従業員のSNS問題に企業はどう対応する?事前対策・事後対応を解説
- 2022.12.02 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は「従業員のSNS問題」について解説します。
従業員のSNSへの投稿がきっかけで、企業が大きなダメージを受けるリスクがあることを知っていますか?「SNSはプライベートな活動だから……」と放っておかず、企業として適切な対策を講じることが大切です。
本稿では、従業員のSNS問題の概要や事前の対策について解説します。トラブルが生じてしまった場合に企業が取るべき対応策についてもお伝えしますので、ぜひご一読ください。
目次
従業員のSNS問題とは
従業員のSNS問題とは、「従業員がSNSで発信した情報が炎上してしまい、企業を巻き込んだトラブルになってしまうこと」です。
ネット用語として広く使われる「炎上」ですが、批判的な意味をもって情報が拡散されたり誹謗中傷のようなコメントが集中したりする現象を意味します。従業員のSNS問題を考えていくうえでのキーワードとなりますので、頭に入れておくとよいでしょう。
本章ではまず、従業員のSNS使用が企業にどのようなトラブルを招くリスクがあるのか、またどのような投稿が炎上しやすいのかについて解説します。
従業員のSNS使用によってどのようなトラブルが起こり得る?
従業員がSNSを使用することによって、以下のようなリスクが考えられます。
・企業の信頼を失う
・業務に支障が出る
・金銭的な損失が生じる
もちろん適切にSNSを使用しているだけなら、このようなリスクは少ないでしょう。しかし、ひとたび不適切な内容が投稿されインターネットで拡散されると、大きな影響力をもってしまいます。企業としては、どのようなトラブルに巻き込まれるリスクがあるのかを知っておくことが大切です。
ここでは、企業に起こり得るリスクについてひとつずつみていきます。
企業の信頼を失う
従業員の不適切な投稿によって、企業の信頼を失ってしまうケースが考えられます。企業の信頼を失ってしまうと、取引先や消費者、社員など企業に関係するあらゆる人に対し、大きな影響が及んでしまいます。
・取引先からの信頼喪失:取引停止
・消費者からの信頼喪失:消費意識の低下・不買
・社員からの信頼喪失:業務へのモチベーション低下・退職希望者の増加
業務に支障が出る
従業員の不適切な投稿によって、業務に支障が出るケースも見受けられます。たとえば、SNSへの投稿をきっかけに人間関係のトラブルが生じ、業務を円滑に進められなくなるケースがあります。
従業員の中には、仕事へのストレスなどから、上司や同僚などに関する愚痴を投稿したくなる人もいるでしょう。ちょっとした愚痴程度で、個人を特定できない内容ならそれほど問題にはなりません。
しかし、個人を特定できる内容であった場合、その投稿をきっかけに社員間でトラブルが生じてしまうことも考えられます。人間関係の悪化によって、業務にも支障が出てしまうでしょう。
ほかにも、以下のようなケースも考えられます。
・従業員が迷惑行為を投稿したことにより、風評被害で休業せざるを得なくなる
・取引先からの契約打ち切りなどで事業が進められなくなる
金銭的な損失が生じる
従業員の不適切な投稿によって、金銭的な損失が生じるリスクもあります。
従業員が顧客の名誉を傷つけたり情報を漏らしたりする内容の投稿をした場合、企業は顧客から損害賠償を請求されることがあります。「従業員のみに支払い義務が生じるのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、企業には従業員を使用している者としての「使用者責任」があり、損害賠償責任を負う可能性があるのです。
また過去に、コンビニの店員がアイスケースに入った写真を投稿したことがありました。このような迷惑行為があった場合、食品の廃棄やアイスケースの清掃、消毒などにも費用が必要になります。
どのような投稿がトラブルになりやすい?
