定額減税をわかりやすく解説!給与計算の担当者が押さえておくべき内容とは
- 2024.06.12 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人労務管理PLUSです。今回は「定額減税」についてわかりやすく解説します。
定額減税に関しては、報道などで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?今回の減税措置では、従業員一人ひとりの状況に応じて減税額が異なるため、給与計算の担当者はその内容を正しく理解しておくことが必要です。
本稿では、定額減税の概要と給与計算担当者が押さえておくべきポイントについて、くわしくお伝えします。定額減税は令和6年6月分の給与からはじまります。それまでに、制度の内容を理解し、事前準備を進めておくことが必要です。
定額減税とは?
現在、さまざまな生活関連物資の価格が高騰しています。厚生労働省の調査によれば、令和5年の賃上げ率は3.60%と30年ぶりの高さを記録しましたが、それでも物価の上昇ペースには追いついていません。このような状況に対応し、国民の経済的負担を少しでも和らげるため、令和6年度税制改正大綱で「定額減税」の実施が決まりました。
まずは定額減税の概要から理解していきましょう。
定額減税の概要
定額減税は、令和6年分の所得税および個人住民税が対象で、令和6年6月分の給与から適用されます。現在のところ、減税は1年間限定の予定です。
定額減税の適用にあたり、給与を受け取る従業員は特別な手続きをする必要はありません。一方で給与を支払う企業には、定額減税を適用するために事前の準備が求められます。
定額減税の対象者
定額減税の対象は、国内に住所を有する個人で、令和6年分の所得税および住民税の納税者です。また、その個人と同一生計を営む配偶者や扶養親族も減税の対象に含まれます。
定額減税は、おもに中所得層以下を対象とした制度であり、所得の多い方は対象外です。具体的には合計所得金額が1,805万円以下の方が該当します。合計所得金額では少しわかりにくいので額面金額で紹介しますと、給与収入のみの場合は2,000万円以下が目安です。子どもや特別障害者を扶養しているなど、所得金額調整控除の適用を受けている場合は、2,015万円以下で減税の対象となります。
給与計算担当者への影響
定額減税がはじまると、企業は、減税額を反映させた金額を従業員に支給することになります。定額減税の額は従業員ごとに異なるため、個々に算出しなければならず、給与計算担当者の大きな負担となるでしょう。
加えて、年末調整に関する業務や従業員からの問い合わせ対応など、さまざまな業務を行う必要が出てくると予想されます。給与計算担当者が行う具体的な業務については、記事後半で紹介します。
定額税額の算出方法
給与計算担当者は減税額の算出方法を正しく理解しておかなければなりません。ここからは減税額の算出方法について説明します。
所得税の減税額
まずは所得税についてです。所得税の減税は令和6年6月分の給与から行います。
減税額は以下の計算式で算出できます。
30,000円 + 同一生計配偶者または扶養親族の人数 × 30,000円 |
この金額が所得税額から控除されます。
以下具体例です。
【ケース1】単身者 30,000円+0人× 30,000円=3万円
【ケース2】生活費を出し合って生活している共働き夫婦(子どもなし) 30,000円 +1人× 30,000円=6万円
【ケース3】夫・年間の合計所得金額が48万円以下の妻・小学生の子供1人の3人家族 30,000円 + 2人 × 30,000円=9万円 |
同一生計配偶者または扶養親族の人数が多い世帯の場合、所得税額より減税額が多くなる場合があります。そのような場合は、翌月以降の所得税から順次、減税額分を控除します。
上記の【ケース3】の例で説明しましょう。
6月と7月の所得税額が各6万円の場合を想定します。
減税額は9万円ですので、6月と7月の源泉徴収額は以下のようになります。
6月の源泉徴収額:60,000円-60,000円=0円
7月の源泉徴収額:60,000円-30,000円=30,000円
住民税の減税額
住民税の額は令和5年度の所得をもとに算出します。
減税額は以下の計算式で算出できます。
10,000円 + 同一生計配偶者または扶養親族の人数 × 10,000円 |
この金額が住民税額から控除されます。
以下具体例です。
【ケース1】単身者 10,000円+0人× 10,000円=10,000円
【ケース2】生活費を出し合って生活している共働き夫婦(子どもなし) 10,000円 +1人×10,000円=20,000円
【ケース3】夫・年間の合計所得金額が48万円以下の妻・小学生の子供1人の3人家族 10,000円 + 2人 × 10,000円=30,000円 |
住民税の減税は、令和6年7月から令和7年5月の11か月分の給与から均等に差し引かれます。
上記の【ケース3】の例で説明しましょう。
令和6年度の住民税が14万円の場合を想定します。
減税額は3万円ですので、6月と7月以降の源泉徴収額は以下のようになります。
6月の住民税:0円
7月から令和7年5月までの住民税:(140,000-30,000)÷11=10,000円
所得税の減税とは異なり、住民税については6月分の給与に反映されるわけではありません。時期がズレる点は、必ず従業員に周知しておきましょう。
定額減税に関する注意点
ここからは定額減税に関する注意点について説明します。
以下の2つのシーンについて、あらかじめ確認しておきましょう。
