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は「変形労働時間制」について解説します。
変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて労働時間を調節できる制度です。効果的に活用すれば、残業代の削減にもつながります。特に繁閑の差が大きい業種の方は、導入を検討してみてもよいでしょう。
ただし、変形労働時間制は制度自体が複雑ですので、労使間でトラブルになってしまうこともあります。正しく理解した上で導入することが大切です。
本稿では、変形労働時間制の概要や起こりやすいトラブルについて解説します。労働者とトラブルになりやすい残業代の考え方もくわしくお伝えしますので、ぜひご一読ください。
目次
変形労働時間制とは
まずは、変形労働時間制の概要や導入方法などからみていきましょう。
変形労働時間制の概要
変形労働時間制とは、労働時間を一定期間内で調整できる働き方のことです。
通常の働き方だと、「1日8時間以内・1週40時間以内」と労働時間が定められています。一方、変形労働時間制ではこの枠にとらわれず、より大きなくくりで労働時間を計算します。
たとえば、労働時間が1日10時間の日があっても、1週の労働時間が40時間以内に収まっていれば法定労働時間内の労働とみなされます。変形労働時間制を活用すれば、繁忙期には1日10時間、閑散期には1日6時間など、業務実態に合わせて労働時間を調節できるのです。
労働力を効率的に使えることで、企業にとっては残業代を削減でき、労働者にとってはメリハリのある働き方ができるといったメリットがあります。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制には、単位期間の違いによって以下の3種類があります。
・1年単位の変形労働時間制
・1か月単位の変形労働時間制
・1週間単位の変形労働時間制
それぞれの違いを表にまとめて紹介します。
※常時労働者が10人未満の、映画・演劇業や商業、保健衛生業、接客娯楽業の場合
変形労働時間制の導入方法
変形労働時間制を導入するには、労使協定や就業規則などで規定することが必要です。なおくわしい要件は、導入期間によって異なります。
あらかじめしっかりと確認し、適切な手続きを行うことが大切です。具体的な導入方法については、のちほど各章でお話しします。
変形労働時間制の注意点
変形労働時間制を導入しようと考えている企業の中には、「変形労働時間制を導入すれば残業代を削減できる!」とお考えの方もいるでしょう。しかし結論からいうと、変形労働時間制を導入したからといって、必ずしも残業代を削減できるわけではありません。
変形労働時間制を導入しても、所定労働時間を超えた場合は残業代を支払う必要がありますし、法定労働時間を超えた場合は割増賃金を支払う必要があるのです。
変形労働時間制を導入すれば残業代を支払わなくてもよいと考えていると、矛盾が生じますので注意してください。
労働基準監督署が調査するポイント
・制度の設計が法律に則っているか
・適切に制度が運用されているか
特に、1年単位の変形労働時間制を導入する場合は、運用期間が長くなります。適切に運用されているか把握しにくくなることもありますので、よりいっそうの注意が必要です。
1年単位の変形労働時間制
「1年単位の変形労働時間制」を導入すると、期間中の1週あたりの平均労働時間が40時間以内なら、1日8時間以上や1週40時間以上の労働をさせることが可能になります。
1年単位の変形労働時間制は、製造業やレジャー施設、私立学校のような季節によって繁閑の差が予想される業務に向いています。
労働日・労働時間の上限
1年単位の変形労働時間制には、労働日や労働時間の上限が設けられています。具体的な内容は以下の通りです。
・連続労働日数の上限:6日
・労働時間の上限:原則、1日10時間・1週52時間
・1年の実労働日数の上限:280日
なお3か月を超える変形労働時間制を設定する場合は、上記に加え、以下の条件を満たす必要があります。
・週48時間を超える週は、連続3週間以内であること
・週48時間を超える週は、3か月に3週以内であること
1年単位の変形労働時間制を導入するには
1年単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結が必須です。対象となる労働者や対象期間、労働時間などを定めた労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、1年単位の変形労働時間制を導入できます。
1か月単位の変形労働時間制
「1か月単位の変形労働時間制」を導入すると、期間中の1週あたりの平均労働時間が40時間以内なら、1日8時間以上や1週40時間以上の労働をさせることができます。
