企業型確定拠出年金とは?導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説
- 2023.03.02 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨・東京を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人労務管理PLUS(旧:中込労務管理)です。今回は「企業型確定拠出年金」について解説します。
近年、従来の年金制度にかわる制度として「企業型確定拠出年金」を導入している企業が増えています。企業型確定拠出年金は、従業員に対する福利厚生や退職金の準備としても大きな役割を果たす制度ですので、企業としてはぜひ理解しておきましょう。
本稿では、企業型確定拠出年金を導入するメリットやデメリット、導入方法などをお伝えします。制度について知りたい方や導入を検討している方は、参考にしてみてください。
目次
確定拠出年金(401k)とは?
まずは「確定拠出年金」の概要からお話しします。
確定拠出年金は私的年金のひとつ
確定拠出年金は、「国民年金(基礎年金)」や「厚生年金」などの公的年金に上乗せする私的年金のひとつです。アメリカの制度を参考に導入したため、アメリカにおけるプランの名称をとって「401k」と呼ばれることもあります。
確定拠出年金では、企業が毎月積立を行い、従業員が定年退職となる60歳まで運用を続けます。60歳以降になると、従業員は、運用してきた資産を退職金や年金の形で受け取ることが可能です。
企業は毎月の積立を行いますが、実際に運用するのは従業員です。そのため、従業員によって60歳以降に受け取れる金額が異なります。また、運用した資産を受け取れるのは60歳以降に限定されていることにも注意しましょう。
日本の確定拠出年金制度は、2001年(平成13年)10月からスタートしました。2022年(令和4年)の制度改正でさまざまな条件が緩和されたことで活用しやすくなり、現在は規模を問わず多くの企業が導入しています。
確定拠出年金には2種類ある
確定拠出年金には以下の2種類があります。
・個人型確定拠出年金
・ 企業型確定拠出年金
それぞれの違いを解説します。
個人型確定拠出年金
「個人型確定拠出年金(iDeCo)」とは、個人が老後資金を準備する目的で活用する制度です。積み立てるのも運用するのも自分自身です。原則誰でも加入できますし、運用商品の制約もそれほどありませんので、自由度が高い積立方法といえるでしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)についてはこちらの記事をご覧ください。
企業型確定拠出年金
積立も運用も個人が行う「個人型確定拠出年金」に対し、「企業型確定拠出年金」では毎月の積立を企業が行います。運用自体は従業員が行いますが、毎月の積立に関する手続きなどは企業が行うことになります。そのため、加入時の従業員負担は比較的少なくすむでしょう。
ただし、企業型確定拠出年金に加入できるのは、勤め先の企業がこの制度を導入していることが前提となります。また、制度の運営方法や積立金の負担方法には複数の種類がありますので、勤め先の企業がどのように制度を導入しているのかをあらかじめ理解しておくことも大切です。
企業型確定拠出年金の種類については、後ほどくわしく解説します。
企業型確定拠出年金と確定給付企業年金との違い
企業型確定拠出年金は、一括でも年金としても受け取ることが可能です。年金というと、従来の「確定給付企業年金」とはどのように違うのか気になる人もいるでしょう。
企業型確定拠出年金と確定給付企業年金との大きな違いを、以下の表にまとめました。
|
企業型確定拠出年金 |
確定給付企業年金 |
運用する人 |
従業員自身 |
生命保険会社や金融機関 |
導入できる企業の規模 |
どのような規模でも可能 |
大規模に限定 |
将来受け取れる額 |
運用次第で変動あり |
ある程度約束される |
「確定給付企業年金」は、企業が支払った掛金を、生命保険会社や金融機関が運用し、将来従業員が年金として受け取れる仕組みです。この制度では、大きな損失を出すリスクは少なく、将来受け取れる金額をある程度約束できます。
将来の備えとして信頼できるため、従業員にとっても安心できる制度といえるでしょう。ただし、企業側の負担が大きいことや、従業員の人数に要件が設けられていることなどから、規模の小さい企業では導入が難しいなどの問題があるのも事実です。
その点、「企業型確定拠出年金」は企業の規模に関係なく導入できます。また、確定給付企業年金と異なり従業員自身が運用していきます。将来の受取額がある程度約束される「確定給付企業年金」と異なり、運用次第で将来受け取れる金額に差が生じることも「企業型確定拠出年金」の特徴です。
企業型確定拠出年金の現状と今後
企業年金連合会の「確定拠出年⾦統計資料」からもわかるとおり、企業型確定拠出年金の加入者数・導入企業はともに増加傾向にあります。今後もこの傾向は続くでしょう。
というのも、近年、退職金制度や年金制度をとりまく環境変化は目まぐるしく、今まで確定給付企業年金を活用してきた大企業もその制度の見直しを迫られています。また、退職金制度がない中小企業にとっても、従業員が抱える将来の不安を解消するために、制度の整備は急務です。このような背景もあり、従業員の老後を支える企業型確定拠出年金はますます注目されるでしょう。
企業型確定拠出年金とは?
