就業規則はどうする?副業・兼業導入のポイントや注意点を社労士が解説!
- 2022.03.01 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、企業が副業・兼業を解禁する際のポイントや注意点、就業規則の見直しや副業規定作成の手順などについて解説していきます。
働き方改革や、ライフスタイルの多様化などにより、これまで副業・兼業を禁止してきた企業が次々に解禁しています。自社で実際に副業・兼業の解禁を行うにはどのような準備をすれば良いのかと、不安に思っている方も多いでしょう。この記事を参考に、副業・兼業に関する基礎知識の確認と解禁に向けた準備を進めてみてください。
目次
副業・兼業とは
副業・兼業の導入を検討するにあたり、それぞれどのようなものなのか知っておくことが大切です。まずは、副業・兼業の定義など基礎知識を確認していきましょう。
副業・兼業の定義
実は副業・兼業について、法律では決められた定義はありません。中小企業庁による「兼業 ・副業を通じた創業 ・新事業創出に関する調査事業 研究会提言」において、「兼業・副業とは、一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事を指す」とされています。具体的には、本業とは別に何かビジネスやアルバイトなどをしている状態のことです。
副業と兼業の違いについても、特に法律で決められているわけではありませんが、一般的には区別されることもあります。
副業は、本業とは別にサブとなる仕事をすること。仕事を掛け持ちしていても、メイン(本業)とサブという関係がはっきりしている場合を指します。
一方兼業は、仕事を複数掛け持ちする点は副業と同じですが、メインとサブという関係がはっきりと決まっていない場合も多いです。それぞれの仕事の比重や収入がほぼ同等の場合もあります。
副業・兼業が禁止されてきた理由
副業・兼業が禁止されてきたのには、以下のような理由があります。
・本業に支障をきたす可能性がある
・情報漏洩のリスクがある
・副業・兼業の内容によっては社会的信用を失う可能性がある
・本業と競業する副業・兼業により、企業の利益を害する可能性がある
これまでの判例でも、上記に該当する場合には制限が認められてきました。
副業・兼業の解禁が進む背景
企業が副業・兼業の解禁を行う背景には、政府が1億総活躍社会を目指して進める『働き方改革』の影響が大きいと言えます。2018年には、厚生労働省によって「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が作成され、「モデル就業規則」に記載されていた「許可なく他の会社に従事してはいけない」という旨の遵守事項が削除されました。これらの国の動きに加え、副業を解禁した企業の成功事例も明らかになってきたことから、副業・兼業の解禁が次々と進められるようになったのです。
副業・兼業解禁のパターン3つ
副業・兼業の解禁には、以下の3つのパターンがあります。
・完全解禁
従業員の副業・兼業を会社が全面的に認めるケース。会社への届け出は不要で、競業への就業なども制限しません。
・届出制
従業員が副業・兼業を行う場合に、どのような内容なのか会社への届け出を必要とするケース。会社側は内容の審査は行いません。
・許可制
従業員が副業・兼業を行う際に会社からの許可を必要とするケース。従業員が申請した内容を会社側が審査します。会社側が副業・兼業に関する禁止事項や制限事項を定めている場合に多く用いられます。
従業員とのトラブルを未然に防ぐためには、企業の実状に合わせて、どのパターンを取り入れるか慎重に検討する必要があるでしょう。
副業・兼業を解禁するメリット・デメリット
新たな制度を導入する際には、良い面だけでなく起こり得るリスクも知っておくことが大切です。副業・兼業を解禁することでどのようなメリット、デメリットがあるのか、確認しておきましょう。
副業・兼業解禁のメリット
まずは、副業・兼業を解禁するメリットを見ていきましょう。
従業員のスキルアップにつながる
従業員が副業・兼業を行うことで、他社の仕事や自分のビジネスを通じて様々なスキルを身に付けられます。これは、副業・兼業を解禁する最大のメリットと言っても過言ではありません。身につけたスキルを本業に生かすことができ、生産性アップも見込めます。
企業のイメージがアップし優秀な人材確保につながる