・中途入社の従業員がいる場合
・ 扶養親族の数に変更があった場合
それぞれみていきます。
中途入社の従業員がいる場合
令和6年6月1日以降、新たに従業員を迎える場合、その従業員は月次の減税を受けることができません。前職で減税を受けていた場合であっても、転職後の企業では減税を受けることができず、年末調整時にまとめて控除されます。
中途入社の従業員から問い合わせがあった場合は、「年末に配偶者控除等申告書や扶養控除等申告書を提出することによって控除される」と案内しましょう。
扶養親族の数に変更があった場合
扶養親族の数に変更があった場合は減税額も変わります。しかし月次の減税額に変更があるのではなく、年末調整で差額が精算されることになります。
扶養親族の数に変更がある場合とは、令和6年6月1日以降に以下のようなできごとが起きたケースです。
・子どもが生まれた
・扶養していた配偶者もしくは子どもが死亡した
・夫婦の一方が仕事をやめて扶養に入った
・夫婦の一方・子どもの収入が増え、扶養からはずれた
扶養親族の数が増えた場合であっても月の減税額が増えるわけではない点を理解しておいてください。
定額減税の額や必要な手続きは、従業員の状況によって異なります。通常の業務に加えて定額減税に関する業務がプラスされると、給与計算担当者の大きな負担となってしまうでしょう。
給与計算は社会保険労務士に依頼できることをご存知ですか?社会保険労務士法人労務管理PLUSは給与計算に関するご相談も多く対応しております。お気軽にご相談ください。
給与計算担当者の対応が必要な業務
「今回の減税措置によって給与計算担当者の業務負担が増える」とお伝えしていますが、具体的にどのような業務が必要になるのでしょうか。時期別に解説します。
定額減税の開始前
定額減税がはじまるまでに必要な業務には以下のようなものがあります。
・定額減税の内容や影響について従業員に説明する
・対象となる従業員を確認する
・昨年の年末調整時に回収した「扶養控除等申告書」や「配偶者控除等申告書」などから従業員ごとの定額減税額を算出する
・同一生計配偶者および扶養親族の数を確認する
・居住者である同一生計配偶者の数を確認する
・居住者である扶養親族の数を確認する
・扶養控除等申告書に記載していない同一生計配偶者がいる場合、その従業員に「源泉徴収に係る申告書」の提出を依頼する
・各人別控除事績簿を作成する
各人別控除事績簿とは、従業員一人ひとりの、月次減税額と各月の控除額などを把握するための管理簿のことです。作成は義務ではありませんが、個々の従業員について正しく把握するためにも、作成することをおすすめします。決まった様式はありませんので、自社で使いやすいものを作成するとよいでしょう。
どのようなものを作成すればよいか悩む場合は、国税庁が公開しているものを活用するのもひとつの方法です。こちらから確認できますので、参考にしてみてください。
毎月(令和6年6月~令和7年5月)
定額減税がはじまる令和6年6月から毎月必要となる業務には以下のようなものがあります。
・従業員ごとの定額減税の繰越額を管理する
・給与明細へ減税額を記載する
各人別控除事績簿を活用するなどして、誤りがないよう十分注意しましょう。
年末
令和6年の年末には通常の業務に加え、定額減税に関する業務も必要です。令和6年6月1日以降に中途入社した社員がいる場合や扶養親族の数に変更がある場合は、年末調整の際に年末調整時点の定額減税額にもとづいて精算します。
具体的には以下のような業務が発生します。
・対象となる従業員を確認する
・対象従業員の年調減税額を算出する
・同一生計配偶者および扶養親族の数を確認する
・居住者である同一生計配偶者の数を確認する
・居住者である扶養親族の数を確認する
・扶養控除等申告書に記載していない同一生計配偶者がいる場合、「源泉徴収に係る申告書」の提出を依頼する
・年調減税額を控除し清算する
定額減税に関する情報は国税庁のWebサイトにまとめられています。こちらもご確認ください。
定額減税 特設サイト|国税庁
まとめ:定額減税に際し給与計算に悩まれたら、労務管理PLUSにご相談ください
定額減税は、国民の経済的な負担が増大する現在において、生活を支えるための施策です。まずは経営者や給与計算担当者がしっかりと内容を理解し、従業員に周知してください。また6月からスムーズにはじめるためには、事前の準備が欠かせません。ご負担も多いかと思いますが、少しずつでも準備をはじめられることをおすすめします。
今回解説しました定額減税について「内容を理解できない……」「対応できるリソースがない……」などご不安な点がございましたら、社会保険労務士法人労務管理PLUSにお気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
最新のお知らせ・セミナー情報
-
- 2024.08.26 お知らせ・セミナー情報コラム
- 賞与とは?ボーナスの種類や仕組み、社会保険料の計算方法を解説!
-
- 2024.06.12 お知らせ・セミナー情報コラム
- 定額減税をわかりやすく解説!給与計算の担当者が押さえておくべき内容とは
-
- 2024.03.05 コラム
- 【2024年4月変更】労働条件の明示ルールとは?事前の準備が必須!
-
- 2023.09.05 お知らせ・セミナー情報コラム
- 【2023年4月~】出産に関する給付の改正内容を解説!企業としての関わり方も
-
- 2023.08.25 コラム
- 【最新版】最低賃金制度に違反していたら?罰則や特例についても解説します!