ここまで、確定拠出年金の概要や、企業型確定拠出年金の今後などについてみてきました。ここからは、企業型確定拠出年金についてさらに掘り下げて解説します。
企業型確定拠出年金には多くの種類がある
企業型確定拠出年金は、制度の運営方法や積立金の負担方法によって複数の種類があります。それぞれについてみていきましょう。
制度の運営方法による違い
企業型確定拠出年金には運営方法によって以下の2種類があります。
種類 |
特徴 |
総合型 |
・ 複数の企業が運営する ・規約作成などの手続きが簡単で、運営コストを抑えられる ・単独型と比べて自由度は低い |
単独型 |
・1つの企業で運営する ・自由に制度を設計できる |
掛金の負担方法による違い
企業型確定拠出年金には、掛金の負担方法によって以下の4種類があります。
種類 |
特徴 |
(原則) |
・企業が掛金を全額負担する ・60歳未満の従業員は原則として全員加入する |
マッチング拠出 |
・企業の掛金に、従業員が上乗せできる(従業員が上乗せした掛金は、全額所得控除の対象) |
選択制 |
・従業員が確定拠出年金に拠出するかどうかを決められる ・企業は掛金を負担しない |
一部選択制 |
・従業員が確定拠出年金に拠出するかどうかを決められる ・企業が一部掛金を負担する |
企業型確定拠出年金を導入する企業側のメリット
企業型確定拠出年金を導入すると、企業にとっても従業員にとってもメリットがあります。ここでは企業側のメリットとして、以下の3点を紹介します。
・人材確保につながる
・ 企業年金の運用リスクを回避できる
・ 経営者・役員も加入できる
ひとつずつみていきましょう。
人材確保につながる
企業型確定拠出年金の導入によって、人材を確保したり、優秀な人材の流出を防いだりといった効果もあります。現在、公的年金の制度に不安を感じている人は多くみられます。企業型確定拠出年金を活用し、企業が従業員の将来に備えれば、従業員にとって大きな魅力となるでしょう。このような福利厚生の観点から導入している企業も多いようです。
企業年金の運用リスクを回避できる
従来の企業年金では、経済が成長傾向にある場合は高い運用益を出すことが可能です。けれども、現在のように経済成長率が低下していると、十分な運用益を出すことは難しくなります。この際の運用リスクは企業が負うことになります。企業型確定拠出年金なら、従業員自身が運用するため、企業が運用リスクを負う必要はありません。
経営者・役員も加入できる
企業型確定拠出年金は、経営者や役員にとってもメリットがあります。そもそも経営者や役員は、一般的な従業員とは異なり、社会保険や退職金などさまざまな制度の対象外です。そのような経営者や役員であっても、企業型確定拠出年金には加入できますので、将来の不安解消につながるでしょう。なお、役員が1名だけの企業であっても企業型確定拠出年金の導入は可能です。
企業型確定拠出年金を導入する企業側のデメリット
上記のようにメリットが魅力的な企業型確定拠出年金ですが、もちろんデメリットも考えられます。企業にとってのデメリットとしては、以下のようなものがあるでしょう。
・現行の制度を見直す場合に負担がかかる
・原資が必要になる
・ 制度を運営する際にコストが発生する
・ 従業員教育を継続的に行う必要がある
それぞれ解説します。
現行の制度を見直す場合に負担がかかる
企業型確定拠出年金を新たに導入するとなると、当然、現行の制度を見直したり規則を改定したりする必要がでてきます。従業員へ説明したり同意を得たりといった手順も必要になるため、企業に負担がかかることは否定できません。