医療・福祉業や運転手、警備員のような、長時間労働になりやすい業務に適しています。また、月初や月末など、ひと月の中で業務量の差が大きい場合にも、メリットがあるでしょう。
労働日・労働時間の上限
1か月単位の変形労働時間制は、1年や1週間単位の変形労働時間制と異なり、労働日や労働時間に関する制限がありません。1週あたりの平均労働時間が40時間を超えていないことのみが条件です。
1か月単位の変形労働時間制を導入するには
1か月単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結・届出もしくは就業規則への規定・届出をする必要があります。
規定する事項は、変形労働時間制を導入する起算日や各日の具体的な労働時間などです。
労使協定を締結したら、所轄の労働基準監督署に届け出ます。なお、1か月の変形労働時間制を導入するにあたり就業規則を変更した場合も、所轄の労働基準監督署に届け出ましょう。
1週間単位の変形労働時間制
「1週間単位の変形労働時間制」を導入すると、1週間の中で労働時間を調節できます。日ごとの繁閑差が大きいものの、繁閑が定期的ではない場合に導入するとメリットが感じられるでしょう。
この制度を導入できるのは、常時労働者が30人未満の小売業や旅館、飲食店などに限られます。
労働日・労働時間の上限
1週間単位の変形労働時間制には、1日10時間・1週40時間という上限が定められています。
1週間単位の変形労働時間制を導入するには
1週間単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結が必須です。ただし、1年や1か月単位の変形労働時間制を導入する場合と異なり、期間中の労働時間や、勤務日の始業と終業の時間などをあらかじめ規定しておく必要はありません。
1週間単位の変形労働時間制を導入する場合は、「1日10時間・1週40時間の範囲内で変形労働時間制を導入する」といった内容だけで大丈夫です。労使協定を締結したら、所轄の労働基準監督署に届け出ましょう。
とはいえ労働者には、1週の労働時間や、勤務日の始業と終業の時間などをあらかじめ書面で知らせておかなければいけません。
なお、労働者が10人以上の場合は、これらの内容を労働者に知らせる時期や方法について、就業規則に規定しておく必要があるという点も注意が必要です。
変形労働時間制で起こりやすいトラブル
変形労働時間制では、労働時間や残業時間の計算方法が複雑です。そのため労使間でトラブルになるケースが多くみられます。
本章では、変形労働時間制で起こりやすいトラブルについて紹介します。
所定労働時間について
変形労働時間制では、日ごとや週ごとに所定労働時間が変わることも多く、労働者が把握しにくくなっています。そのことが原因で、トラブルに発展してしまうケースも少なくありません。
トラブルを回避するためには、日ごとや週ごとの所定労働時間を労働者に明示することが効果的です。労働者から問い合わせがあった場合は、すぐに回答できるよう準備をしておきましょう。
また、企業側が変形労働時間制を正しく理解できていないことが原因で、トラブルになってしまうこともあります。
たとえば、「変形労働時間制=長時間働かせることができる制度」と間違った認識をしているケースです。
変形労働時間制は、業務実態に合わせて労働時間を調節できる制度であり、いくらでも働かせてよい制度ではありません。変形期間に応じた上限を守る必要があります。
労働者とのトラブルを防ぐためにも制度の内容を正しく理解し、労働時間の管理は入念に行ってください。
残業代について
労働時間が変則的な変形労働時間制は、給与や残業代の計算も複雑です。制度について正しく理解できていないと、大きなトラブルになることもあります。残業代の計算方法については、次章でくわしくお話ししますので参考にしてください。
ここまで変形労働時間制の概要やトラブルについて解説してきましたが、非常に複雑な内容であることに不安を感じられている方もいるかもしれません。専門的な内容も多く、自社で正しく対応することに負担を感じられている方もいるでしょう。
変形労働時間制についてご不安やご負担を感じられた場合は、ぜひ社会保険労務士法人中込労務管理にご相談ください。企業の状況に応じた対応をご提案させていただきます。
変形労働時間でトラブルになりやすい残業代の計算方法
変形労働時間制において、大きなトラブルにつながりかねないのが残業代です。本章では、変形労働時間制における残業代の計算方法について解説します。
法定労働時間の総枠を知る
残業代を計算するには、どのくらいの時間、法定労働時間を超えて労働させたのかを正しく算出する必要があります。
その理由は、どのタイプの変形労働時間制を導入するにしても、法定労働時間を超えて労働させた場合、その超えた時間が割増賃金の対象となるからです。
