自己都合退職では退職金を満額支給しなくてよい?相場や支払い時期も解説
- 2022.12.02 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、従業員が自己都合で退職した場合の退職金の支払いについて解説します。
トラブルを避けるためにも、従業員が自己都合で退職した場合にどれくらいの退職金を支払うべきなのか、相場や計算方法などを理解しておきましょう。退職金の基礎知識や近年の傾向についてもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
目次
自己都合退職では退職金は満額支給されない
自己都合で会社を退職した場合、一般的には退職金は満額支給されません。その理由としては、自己都合退職の場合、会社にとって一定のマイナス影響があるからです。
従業員が自己都合で退職する場合、会社側は新しい人材の確保や、新人社員への研修を行わなければなりません。退職金の減額は、自己都合で退職する従業員への一種のペナルティであるとの考え方もあります。
勤続年数が短いほど減額率が高く、もらえる額が少なくなります。定年に近付けば近付くほど減額率が下がるので、もらえる額が多くなるのです。減額のシステムには、「あと数年で退職金が多くもらえるならもう少し勤め続けようかな」と、若い従業員に退職を思いとどまらせる狙いがあります。
退職事由の3つの種類
退職事由は大きく「自己都合退職」「会社都合退職」「定年退職」の3つに分類されます。「自己都合退職」以外の「会社都合退職」と「定年退職」の2つの事由の場合、退職金を満額支給する企業が多いです。
①自己都合退職
従業員が自ら退職を申し出て、会社を退職する場合です。
②会社都合退職
経営の悪化や会社の倒産による解雇などです。会社の都合で辞めさせられた場合が当てはまります。
③定年退職
一定の年齢に達した場合に退職の対象となることです。
3年未満の自己都合退職は退職金ゼロの場合も
退職金の減額率は法律における定めがありません。勤続年数による退職金の減額率は、「退職金規程」や「企業年金規約」に定める必要があり、各社の規定に従う必要があります。
中には、入社3年以内の自己都合退職者に対して、退職金を出さないという企業もあり、その割合は約50%に上ります。
自己都合退職による退職金の相場
自己都合による退職金の相場を、大手企業、中小企業に分けて解説します。相場は勤続年数によっても大きく変わり、高校卒か大学卒かでも異なります。参考にしながら、自社の相場と比べてみてください。
大手企業の相場
最初に、大企業の自己都合退職者に対する退職金の相場を紹介します。
高校卒 | |
10年 | 約138万円 |
15年 | 約289万円 |
20年 | 約557万円 |
25年 | 約863万円 |
30年 | 約1,197万円 |
大学卒 | |
10年 | 約180万円 |
15年 | 約387万円 |
20年 | 約727万円 |
25年 | 約1,143万円 |
30年 | 約1,707万円 |
中小企業の相場
続いて、中小企業の相場です。大企業と比べた場合、中小企業の自己都合退職者に対する退職金の相場は低く、半分ほどの額になることもあります。
高校卒 | |
10年 | 約90万円 |
15年 | 約168万円 |
20年 | 約279万円 |
25年 | 約407万円 |
30年 | 約543万円 |
大学卒 | |
10年 | 約114万円 |
15年 | 約215万円 |
20年 | 約353万円 |
25年 | 約524万円 |
30年 | 約706万円 |
参考:東京都産業労働局 中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版) モデル退職金
退職金を支払うタイミング
退職金の支給日を定めた法律はないため、退職金を支払うタイミングは企業によって異なります。
一般的には、従業員が退職してから1ヶ月〜半年までには支払われることが多いようです。会社から支払われる退職金ではなく、退職共済の場合には、間に別の組織や会社が関わるため、より多くの時間を要することも。
退職金の支払日について就業規則などに定めがない場合、従業員から請求を受けると7日以内に支払う必要がありますので注意が必要です。
退職金の種類と計算方法
各社が取り入れている退職金の仕組みによって、計算方法が異なります。ここでは主な4つの方法を紹介しますので、確認しておきましょう。
定額制
定額制は、勤続年数によって退職金の支給額が決められています。勤続年数が長ければ長いほど、退職金も多くなるのが特徴です。
基本給連動性
基本給連動性の場合には、以下の方法で退職金を計算します。
「基本給(退職時の額)」 ×「支給率(勤続年数を反映)」×「退職事由係数」
退職事由係数を反映するため、退職の理由によって退職金の額が変わるのが特徴です。
※「退職事由係数」は、定年退職や会社都合による退職を100%とします。自己都合退職の場合、会社への貢献度が低いと判断するので、パーセンテージが低くなります。自己都合による退職事由係数を低くすることで、若い社員が自己都合で退職することを抑制しているのです。
