2024年開始の「医師の働き方改革」!肝となる医師の時間外労働制限の要点や準備しておくべきことを解説
- 2022.12.26 お知らせ・セミナー情報コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。今回は、「医師の働き方改革」の中でも特に重要な、医師の時間外労働制限に焦点を当てて解説していきます。医療現場が抱える課題や、2024年の施行までに準備しておくべきことも合わせてお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
目次
「医師の働き方改革」とは?
医師の働き方改革とは、良質で適切な医療を提供するために、医師の労働環境の改善を目指す法改正のことです。
一般企業においては、2019年に「働き方改革関連法」によって、長時間労働の改善などが行われています。しかし医師の働き方改革に関しては、業務の特殊性を考えて、長期的な見通しが必要と判断されました。働き方改革関連法の施行から5年の猶予期間が設定されて、2024年の施行へと先延ばしされたのです。
公布は2021年5月28日、施行日は2024年4月1日です。
「医師の働き方改革」が進められる背景
医師の働き方改革が推進される背景としては、医師の長時間労働や医師不足の問題、医療介護ニーズの増大などがあります。
医師の長時間労働
1週間の労働時間が60時間を超える医師(歯科医師・獣医師を除く)は、41.8%と、他の業種と比べても最も高い割合となっています。
【参考:厚生労働省「医師の勤務形態等について」】
時間外労働時間が年間1860時間を超える医師がいる病院は、平成28年度の調査で、大学病院で88%、救急救命機能を有する病院で84%、許可病床400床以上の病院で71%と、非常に高い割合でした。令和元年の調査では、大学病院で46%、救急救命機能を有する病院で49%、許可病床400床以上の病院で39%まで大幅に減少したものの、引き続き改善は必要です。
【参考:厚生労働省「医師の働き方改革について」】
医療介護ニーズの増加と医師不足
日本では、少子高齢化が深刻で、2025年には団塊の世代が75歳を迎えます。高齢者の増加により医療介護のニーズがより高まることで、医師一人一人の負担がより大きくなることが懸念されているのです。
「医師の働き方改革」の肝となる医師の時間外労働制限
「医師の働き方改革」において、中心となるのが「時間外労働の上限制限」です。
36協定によって、時間外労働の制限は月に45時間・年間360時間と定められていましたが、これまで医師は適用外でした。しかし、2024年4月から始まる医師の働き方改革によって、時間外労働の上限に制限が設けられます。
原則として、時間外労働の上限は月100時間未満・年間960時間以内に規制されます。一部、都道府県の指定を受けてB水準・C水準の適用となる機関においては、上限規制が緩和されます。
・A水準:月に100時間未満・年間で960時間以内
一般の勤務医
・B水準:月に100時間未満・年間で1,860時間以内
特定地域医療提供機関・連携型特定地域医療提供機関
(地域の医療確保のため、通算で長時間の労働が必要となる医師)
・C水準:月に100時間未満・年間で1,860時間以内
特定高度技能研修機関・技能向上集中研修機関
(特定の高度な技能を習得するために長時間の修練が必要な医師や、経験を積んだり技術を習得したりするために長時間の修練が必要な研修医、専攻医)
各区分で上限規制が異なる理由
年間1860時間を超えて時間外労働を行う医師も多い中、水準Aの「月100時間未満・年間960時間以内」を全ての医師に適用した場合、医療現場の混乱を招きかねません。医療が機能しない、労働時間の上限規制が守られないといった問題も多発すると考えられます。そのため、特定労務管理対象機関はB水準・C水準として緩和措置がとられ、上限規制が「月100時間未満・年間1,860時間以内」と定められました。
B水準・C水準の適用を受ける方法
特定労務管理対象機関の指定を受けるためには、都道府県に、医師の労働時間短縮のための計画『医師労働時間短縮計画』の案を提出する必要があります。厚生労働省から出されている、医師労働時間短縮計画作成ガイドラインを元に作成を進めましょう。
特定労務管理対象機関の指定を受けた後は、医師労働時間短縮計画の内容通り進めていきましょう。一度作成した計画通りに進めるだけでなく、医師労働時間短縮計画は定期的に見直しの検討を行う必要もあります。さらに、B水準・C水準の適用となる医療機関であっても、将来的には労働時間の短縮を求められることが予想されますので、段階的な準備が必要です。
それぞれのケースに応じて、対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人中込労務管理では、各機関の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則内容
2024年4月からは、制度に違反した場合、罰則が与えられますので覚えておきましょう。時間外労働の上限規制に違反すると、使用者に対して、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。
医師の労働時間管理に関する課題
医師の働き方改革を進めるにあたっては、医師たちの労働時間を客観的に把握することが大切です。しかし、それには多くの課題があるのも実状です。