原資が必要になる
企業型確定拠出年金では企業が掛金を拠出するため、その原資が必要です。なお選択制を導入する場合、企業に掛金の負担はありません。原資について心配する必要もないでしょう。
制度を運営する際にコストが発生する
企業型確定拠出年金を運営するにはコストがかかります。具体的には、導入時のコンサルティング費用や、運営を委託する運営管理機関に支払う手数料などが挙げられます。運営管理機関によっても手数料などが異なりますので、あらかじめ調べておきましょう。
従業員教育を継続的に行う必要がある
企業型確定拠出年金を導入するにあたり、投資に関する従業員向けセミナーを定期的に開催することが大切です。セミナーには、年金や金融に関する専門的な知識が必要となります。自社での対応が難しい場合は、運営管理機関に依頼して、外部講師を招いたり資料を提供してもらったりするとよいでしょう。
企業型確定拠出年金を導入する3ステップ
企業型確定拠出年金を導入するには以下の3ステップが必要です。
【ステップ1】制度設計・必要書類の準備
【ステップ2】労使合意・申請準備
【ステップ3】申請・加入者の登録
導入までの目安は5か月程度といわれています。制度を開始したい時期の5か月前を目安に準備をはじめましょう。
【ステップ1】制度設計・必要書類の準備
まず、企業型確定拠出年金をどのように導入するのかを検討します。先に紹介した、制度の運営方法や積立金の負担方法による違いも参考に、どのような方法で制度を導入するのかを考えましょう。同時に、加入資格の年齢上限や対象者なども決めます。
また、以下のような書類も準備しておきましょう。
・就業規則:制度の申請に必須
・ 社会保険料の領収済書:企業型確定拠出年金を導入するための要件「厚生年金適用事業所であること」を示すための書類
・ 履歴事項全部証明書(登記簿謄本):会社情報を証明する書類
就業規則は、企業型確定拠出年金を導入するにあたり必須の書類です。現段階で作成していない企業は、これを機に作成してはいかがでしょうか。社会保険労務士法人中込労務管理では、就業規則の作成をサポートしております。企業の状況に応じてご提案させていただきますので、お気軽にご相談ください。
【ステップ2】労使合意・申請準備
企業型確定拠出年金の導入には、労使間の合意が必要です。従業員への説明を行い、制度について社内に周知させましょう。合意が得られたら規約などを作成し、申請の準備を進めておきます。
【ステップ3】申請・加入者の登録
申請書類がそろったら、厚生局へ書類を送付し審査を受けます。審査期間は2か月程度です。また、制度を開始する月の前月20日までに加入者の登録をすませておきましょう。
【まとめ】企業型確定拠出年金でお困りの際は中込労務管理にご相談ください
従業員の福利厚生や年金準備などで注目されている「企業型確定拠出年金」。人材の確保や役員・経営者の退職金の積み立てなど、企業側にも大きなメリットがありますので、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
今回解説しました「企業型確定拠出年金」について、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをオススメいたします。社会保険労務士法人中込労務管理では、年金制度にくわしい専門家が対応いたします。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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