従業員のSNSへの投稿が原因で、トラブルに発展するリスクがあることはおわかりいただけたでしょう。それでは、どのような投稿がトラブルになりやすいのでしょうか。ここからは炎上しやすい投稿内容について解説します。
機密情報を漏らす発言
トラブルになりやすい内容として、機密情報を漏らす発言があります。たとえば、顧客の情報や自社の内部情報など、仕事をしている中で知り得た情報がこれに該当します。
機密情報とまではいえなくても、顧客の情報を漏らす投稿はトラブルにつながりかねません。実際、不動産会社のスタッフが、有名人の来店情報を投稿し炎上したケースがありました。このように、顧客の情報を漏らす内容は炎上しやすい傾向にあります。
顧客に向けた暴言
顧客に向けた暴言もトラブルになりやすい内容です。実際に、ストレス発散やウケ狙いなどでの投稿がトラブルを招くケースも起きています。とくに企業や個人が特定できる場合は、顧客を巻き込んだ大きなトラブルにつながってしまうこともあるでしょう。
企業への誹謗中傷
企業への誹謗中傷もトラブルに発展しかねません。企業への誹謗中傷とは、「〇〇会社の商品は不良品だ!」「〇〇会社は詐欺集団だ!」といったような、企業の名誉を傷つけるような発言です。
そのほか、労働条件について不満をあらわにした内容も、誹謗中傷と捉えられることがあります。「なかなか休みが取れない」「部署が変わって忙しい」といった個人の感想程度なら問題ありませんが、程度がひどい場合や具体的な内容を明らかにしている場合には、企業側とトラブルになってしまうこともあります。
モラルに反する内容
モラルに反する内容とは、差別的な発言や迷惑行為などのことです。差別的な発言の中でも、近年、性別に関するものは炎上しやすい傾向があります。社会的に注目度が高まっているため、ちょっとした発言でも炎上してしまうリスクがあるでしょう。
また、迷惑行為に関しては、ニュースとして取り上げられることも多いです。
過去には、飲食店のソース容器をなめたり、コンビニのおでんを手でつついたりといった投稿がニュースになりました。このようなモラルに反する迷惑行為は注目を浴びやすいため、炎上しやすいようです。
差別発言や迷惑行為を行う従業員がいることが明らかになった場合、企業としてのイメージダウンは避けられません。
従業員の個人アカウントにも注意
「炎上しそうな投稿であっても、個人アカウントなら企業に影響はないのでは?」と感じる方もいるかもしれません。たしかに投稿者がプロフィールなどで企業名を明かしていなければ、一見すると問題ないようにも思えます。
ですが、投稿が注目されると「そのアカウントについて調べよう」「投稿者を特定しよう」といった動きが出てくるものです。過去の投稿や写真に写りこんだ建物などから、個人や勤務先を特定されてしまうこともあります。
実際に、個人アカウントの投稿が炎上し、企業が特定されたケースもありました。従業員が個人アカウントで投稿するのなら関係ないだろうと油断せず、企業として適切に対策を講じる必要があるのです。
従業員によるSNS問題を引き起こさないための4つの対策
ここまで、従業員がプライべートで使うSNSであっても、企業がトラブルに巻き込まれるリスクがあるとお伝えしてきました。トラブルを事前に回避するために、企業はSNSの適正使用を従業員に徹底することが大切です。
ここからは事前にできる4つの対策についてお伝えします。
1.SNS使用に関するルールの策定
従業員の不適切な投稿によるトラブルを防ぐために、まず社内でルールを策定しましょう。具体的なルールの作り方についてみていきます。
ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインを決める
従業員によるSNS問題を引き起こさないための対策として、「ソーシャルメディアポリシー」や「ガイドライン」の作成が有効です。
ポリシーやガイドラインは、社外向けと社内向けに作られるものの2パターンがあります。社外向けには、公式アカウントの運用方法や運用のスタンスなどがまとめられています。消費者などに運用方針を理解してもらい、誤解や炎上を防ぐのに役立つでしょう。
一方、本稿でお話している「従業員のSNS問題に対応するため」には、社外向けではなく社内向けのものが必要です。従業員がプライベートで投稿する場合の内容や注意点などにルールを設けておくことで、トラブルを防ぐ役割があります。
社内向けのポリシーやガイドラインは公開されていないことも多いです。そこでここでは、東海大学が公開している、学生向けの「ソーシャルメディア活用ガイドライン」を紹介します。非常に具体的にまとめてありますので、自社でソーシャルメディアポリシーやガイドラインを作成する場合の参考にしてみてください。