別テーブル制
別テーブル性の場合には、以下の方法で退職金を計算します。
「基礎金額(役職や等級を反映)」 ×「支給率(勤続年数を反映)」×「退職事由係数」
基本給連動性と似ていますが、別テーブル性では、基本給ではなく役職や等級を反映させた「基礎金額」として計算する点が異なります。
ポイント制
ポイント性とは、会社が従業員に与えたポイントに応じて退職金の額が決まる方法です。従業員の勤続年数や会社への貢献度などに応じて、ポイントが付与されます。計算方法は以下の通りです。
「退職ポイント」×「ポイント単価」×「退職事由係数」
退職ポイントとは、「勤続年数1年ごとに20ポイント」「主任30ポイント」「〇〇長40ポイント」などがあります。ポイント単価は、「10,000(円)」や「15,000(円)」などと定めます。
それぞれのケースに応じて、会社側は対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
退職金の基礎知識
退職金の基礎知識について、今一度確認しておきましょう。知っておくことで、今自社で採用している退職金の制度は適切か、問題点はないか、見直す際にお役立てください。
退職金を導入している企業の割合
退職金は全ての会社にあるわけではなく、企業ごとに制度の有無や金額が異なります。
規模が大きい会社ほど退職金制度の導入率が高い傾向にあります。
平成25年『就労条件総合調査の概要』によると、退職金導入率は、従業員が1000人以上の企業で92.3%、300〜999人の企業で約91.8%、100〜299人の企業で約84.9%、30〜99人の企業では約77.6%です。
退職金の4つの種類
退職金を従業員に支給するための退職金制度は、大きく分けて4つあります。それぞれにメリットやデメリットがありますので、各制度の特徴を理解した上で自社に合った制度を取り入れましょう。
①退職一時金制度
従業員が退職する際に、一括で退職金を支給する制度です。
企業ごとに退職金の額や支給のタイミングを自由に設計でき、退職理由に応じて退職金の支給額を調整することも可能。退職金をいくら受け取れるのか従業員が見積もりやすいのもメリットです。
しかし、退職金の積立金に対して課税が発生する点は注意しましょう。また、退職金が支払えない事態を避けるためにも、計画的な資金準備は大切です。
②退職金共済制度
退職共済金は、会社と共済機構が契約を結ぶことで、退職する際に共済機構から従業員に直接退職金が支払われる制度です。退職共催には、中小企業退職共催制度(中退共)や、特定業種向けの共催制度、特定退職金共催制度(特退共)があります。
積立金の管理コストやリスクを会社が負担する必要がなく、会社の経営が傾いた時や倒産した場合でも、従業員が退職金を受け取れます。拠出金が非課税なのも企業側にとってのメリットです。
一方で、共済機構から直接退職金が支払われるため、退職理由によって退職金の額に差をつけられない点は注意が必要です。
③確定給付企業年金制度
確定給付企業年金制度は、企業が金融機関などに賭け金を預け、運用や管理を委託する制度です。
従業員が退職金を年金払いとして受け取ることができます。もちろん一括で受け取ることも可能です。退職一時金と比べると、受け取る従業員側の税制面で有利になりやすいメリットがあります。また、拠出金は非課税です。
ただし、従業員が少ない会社の場合、引受先の金融機関が見つかりにくいことがあります。
④確定拠出年金制度(企業型DC)
企業が掛け金を積み立てて、それを従業員が自ら年金資産として運用する制度です。
運用は従業員各々に任されるため、会社側は退職金の支給額に対して責任を追う必要がありません。拠出金も非課税です。
しかし、導入の際に従業員を納得させる必要があることや、運用によって退職金の額に差が出やすいこと、従業員に金融に関する知識が必要であることなどの注意点もあります。
近年の退職金制度の傾向
近年の退職金制度の傾向として、勤続年数で退職金の額を決定するよりも、役職や貢献度などを考慮した成果報酬型の制度を採用する企業が増えています。成果報酬型の制度には、先述したポイント制があります。成果報酬型とはいえ、役職や貢献度だけを評価するのではなく、勤続年数も評価されるのが特徴。勤続年数が長いのに退職金が極端に少なくなる心配がないのです。
また、確定拠出年金制度(企業型DC)への移行を検討する企業も出てきています。
退職金に関するご相談は社会保険労務士まで
従業員が自己都合による退職を申し出てくる前に、あらかじめ社内の退職金に関する制度や体制を整えておくことが大切です。自己都合退職の場合、退職金が満額支給されないことに対して従業員に説明が必要となる場面もあるでしょう。従業員に納得のいく説明ができるよう、準備をしておきたいですね。
今回解説した「自己都合退職による退職金」について、少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、退職金の制度や支払いに強い専門家が対応させていただきます。
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