そこで、まず法定労働時間の総枠を知っておきましょう。法定労働時間の総枠は以下の計算式で求められます。
40時間× 変形期間の暦日数 / 7日 |
この式を使えば、どのような場合でも法定労働時間を計算できますので、頭に入れておきましょう。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、1か月から1年の間で期間を設定できます。その期間の暦日数を上記の式にあてはめて、期間全体の法定労働時間を算出しましょう。
たとえば、1年間変形労働時間制を導入する場合の法定労働時間は、以下のようになります。
40時間× 365日 / 7日≒2,085時間
ここで算出された2,085時間を超えると、残業代の対象となります。
適用する期間によって、先ほど紹介した式の「変形期間の暦日数」の部分が変わりますので、日数の数え方には注意しましょう。
1か月単位の変形労働時間制
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内であれば、15日間や2週間などさまざまな期間で導入できます。
たとえば、15日間変形労働時間制を導入する場合の法定労働時間は、以下のようになります。
40時間× 15日 / 7日≒85.7時間
なお丸1か月間、変形労働時間制を導入する場合でも、月によって暦日数が異なるため、法定労働時間にも違いが出てきます。正しく計算し、法定労働時間を把握しておきましょう。
1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制を導入する場合は、特に計算する必要はありません。通常の労働時間の考え方と同様で、法定労働時間は40時間です。
変形労働時間での残業代の考え方
変形労働時間制での残業代を考えるには、「所定労働時間を超えて労働した時間」や「法定時間外労働の時間数」を正確に計算することが大切です。
「所定労働時間を超えて労働した時間」は、あらかじめ定めている所定労働時間と比較して算出します。
「法定時間外労働の時間数」については以下の3ステップで考えます。
1.1日について考える
2.1週について考える
3.対象期間全体まで期間を伸ばして考える
それぞれくわしく解説しましょう。
1.1日について考える
まず、1日単位で残業代が発生しているかどうかを確認します。
1日の法定労働時間は8時間ですので、「所定労働時間が8時間を超えている日」と「超えていない日」にわけて考えます。
【所定労働時間が8時間を超えている日】
・所定労働時間を超えた部分:法定時間外労働にあたる(割増賃金の対象)
【所定労働時間が8時間を超えていない日】
・所定労働時間~8時間まで:法定内残業にあたる(労働時間相当の通常賃金の支払い対象)
・8時間を超えた部分:法定時間外労働にあたる(割増賃金の対象)
2.1週について考える
次に、1週単位で確認します。
1週の法定労働時間は40時間ですので、「所定労働時間が40時間を超えている週」と「所定労働時間が40時間を超えていない週」にわけて考えます。
【所定労働時間が40時間を超えている週】
・「所定労働時間を超えた時間」から「1日単位の計算でカウントした時間」を差し引いた部分:法定時間外労働にあたる(割増賃金の対象)
【所定労働時間が40時間を超えていない週】
・所定労働時間~40時間まで:法定内残業にあたる(労働時間相当の通常賃金の支払い対象)
・「40時間を超えた部分」から「1日単位の計算でカウントした時間」を差し引いた部分:法定時間外労働にあたる(割増賃金の対象)
3.対象期間全体まで期間を伸ばして考える
最終的に、対象期間全体まで期間を伸ばして考えます。
先ほど紹介した式(40時間× 変形期間の暦日数 / 7日)で算出した「法定労働時間の総枠」から「1日単位・1週単位の計算でカウントした時間」を差し引いた部分が法定時間外労働にあたります。
まとめ
変形労働時間制は、労使両者にとってメリットがある制度です。けれども、労働時間や残業についての考え方が複雑でわかりにくいため、トラブルになりやすい一面もあります。導入する際は、しっかりと制度を理解しておく必要があるでしょう。
今回解説しました変形労働時間制について、少しでも難しいと感じられたら専門家へ相談することをおすすめいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、働き方や賃金問題に強い専門家が対応させていただきます。お気軽にお問合せください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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