副業・兼業を解禁することで「従業員一人一人の意志を尊重している企業」「先進的な考えの企業」「キャリアアップしやすい企業」など、企業のイメージアップにつながります。求職者に魅力的に映るため、優秀な人材を確保しやすくなるのです。
離職率の低下につながる
会社が副業・兼業を認めることで、従業員は会社に属して安定した収入を得ながらやりたいことに取り組めます。「会社は自分の意思を尊重してくれる」と感じて、従業員の会社への満足感がアップし、離職率の低下にもつながります。
副業解禁のデメリット
続いて、副業・兼業解禁のデメリットを解説します。
本業に支障をきたす可能性がある
当然副業・兼業は本業の就業時間外に行うことになるため、トータルでの従業員の労働時間が長くなり、十分な休息を取れなくなる可能性があります。従業員の疲労により本業に支障が出てしまうリスクが考えられます。
情報漏洩のリスクが上がる
従業員が副業・兼業として他の会社と関わる以上、情報漏洩のリスクがあることを覚えておかなければなりません。情報が漏洩した場合の対処法、守秘義務などについて従業員へ事前に周知しておく必要があります。
従業員の健康管理がしにくくなる
本業と副業(兼業)の両方を行う場合、仮に従業員が過労により健康を害した場合、その責任は本業の会社にあるのか副業(兼業)の会社にあるのか、責任の所在が曖昧になります。こういったトラブルを未然に防ぐため、副業・兼業を解禁する際には従業員の労働時間の管理や健康管理の方法についても見直す必要があるでしょう。
副業・兼業を解禁する際のポイント・注意点
実際に副業・兼業を解禁する際にポイントとなる点や、注意すべき点をお伝えします。
副業・兼業先の情報を届け出るシステムを整えておく
会社名や所在地、連絡先、事業内容、業務内容、就業期間、所定労働時間、所定外労働時間などの確認をルール化しておきましょう。厚生労働省が出している「副業・兼業に関する届出様式例」を活用してみてください。
従業員の健康状態を把握する仕組みを作っておく
副業・兼業解禁のデメリットの部分でも述べた通り、従業員が副業・兼業を始めることで健康を害してしまう可能性は十分考えられます。その対策として、日頃から従業員の健康状態を把握できる仕組みを整えておきましょう。具体的な方法としては、1on1で対話の機会を設ける、定期的な健康調査やストレスチェックを行う、相談窓口を作る、福利厚生を充実させる、健康診断を実施するなどが考えられます。
労働時間通算の対象となるかを確認する
副業・兼業先での雇用条件によっては、労働基準法により、本業と副業(兼業)先での労働時間を合わせて計算しなければなりません。従業員が副業・兼業先でどのような雇用契約を結んでいるかを確認しておきましょう。
労働基準法では、時間外労働の上限が定められています。そのため、本業で時間外労働をしていなくても割増賃金が発生することがあるのです。場合によっては、自社での労働時間の見直しが必要になるでしょう。
副業・兼業先での労働時間を把握する方法は、従業員の申告によって行えば良いとガイドラインに記載されています。仮に労働時間が従業員の申告と異なっていた場合でも、申告の通りに計算していれば良いとされています。
従業員が副業・兼業先で以下の雇用契約を結んでいる場合、本業と副業の労働時間を通算する必要はありません。
・個人契約、委託契約、請負契約の場合(フリーランス、コンサルタントなど)
・労基法上での管理監督者として従事する場合(理事、顧問など)
・機密の事務を取り扱う者、監視や断続的労働者、高度プロフェッショナル制度の対象労働者
労災保険、雇用保険、社会保険の手続きの有無を確認する
従業員が副業・兼業をする際には、労災保険、雇用保険、社会保険などについても確認しておきましょう。
労災保険
従業員が1人でもいる場合には、労災保険の加入手続きを行わなければなりません。雇用形態に関わらず、アルバイトやパート勤務などを含む全ての従業員が対象となります。ただし、フリーランスなどの個人事業主、会社役員などの管理監督者は対象ではありません。
例えば副業・兼業をしている従業員が過労によって健康を害した場合、これまでは各々の会社で別々に従業員への負荷を評価して判断していました。しかし、今では両方の会社の負荷を合わせて判断されるようになったので、労災認定されやすくなっています。
雇用保険
雇用保険は、複数の会社で同時に加入することはできないため、給与が多い方の会社で加入することになります。
社会保険