学生を対象としたソーシャルメディア活用ガイドライン|東海大学
就業規則を改訂する
ソーシャルメディアポリシーやガイドラインを作成したとしても、それが従業員に周知されなければ意味を成しません。作成後は、ポリシーやガイドラインを社内に掲示したり、書面で交付したりするなど、従業員に周知させましょう。
さらに実効性をもたせるためには、ポリシーやガイドラインへの違反が懲戒事由に該当することを、就業規則に記しておくことが有効です。場合によっては、社用端末を企業がモニタリングすることなども記載する必要があるでしょう。
ソーシャルメディアポリシーやガイドラインの作成、就業規則の改訂など、従業員のSNS問題を防ぐためにはさまざまな取り組みが必要になります。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況に応じてご提案をさせていただいております。ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらから
2.従業員向けSNSセミナーの開催
従業員の不適切な投稿によるトラブルを防ぐには、従業員向けにセミナーを開催するのも効果的です。雇用形態に関係なく、すべての従業員を対象とすることをオススメします。
SNSは多くの人が使っているという安心感からか、リスクに目を向けられることが少ない印象があります。「個人アカウントの投稿なら大丈夫だろう」とリスクに無自覚なケースも少なくありません。
従業員がそのような状態でSNSを使用していると、何気ない投稿で炎上してしまい、投稿者も企業も大きなダメージを負ってしまうこともあるでしょう。
無自覚から起こり得るトラブルを防ぐには、正しい知識が必要です。どのような投稿がトラブルになりやすいのか、投稿の際どのような点に注意すべきかなどを具体的に知ることで、SNSを正しく使用できるようになるでしょう。
また、個人の発信であっても、企業や社会に影響を及ぼすリスクがあることを理解してもらうのも大切です。個人の投稿が原因で起こり得る企業へのダメージや、一旦発信した内容の削除が難しいことなどを改めて伝えましょう。
このようなセミナーは、1回開催すればよいというものではありません。定期的に行うことでより高い効果が期待できますので、ぜひ取り入れてみてください。
3.SNS使用に関する誓約書の提出
ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインの作成やセミナーの開催を通し、社内にSNSの適切な使用を呼びかけることができます。しかし、従業員一人ひとりに自覚をもたせるには十分とはいえません。
従業員一人ひとりの自覚を促すために有効なのが、誓約書です。誓約書には以下のような内容を誓約書に記載しましょう。
・社内情報や顧客情報など、業務上知り得た情報をSNSなどに投稿しない
・企業の名誉を傷つけるような投稿や、信頼を失うような投稿をしない
一人ひとりの従業員のリテラシーを高めるために、有効に活用してください。
4.社内体制の整備
「従業員に社内の不祥事や個人的な不満をSNSに投稿され、炎上した」となると、企業のイメージダウンは避けられません。それを防ぐには、以下のような社内で問題を解決できる体制が必要です。
・社内の不祥事を内部通報できる仕組み作り
・従業員の困り事を相談できる窓口の設置
また、SNSで怖いのが誤爆です。誤爆とは、個人アカウントだと思って投稿したものが、企業の公式アカウントに投稿されていたことを意味します。もし誤爆が起こってしまうと、個人的な考えが企業の考えだと誤解されてしまい、企業に大きなダメージを与えてしまうことがあるのです。
社内の端末から自由に個人アカウントにログインできる状況だと、誤爆が起こりかねません。誤爆を防ぐには、以下のようなルールが必要です。
・社用端末を導入し、企業の公式アカウントにしかログインしないようにする
・社内の端末からは私的な使用をしない
従業員がSNSに不適切な投稿を行った際の対応
たとえ十分な対策を講じていたとしても、トラブルを完全に防ぐことは難しいものです。企業としては、従業員のSNS問題が生じた際に、どのように対応すべきかを頭に入れておくとよいでしょう。
ここからは、従業員がSNSに不適切な投稿を行い、トラブルになってしまった場合の対応策について解説します。
企業としての対応方法
従業員の不適切な投稿によってトラブルが生じてしまった場合、企業は以下のような手順で対応しましょう。
【ステップ1】投稿内容を保全する
【ステップ2】投稿者を特定し事情聴取する
【ステップ3】投稿の削除要請をする
【ステップ4】公式サイトなどで公表し謝罪する
【ステップ5】再発防止策を立てる
ひとつずつみていきます。
【ステップ1】投稿内容を保全する
