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管理職に残業代は出る?出ない?名ばかり管理職の残業代について解説

2022.08.26 コラム

山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。

「名ばかり管理職」という言葉をご存知でしょうか?

役職に見合った業務をこなさない管理職のことではありません。

企業の認識と、労働基準法上の管理監督者の認識の狭間に陥ってしまったが故に、不幸な労働契約に陥っている管理職者のことを指します。

そもそも、管理職と管理監督者の扱いが違うことを認識しておかなければなりません。

今回は、「名ばかり管理職の残業代」を解説します。

そもそも管理職とは?

そもそも管理職の定義を確認していかなければなりません。

管理職とは、企業内で一定の権限を持ち、部下となる従業員や会社の売り上げ等を管理する役職者を指します。

いわゆる係長、課長、部長などに相当します。

次に、管理職と混同しがちな「管理監督者」の解説をしていきます。

労働基準法上の「管理監督者」とは

ここでいう管理監督者とは、「労働基準法上の管理監督者」を指します。

労働基準法上の管理監督者とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」のことを言います。

【参考:労働基準法41条原文】

(労働時間等に関する規定の適用除外)

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

 

つまりは、労働条件の決定や、その他労務管理等において経営者と等しい立場にある者のこと、という解釈になります。

役職名に関わらず、実態に即して判断すべきものである、とされています(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号)。

通達が出ていますので、次に詳細を解説します。

「管理監督者」の解釈例規

以下、通達についての原文を抜粋していますのでご確認ください。

(1)原則

法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は、最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要性等から任命する職制上の役付者であれば全てが管理監督者として例外的取扱いが認められる者ではないこと。

 

(2)適用除外の趣旨

これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。

従って、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。

 

(3)実態に基づく判断

一般に企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下、「職位」という。)と経験、能力等に基づく格付(以下、「資格」という。)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。

 

(4)待遇に対する留意

管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。

この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般従業員に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。

なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。

「管理職」と「管理監督者」の違い

それでは、「管理職」と「管理監督者」の違いについてご説明いたします。

管理職とは、企業が規定などに基づいて、職場の上位者と決めた人になります。

例えば「係長は管理職」とする企業もあれば、「管理職は部長以上」と決める企業もあります。いずれもその企業の規定の中で定めることができます。

そして、「管理監督者」とは、労働基準法上で定められているもの。

前述したように労働条件の決定や、その他労務管理等において経営者と等しい立場にある者を指します。

会社の規定で決められた上位者が「管理職」、労働基準法上で定めのある立場の人間が「管理監督者」になるというわけです。

名ばかり管理職とは?

法律上も異なる「管理職」と「管理監督者」ですが、管理監督者には残業代の支払い義務がありません。

ここで問題になってくるのが、冒頭に上げた「名ばかり管理職」というわけです。

会社の規定上は役職もあり「管理職」という立場にあるけれど、労働基準法上の「管理監督者」に相当しないにも関わらず、残業代の未払いが発生している。

これがいわゆる「名ばかり管理職」というわけです。

 

名ばかり管理職とみなされる可能性のある役職

役職は企業の数だけ存在しますが、実際に名ばかり管理職とみなされる可能性のある役職はどのようなものがあるのでしょうか。

判例などは後述しますが、「店長」「課長」などが多い傾向にあります。

業務上の管理は行っていても、管理監督者(経営者と一体の職である)とみなされない方も多くいるようです。

自社の管理職が管理監督者に相当するかどうか、社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じて判断をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。

名ばかり「管理職」に残業代を支払う必要はある?

結論、管理監督者でない管理職には残業代を支払う必要があります。

つまり、名ばかり管理職には残業代を支払わなければなりません。

名ばかり管理職が残業代を請求したケースは過去にもあり、事例などは後述しますが、従業員数の少ない中小企業などではあまり管理監督者と判断されないことのほうが多いのが現状です。

管理職であっても、管理監督者に相当しない場合は残業代を請求されるケースがありますので、日頃からタイムカード、出勤簿などからわかる労働時間を管理しておくなど、十分に対策をとっておくことをお勧めします。

なお、管理監督者であっても深夜残業に関する規定は適用されますので、深夜労働を行った場合は割り増し賃金を支払う必要がありますのでこちらも注意しましょう。

就業規則などで管理職の残業代について定めがある場合

就業規則に「管理職には残業代を支払わない」と定めていた場合はどうなるでしょうか?