・勤務形態が複雑なので手書きで勤務時間を管理している
・労働時間は医師の自己申告のみで客観的な記録がないケースもある
・労働時間と自己研鑽の時間を区別しにくい
・呼び出し当番の場合には、呼び出し回数・時間などが管理できない
・兼業や副業での勤務を把握しにくい
・患者が優先されるので、長時間労働になりやすい
ここでは、代表的な3つの課題について詳しく解説します。
勤務形態が複雑
医療現場における勤務形態は、一般企業よりも複雑で管理しにくく、未だに手書きで記録されていたり、医師による自己申告に頼っていたりします。病院で行った医師の労働時間の把握方法の調査結果では、「出勤簿への押印に基づいて把握(38.6%)」が一番多く、次いで「タイムカード等の客観的な記録をもとに確認(32.8%)」という結果が出ています。
【参考:厚生労働省「我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況」(p151)】
労働時間と自己研鑽の時間を区別しにくい
医師は、一人一人の患者に対して最善を尽くすために、診断や治療法の追求、その活用などについて日々研鑽をしています。医師によって日々行われる研鑽によって、医療水準が維持・向上されていると言っても過言ではなく、なくてはならないものです。研鑽と労働時間を区別する基準は、「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について(厚生労働省)」を参考にしてください。
呼び出し当番の扱いが難しい
休日の呼び出しについて、いくつかの判例があるものの、未だにケースバイケース(個別具体的判断)に委ねられているのが現状です。基本的に、医師が使用者の指揮命令によって、時間的・場所的に拘束を受けている場合には、労働時間に当たるとされます。この解釈を元にすると、呼び出しに備えて自宅待機している時間は、遠出や旅行ができない一定の不自由がある状態にもかかわらず、労働時間に当たらないと判断されてしまうのです。(病院内に待機させられている状態であれば、実働はなくても労働時間に含まれます。)
呼び出しがあった場合、呼び出しから病院に着くまでの時間は労働時間ではないと判断されることが多いようです。しかし、呼び出し時から労働時間にカウントされる場合もあり、判断が難しいのが実状です。
呼び出し当番については、いつ呼び出されるかわからない状態で医師を一定の条件下に待機することに対して、自宅待機手当や、呼び出し手当などを支払うのが妥当であるという考えが一般的です。
「医師の働き方改革」に向けて準備しておくこと
2024年の制度の施行に向けて、今から少しずつ準備をしていくことが大切です。「医師の働き方改革」をスムーズに進めるために準備しておくべきポイントを解説しますので、順次取り組み始めましょう。
医師の労働時間を適切に管理できるシステムの導入
アナログでの労働時間管理では、記入時や集計の際にミスが起きやすくなります。正確な労働時間を把握するには、システム導入の検討が必要です。自己申告での勤怠記録は容易に改ざんできるため、残業隠蔽の温床になり得ます。
しかし、医師に正確な勤務時間を打刻してもらうことが難しいと感じている現場は多いもの。タイムカード、ICカード、スマートフォン、ビーコンなど、様々な打刻方法がありますので、自院に合った方法を検討して取り入れましょう。常に月や年間の労働時間をタイムリーに把握できるツールを導入することが、医師の働き方改革への第一歩です。
36協定の確認
医師の労働時間を正確に把握する準備が整ったら、次は36協定を締結しているかどうかと、内容を確認します。36協定の対象となっていない医師に対しては、36協定の周知も行いましょう。
分業体制を適切に整える
病院における調査では、医師が勤務時間終了後に退勤できない理由や勤務時間より早く出勤する理由は、以下の通りでした。
・救急や入院患者の緊急対応のため(71.3%)
・手術や外来の診療時間の延長のため(58.2%)
・患者(家 族)への説明対応のため(54.3%)
【参考:厚生労働省「我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況」(p155)】
診断書の作成やカルテなどの書類作成、患者や家族への説明対応などを、医師以外の職種に分担する動きも出ています。看護師、薬剤師をはじめとする職種とタスクを分担したり、ツールを導入したりして、医師の負担を軽減していくことが大切です。
女性医師が働き続けられる体勢づくり
女性が医師として働き続けられる仕組みづくりも大切です。医師不足に歯止めをかけるためにも、妊娠や出産、育児などのライフイベントによって、女性医師がキャリアを諦めなくて済むような働き方を実現していかなければなりません。
医師の時間外労働制限に関するご相談は社会保険労務士まで
2024年から施行される医師の働き方改革では、医師の時間外労働制限が大きな肝となります。課題が多い医療現場においては、計画的に準備を進めることが大切です。
今回解説した「医師の時間外労働制限」について少しでも難しいと感じられた場合には、専門家へ相談することをおすすめします。社会保険労務士法人中込労務管理では、医師の働き方改革に強い専門家が対応させていただきます。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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