【従業員50名以上の企業必見】2022年から社会保険の適用拡大が始まることを知っていますか?
- 2021.10.26
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、2022年10月から始まる社会保険適用拡大についてお伝えします。
大企業だけでなく中小企業でも、規模に応じて順次社会保険の適用拡大がスタートします。パートタイム社員やアルバイト社員のように、労働時間が短い従業員についても社会保険への加入が段階的に義務付けられるのがポイントです。
この記事では、現在の社会保険加入に関する取り扱いから、今後の法改正によって中小企業がどのような対応を求められるのか、解説していきます。経営に影響する法改正ですので、今からしっかりと準備しておきましょう。
目次
現在の社会保険加入の適用範囲とは?
現在は、事業所の形態によって社会保険の加入が義務付けられています。
「強制適用事業所」と「任意適用事業所」
各事業所は、法律によって社会保険への加入が義務付けられている「強制適用事業所」と、加入が義務付けられておらず任意で加入できる「任意適用事業所」に分かれています。
強制適用事業所とは?
「強制適用事業所」とは、事業の規模や事業者の意思、従業員の希望などに関わらず、社会保険への加入が義務付けられている事業所のこと。従業員が1人でもいる場合には、社会保険への加入が必要になります。
従業員がいない場合でも、例えば社長の報酬が発生している場合にも当てはまります。個人事業所(個人事業主)の場合、従業員が5人以上であれば「強制適用事業所」となり、4人以下であれば社会保険への加入義務はありません。
任意適用事業所とは?
「任意適用事業所」とは、社会保険への加入義務がない事務所や、個人事業主のことを言います。具体的には、従業員数が4人以下の個人事業所(個人事業主)です。社会保険への加入は義務ではないものの、一定の条件を満たして厚生労働大臣の許可を受けることで社会保険を受けることができます。
現在の社会保険加入要件
強制適用事業所のうち、以下の条件を満たす労働者を、社会保険に加入させることが義務付けられています。
- フルタイム労働者(所定労働時間が週40時間)
- 所定労働時間がフルタイム労働者の3/4以上である労働者(多くの場合30時間以上)
現在の短時間労働者の社会保険加入要件
上記に加えて、従業員の数が常時501人以上である企業においては、以下の4つの要件を満たす短時間労働者(パート社員やアルバイト社員など)の社会保険の加入も義務付けられています。
- 【労働時間要件】所定労働時間が週20時間以上であること
- 【勤務期間要件】雇用期間が1年を超えると見込まれること
- 【賃金要件】毎月の賃金が88,000円以上であること
- 【学生除外要件】学生でないこと
対象 | 要件 |
2016年10月〜【現行】 |
2022年10月〜【改正後】 |
2024年10月〜 |
事業所 | 事業所の規模 | 常時500人超 | 常時100人超 | 常時50人超 |
短時間労働者 | 労働時間 | 週の労働時間が20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
賃金 | 月額88,000円以上 | 変更なし | 変更なし | |
勤務時間 | 継続して1年以上雇用される見込み | 継続して2ヵ月以上雇用される見込み | 継続して2ヵ月以上雇用される見込み | |
適用除外 | 学生でないこと | 変更なし | 変更なし |
2022年10月から始まる社会保険の適用拡大とはどのようなものか?
2022年10月から始まる社会保険適用拡大では、これまでと変わる点が2つあります。
①企業の規模要件が501人以上から101人以上へ
対象 | 要件 |
2016年10月〜【現行】 |
2022年10月〜【改正後】 |
2024年10月〜 |
事業所 | 事業所の規模 | 常時500人超 | 常時100人超 | 常時50人超 |
短時間労働者 | 労働時間 | 週の労働時間が20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
賃金 | 月額88,000円以上 | 変更なし | 変更なし | |
勤務時間 | 継続して1年以上雇用される見込み | 継続して2ヵ月以上雇用される見込み | 継続して2ヵ月以上雇用される見込み | |
適用除外 | 学生でないこと | 変更なし | 変更なし |
これまでの「従業員数501人以上」という企業規要件から大幅に拡大され、従業員数が101人以上の企業に、短時間労働者の社会保険加入が義務付けられます。
従業員数は、月ごとにカウントされ、直近12ヶ月のうち6ヶ月で101人を上回ると適用拡大の対象となります。従業員は、「フルタイム労働者」と、「週の所定労働時間がフルタイム労働者の3/4以上のパート・アルバイト」の合計です。
2024年10月ごろからは、従業員の数が51人〜100人の企業に対しても、短時間労働者への社会保険の加入が義務付けられます。
②時短労働者の勤務期間要件が、「1年以上」から「2ヶ月以上」へ
対象 | 要件 |
2016年10月〜【現行】 |
2022年10月〜【改正後】 |
2024年10月〜 |
事業所 | 事業所の規模 | 常時500人超 | 常時100人超 | 常時50人超 |
短時間労働者 | 労働時間 | 週の労働時間が20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
賃金 | 月額88,000円以上 | 変更なし | 変更なし | |
勤務時間 | 継続して1年以上雇用される見込み | 継続して2ヵ月以上雇用される見込み | 継続して2ヵ月以上雇用される見込み | |
適用除外 | 学生でないこと | 変更なし | 変更なし |
これまで定められていた、「1年以上」という勤務期間要件が廃止され、「2ヶ月以上の雇用が見込まれること」と改められます。
社会保険の適用拡大によって予想される影響