社会保険も雇用保険同様、複数の会社で同時に加入することはできません。副業・兼業先の会社での雇用条件が適用外である場合には問題ありませんが、本業も副業(兼業)も社会保険の適用となる場合には、どちらの企業の社会保険に入るかを従業員が選びます。
例えば、A社とB社に属していて、A社の社会保険に加入を決めた場合、A社とB社の月額報酬を合算して保険料を算出。A社とB社の月額報酬の比率に合わせて保険料を割り振り、B社はA社に保険料を納めます。この場合、保険料の割り出しなどの事務手続きは選ばれたA社が行います。
これらの手続きは、各々の企業に合わせた対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
副業・兼業を解禁する際の就業規則の策定方法・手順
これまで副業・兼業を禁止していた企業が副業を解禁する場合には、就業規則の見直しが必要です。ここでは就業規則策定の手順を解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
手順①就業規則の変更が必要か検討する
もし就業規則に「副業を全面的に禁止」する旨が記載されている場合には、「副業を認める」旨に変更しましょう。「許可なく他の会社に従事してはいけない」と記載がある場合、許可制で副業解禁を行う場合には変更不要、届出制や完全解禁にする場合には変更が必要です。
就業規則の本則に関しては、上記の通り大幅な変更は不要な場合がほとんどですが、次の手順で解説する「副業規定」をしっかりと作成しておくことが重要です。必要に応じて別冊で用意するとわかりやすいでしょう。
手順②副業規定を作成する
副業規定の作成にあたって、定めておくべき代表的な事項を4つ紹介します。会社の実情に合わせて内容を検討することをおすすめします。厚生労働省の「副業・兼業」に関するページの資料等も活用してみましょう。
副業・兼業を始める際の手続きの方法(許可制か、届出制など)
副業・兼業を始める際にどのような手続きが必要となるか、また定められた手続き方法に反して副業を行った場合の対応についても記載しましょう。申請書類の書式や申請窓口なども記載しておきます。
副業・兼業を制限する場合の基準
副業・兼業の範囲を制限する場合には、その基準を明記しておきましょう。制限の例としては、同業種や競合他社、賭博業、風俗業、深夜業、屋外作業などの心身に負担のかかる仕事などが挙げられます。
副業・兼業の労働状況、労働時間の管理方法
副業・兼業での労働状況や、労働時間を管理する方法を就業規則に明記しておくとスムーズです。副業(兼業)を始める理由は人それぞれで、会社に詳しい内容や労働時間などを知られることを良く思わない従業員もいるかもしれません。従業員の健康管理のためなど情報を把握する必要性を周知して、理解を得るようにしましょう。
副業・兼業時の服務規律
守秘義務や情報漏洩に関することや、会社の不利益になる行為の禁止など副業・兼業時に従業員が守るべき服務規律を明確にしておきましょう。服務規律に違反した場合の処分や対応についても記載しておきます。
手順③副業規定を周知する
副業規則を設けていても、従業員全員に周知されていない場合には、法的な効力が認められません。全く周知を行っていない、一部の従業員だけに周知されているという事態にならないよう対策が必要です。全従業員が閲覧できるよう原本やデータの場所を社内メールなどで伝えるのも一つの方法です。
手順④労働基準監督署へ届け出る
労働者が10名以上の企業の場合には、作成した規定を労働基準監督署に届け出る必要があります。所轄の労働基準監督署を確認した上で、忘れずに届け出ましょう。
副業・兼業の導入に関するご相談は社会保険労務士まで
副業・兼業を解禁することで多くのメリットが得られる反面、トラブルが起きるリスクも否定できません。トラブルを回避するには、事前の準備が必要不可欠です。副業・兼業に関する就業規則を定めてルールを徹底し、皆が気持ち良く働ける環境を整えましょう。
今回解説した「副業・兼業導入に関する就業規則の見直し」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、就業規則に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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