まず、投稿内容を保全する必要があります。具体的には、スクリーンショットを撮ったりプリントアウトしたりといった方法がオススメです。
SNSへの投稿は簡単に削除や編集ができます。不適切な投稿は、このあと事実関係を確認する段階での証拠となりますので、ただちに記録しておきましょう。
【ステップ2】投稿者を特定し事情聴取する
次に、投稿者を特定します。自ら名乗り出てもらうのが一番穏便な方法ですが、そううまくいく場合ばかりではありません。投稿者が判明しない場合は、以下のような方法も検討してみてください。
・社用端末から投稿された場合は、ログを確認する
・投稿内容が名誉棄損(公然と他人の名誉を傷つける行為)にあたりそうな場合は、裁判所に発信者の情報開示請求をする
発信者情報開示請求には応じてもらえないことも多いのですが、ひとつの方法として知っておくとよいでしょう。
投稿者を特定できたら事情聴取を行い、事実関係を確認します。
【ステップ3】投稿の削除要請をする
SNSへの投稿を放置しておくと、どんどん拡散されてしまいます。被害を最小限に抑えるために投稿者に削除を要請しましょう。
SNSの使用はプライべートな行動ですので、投稿の削除を命令することはできません。投稿者本人に任意で削除してもらう必要があります。もし投稿者が削除に同意しない場合は、サイト管理者に削除請求を依頼することになります。
【ステップ4】公式サイトなどで公表し謝罪する
一個人の投稿であったとしても、企業の信頼に影響を及ぼしかねません。とくにすでに投稿が拡散している場合は、公式に事実関係を公表し謝罪しましょう。
【ステップ5】再発防止策を立てる
一度発生したトラブルは二度と繰り返さないよう、再発防止策を立てることも大切です。とくにSNSは多くの従業員が使用しているため、今後も同様のトラブルが発生しやすいと考えられます。
全従業員を対象としたセミナーを実施したり、ソーシャルメディアポリシーやガイドラインの周知を徹底したりといったことも必要でしょう。
従業員の処分方法
企業は、不適切な投稿を行った従業員を処分できるのでしょうか。ここからは従業員の処分について解説します。
懲戒処分
懲戒処分とは、就業規則に基づいて下される処分のこと。多くの場合、SNSへの不適切な投稿によって生じる情報漏洩や名誉棄損は、懲戒事由に規定されています。懲戒事由に該当すれば、従業員を懲戒処分することになります。行為の悪質性や被害の程度などを考慮し、処分を決定してください。
ソーシャルメディアポリシーやガイドラインを作成した段階で、これらに違反した場合の処分方法を就業規則に追加しておくと、スムーズに判断できます。懲戒処分を検討しやすくするためにも、ポリシーやガイドラインの作成と同時に、就業規則の改訂をオススメします。
▶懲戒処分を行う場合の留意点とは?処分の種類や基準、手順も解説
法的措置
企業が受けた被害の程度によっては、業務妨害罪が成立することがあります。また、従業員の投稿によって企業の名誉が著しく傷ついたときには、従業員を名誉棄損で訴えることもできます。
過去には、従業員のSNS問題に対し法的措置を行っていると公表した企業もありました。被害や損害の規模によって、企業は法的措置を行えることも知っておきましょう。
従業員への損害賠償請求はできる?
結論から言うと、企業は従業員に損害賠償を請求できます。不適切な投稿が原因で企業が損害を被った場合はもちろんですが、それだけではありません。
従業員がSNSで顧客の情報を漏らした場合、顧客から企業が損害賠償を請求されることもあります。このようなケースでも企業は従業員に損害賠償を請求できるのです。
ただし、損害賠償の請求額については、最高裁判所の判例で「制限されるべき」とされています。これには、労使間の資金力の違いや、使用者もリスクを負うべきという労働契約の考え方が考慮されています。
【まとめ】SNS問題を防ぐには適切な事前対策が重要
従業員のSNS問題を防ぐには、ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインの作成やセミナーの開催といった事前対策が重要です。思わぬトラブルで企業の信頼を失墜させないためにも、入念に対策を講じましょう。
今回解説しました「従業員のSNS問題」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをオススメいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、労働問題に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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