社会保険の加入者が増えることで、経営者が負担する保険料も当然増加します。2024年には、経営者に対する負担増額は1,590億円に上るとされています。(参考:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要)どのような影響があるのか、詳しく確認していきましょう。
企業へのメリットデメリット
まずは、企業側のメリット・デメリットを解説します。
企業側へのメリット:人材が集まりやすくなる
パートやアルバイトでも社会保険に加入できるというのは、働く側としてはメリットが多いものです。そのため、企業へ人材が集まりやすくなり、応募数の増加が期待できます。
実際に、『社保に入れるということで従業員が入社時に選んでくれた』という企業もあるようです。(引用:被用者保険の適用拡大の実施企業に対するアンケート調査結果の概要)
企業側へのデメリット:社会保険料の負担額増加
企業は、従業員の社会保険料の半分を負担しなければなりません。
厚生労働省によると、今回の社会保険適用拡大により短時間労働者が社会保険に加入した場合、1人当たり約24.5万円/年(40〜65歳の者の場合、+約1.5万円)増加すると言われています。(参考:被用者保険の適用拡大について)
しかし、実際の中小企業からは、以下のようなポジティブな意見も上がっています。
『お金では買えない信用、信頼が買えたと信じています。今では作業員にも安心、安全で作業できると喜ばれています』
『従業員が安心して働ける(将来のことも含め)ことは何より大切だと思っていたので、金額の負担は使うべきお金だと思い、無駄だとは思いませんでした』(引用:被用者保険の適用拡大の実施企業に対するアンケート調査結果の概要)
厚生労働省ホームページ、社会保険適用拡大特設サイト内の、社会保険かんたんシミュレーターで会社の負担額のシミュレーションを行えます。対象人数、40〜64歳の人数、給与月額、年間賞与を入力することで負担額がわかりますので、参考にしてください。
従業員へのメリットデメリット
続いて、従業員側のメリットデメリットを見ていきましょう。
従業員側へのメリット:社会保険加入による福利厚生の充実
厚生年金は、その半分を企業が負担しており、国民年金(基礎年金)に上乗せして年金保険料を納める年金です。会社の厚生年金に加入することで、国民保険だけに加入しているときよりも、将来受け取れる年金額が多くなります。また、障害年金、老齢年金、遺族年金についても、国民年金(基礎年金)に上乗せして支給されます。
また、会社の社会保険に加入することで、傷病手当や出産手当などの保証が充実します。傷病手当金は、病気や怪我の療養休暇中に、給与の2/3相当を受け取れるもの。出産手当金は、産休中に、給与の2/3が受け取れるものです。
『すでに年金を支給されている年配の職員から「もらうようになってわかるけど、入っておいた方がよい」という助言もあった』という声もあります。(引用:被用者保険の適用拡大の実施企業に対するアンケート調査結果の概要)
従業員側へのデメリット:扶養の範囲内での勤務に影響がある
これまで、配偶者の扶養の範囲内で働いていた短時間労働者は、年間の収入が130万円を超えないよう働くケースが多く見られました。これは、年収が130万円を超えてしまうと、支払う保険料が発生しても、受けられる保険内容に変化がなかったためです。
2022年10月の社会保険適用拡大後は、条件を満たすことで、厚生年金や健康保険に加入できます。会社の負担半分、自己負担半分で、支払う保険料は発生するものの、将来の年金や医療保障などが充実します。社会保険適用拡大によって、扶養基準を前提とした働き方以外の選択肢も増えるでしょう。
実際の現場からは、『喜ぶ人もいましたし、辞めていく人もいました』という声もあるように、従業員一人一人でも受け止め方が異なります。(引用:被用者保険の適用拡大の実施企業に対するアンケート調査結果の概要)
社会保険の適用拡大に向けての準備
社会保険適用拡大に向けて、以下の準備を進めておきましょう。
加入対象となる従業員の把握・シミュレーション
まずは、
・いつから対応が必要になるのか?
・短時間労働者は何名いるのか?
・加入させた場合、企業側の負担額はいくらになるのか?
上記3つを確認し、どのような準備が必要なのか整理しておきましょう。
社内の従業員への周知
社会保険の適用拡大は、従業員にも大きな影響を及ぼします。新たに加入対象となる従業員から「配偶者控除内で働きたいので社会保険へ加入したくありません」と申し出がある場合もあります。
働き方を見直す必要がありますので、しっかりと説明することが大切です。要件に該当する従業員は希望に関わらず加入が義務付けられるためです。また、この改正を機に、正社員や契約社員になるなどの選択肢も考えられます。従業員が今後について考える時間をもてるよう、なるべく早く周知する方が親切です。
人員配置の見直しと被保険者資格取得届の提出
会社の負担額や、従業員の希望などを踏まえた上で、人員配置の見直しを行わなければならない企業もあると思います。新しく社会保険加入の対象となる従業員は、被保険者資格取得届の提出が必要です。
加入期間や手続きの方法については、専門家にご相談されることをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理でも無料相談を実施していますので、気になる経営者様はご相談ください。
活用できる助成金・補助金のリサーチ
新制度の義務化前に、企業が自主的に社会保険適用の範囲を拡大した場合に、キャリアアップ助成金(令和3年4月1日時点)を利用できる可能性があります。自社で活用できないか、事前によく調べておきましょう。
まとめ
いよいよ始まる社会保険適用拡大。制度の改正によって、パートやアルバイトなどの短時間労働者が安心して働ける環境を作りやすくなります。改正内容を知らないまま2022年10月を迎えてしまうことのないように、先手を打って準備を進めていきましょう。
今回の法改正では、企業の負担が大きくなることが予想されます。社会保険労務士法人中込労務管理では、企業の状況ごとに対応策を提案しておりますので、お気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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