管理監督者に相当しない管理職だった場合、就業規則に定めがあっても、残業代の支払いはもちろんのこと、労働基準法上の労働時間や休憩・休日に関する規制を適用しなければなりません。

つまり、就業規則に定めがあっても管理監督者でない場合は残業代を支払う場合があるということです。

役職手当は残業代と見なされるか

企業によっては、役職手当がつくので管理職には残業代を支払いしないという企業もいるかもしれません。

そのような場合はどうなるのでしょうか?

その場合であっても、管理監督者でない以上は残業代を支払う必要があります。

役職手当はその職の対価として支払う名分の賃金であるため、残業代とは区別されます。

役職手当を支払う代わりに管理監督者でない管理職に残業代を支払わないのは違法となる可能性がありますので、そのような記述がある場合は専門家への相談をオススメします。

名ばかり管理職が残業代を請求したケース、事例

過去に、名ばかり管理職が企業に残業代を請求した事例がありますので、ご紹介していきます。

3つの事例をご紹介しますが、どの案件もそれぞれの事情があり、名ばかり管理職からの残業代請求が簡単ではないことがわかります。

一筋縄ではいかない名ばかり管理職の残業代について、過去事例を元に、自社が改善する必要があるかどうかを参考にしていただければと思います。

日本マクドナルド事件

ハンバーガー販売会社の直営店の店長が、会社に対して過去2年分の割増賃金の支払等を求めた事例です。

結論、東京地裁は、アルバイトの採用や育成、勤務シフトの決定等の権限を有し、店舗運営について重要な職責を負ってはいるがその権限は店舗内の事項に限られ、経営者と一体的な立場としては認められず、管理監督者には当たらないとしました。(東京地判平成20年1月28日)

結果として、マクドナルド社には残業代750万の支払い命令が下されています。

店舗の代表であっても、管理監督者には相当しない、いわゆる「名ばかり管理職」という言葉を世に知らしめた事例となりました。

恩賜財団母子愛育会事件

恩賜財団母子愛育会の運営する病院で医長として勤務をしていた医師による残業代請求があった事例になります。

判決により管理監督者ではないと認められたものの、管理監督者ではないのであれば、当該医師に対して支払っていた管理職手当相当額については不当ではないか、という内容です。

結果として、東京地裁は、使用者である恩賜財団母子愛育会の請求を認容し、当該医師に対して過去の管理職手当(合計157万5000円)の支払を命じました。(東京地判平成31年2月8日)

この事例では、管理監督者ではないと認められたものの、管理職手当の支払いをしていたので、その扱いをどう扱うかが問題にもなりました。

東和システム事件

課長代理の地位にあった管理職による残業代請求がなされた事例になります。

管理監督者ではないと認められ、約3000万の残業代の支払いが命じられました。

しかし、課長代理に対して支払われていた特励手当があり、これについては実質的な割増賃金の支払いであると認められ、残業代の計算から除外されることになりました。(東京高判平成21年12月25日)

この事例からわかるように、管理監督者ではないとされたとしても、管理職手当等の支払いがある場合、企業は既に支払い済の割増賃金として残業代単価の計算からは除外するよう主張することが可能です。

名ばかり管理職への残業代未払いがあった場合の罰則

名ばかり管理書だけでなく、従業員への残業代の支払いは労働基準法第37条で規定されている内容です。

支払いを行わなかった場合は労働基準法違反になります。

未払いがあった場合の罰則として、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります(労働基準法第119条)。

加えて、従業員への残業代の支払いもあります。

状況によっては高額になる可能性もあり、企業への負担ははかり知れません。

管理職の定義を確認し、名ばかり管理職に注意しよう!

いかがでしたでしょうか?

事例からもわかるように、名ばかり管理職の問題は想像以上に複雑になることが多いのが特徴です。

実際には判決にならないとはっきりしないことの多い「名ばかり管理職」の残業代問題。

現在の管理職が管理監督者かどうかを判断するのは容易ではありません。

自社で判断し、後から問題になる前に、事前に専門家へ相談することをオススメいたします。

社会保険労務士法人中込労務管理でも名ばかり管理職問題について対応しておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

中込労務管理事務所編集部
執筆者情報 中込労務管理事務所編集部

人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。

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