時間単位の有給休暇を導入するには?メリット・デメリットとポイントを解説
- 2022.07.27 コラム
山梨を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人中込労務管理です。
有給休暇のイメージは、1日単位での取得、という方がほとんどではないでしょうか。
最近では、働き方に合わせて時間単位で有給休暇をとれるような制度を設ける企業も増えてきました。
しかし、時間単位での有給休暇制度を導入するには、少々内部整備も必要です。
就業規則はどうするのか?実際の管理はどうなる?など疑問や不安を解決するとともに、メリットデ・メリットを解説します。
目次
時間単位の有給休暇とは?
2010年に労働基準法改正によって導入され、これまでは1日単位、半日単位で取得するものだった有給休暇を、最低1時間からの時間単位で取得できるようになりました。
これにより、有給休暇をより使いやすくし、休みをとりやすくすることでワークライフバランスの向上させることが狙いです。
例えば、お子さんの送り迎えがあるので、1日1時間だけ有給休暇を取得する、といったようなことも可能になりますので、仕事と家庭のバランスがとりやすくなります。
しかし、時間単位で有給休暇を導入するためには、企業側で就業規則への規定や労働協定の締結など、必要な手続きをしなければなりません。
労働基準法39条
時間単位の有給休暇を導入する前に、根拠となる法律を確認しておきましょう。
該当する法律は、労働基準法39条に定められている「年次有給休暇」の項目になります。
以下、原文を該当箇所のみ抜粋しています。
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
④ 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。
一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
三 その他厚生労働省令で定める事項
労働基準法39条で定められていることから、時間単位の有給休暇を導入する場合には企業側で就業規則への規定や労働協定の締結など、必要な手続きをしなければならない、というわけです。
時間単位の有給休暇を取得するメリット
少し手間のかかる時間単位の有給休暇導入ですが、当然ながらメリットもあります。
次に、企業側から見たメリット、また従業員側から見たメリットをお伝えしていきます。
比較も必要になりますので、両方から見たデメリットも記載していきます。
企業側から見たメリット
企業側から時間単位の有給休暇について、どのようなメリットがあるのでしょうか?
いくつか箇条書きであげてみたいと思います。
・1日単位での有給になるより仕事に穴があきにくい
・企業の社会的価値があがる
・有給休暇の消化率があがる
・福利厚生が手厚くなるので、求人などで有利になる
など、たくさんのメリットがあげられます。
企業としても一人の従業員が使う有給休暇の調整として、何人かの従業員の業務時間を調整することもあると思いますが、時間単位の有給であればそれが少なくて済む、というのは大きなメリットといえます。
従業員のための制度でもありますので、従業員に優しい企業という印象にもなり、結果企業の社会的価値があがるなどの効果もあるといえます。
従業員側から見たメリット
企業側からみたメリットは記載の通りですが、従業員から見るとどう思われるのでしょうか?
まずはメリットと感じる場合をご紹介します。
・有給休暇がとりやすくなる
・個人的な事情での休みに対しても周囲に気を遣わずに済む
・中抜けしやすくなる
通院やお子さんの送り迎えなど、家庭の事情や個人の都合を抱える従業員も多いでしょう。
1日や半日単位の有給であれば、その日一日分の仕事の調整をしなければなりません。
そのために仕事を前倒ししたり、同僚に仕事を頼んだりと通常以上の労力がかかる場合もあります。その点、1時間~2時間程度の休みであれば調整にかける労力も減らすことができます。
時間単位の有給休暇を取得するデメリット
時間単位の有給休暇についてメリットをご紹介しましたが、次にデメリットも併せてご紹介していきます。
両方を知ることで、導入する必要性があるかどうかを見極めてください。
企業側から見たデメリット
企業側から時間単位の有給休暇について、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
こちらもメリット同様箇条書きでご紹介します。
・導入までの手続きが必要
・休みの管理が煩雑になる
・時季変更権が使いにくい
そもそも就業規則や労使協定などの手続きがあるため、導入するまでに労力を要することになります。また、管理職や管理部門としては従業員の休みの管理が複雑化し、管理がしにくいというデメリットもあげられます。
また、従業員が有給休暇を使った際に事業運営の妨げになる場合、企業は時季変更権の使用が認められていますが、時間単位の有給休暇の場合は1日半日単位の有給と比較して業務に与える影響が少ないため、こちらが認められにくいという特徴もあります。
従業員側から見たデメリット
次に、時間単位の有給休暇について、従業員側から見たデメリットをご紹介します。
・使用した有給休暇、残っている有給休暇がどのくらいあるか管理が煩雑
時間単位になると、何時間有給休暇を使ったかを従業員自身でも管理していく必要があります。日数であればわかりやすいのですが、時間単位になると記録をしていない場合は忘れてしまい、残っている有給休暇がわからない、というケースも出てきます。
複雑な時間単位有給の制度設計は社労士への相談も要検討
時間単位の有給休暇制度は、従業員側にとって働きやすい環境を整備できる制度である一方で、導入までのハードルは相応に高いものです。導入までに必要な諸規定の整備から時間単位の有給管理まで社会保険労務士に相談するケースも多くございます。
社会保険労務士法人中込労務管理でもサポート出来ますので、お気軽にお問い合わせください。
時間単位の有給休暇を導入するために必要な対応
メリット・デメリットの情報を整理した上で、時間単位の有給休暇制度を導入すると決めた場合、必要な対応、手続きには何があるのでしょうか?
具体的な対応方法についてお伝えしていきます。
対応1:労使協定の締結をする
前述した労働基準法にも記載のとおり、時間単位の有給休暇を導入する場合、事前に就業規則を変更する必要があります。
そしてその後、労使協定を締結します。
労使協定で定める内容など、詳細につきましては次にご説明いたします。
なお、労働基準監督署への労使協定の届出は不要になります。
労使協定で定める事項
労使協定で定める事項は以下の4点になります。
①時間単位有給休暇の対象者の範囲:対象となる従業員の範囲を定めます。
②時間単位有給休暇の日数:1年5日以内の範囲で定めます。
③時間単位有給休暇1日分の時間数:1日分の年次有給休暇が何時間分に相当するかを定めます。
④1時間以外の時間を単位として与える場合の時間数:2時間単位など1日の所定労働時間を上回らない整数の時間を単位として定めます。
労使協定の条文例
では次に、労使協定を締結する場合の具体的な条文例を見ていきましょう。
下記に例を記載しますので、条文作成の際の参考にしてみてください。
以下は前述した労使協定で定める事項を全て網羅した内容になっています。
【労使協定の条文例】
年次有給休暇の時間単位での付与に関する協定書(例)
○○株式会社代表取締役 ○○○○と○○株式会社従業員代表○○○○とは、標記に関して次のとおり協定する。
(対象者)
第1条 年次有給休暇を時間単位で取得できるものは、すべての労働者を対象とする。
(日数の上限)
第2条 年次有給休暇を時間単位で取得することができる日数は5日以内とする。
(1日分の年次有給休暇に相当する時間単位年休)
第3条 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、1日の年次有給休暇に相当する時間数を8時間とする。
(取得単位)
第4条 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、2時間単位で取得するものとする。
○○○○年○月○日
○○株式会社 代表取締役 ○○○○
○○株式会社 従業員代表 ○○○○
対応2:就業規則上の定めを設定する
常時10人以上の従業員を使用する企業で時間単位の有給休暇を導入する場合、就業規則に年次有給休暇の時間単位での付与について定めることが必要になります。
就業規則の変更後は、就業規則変更に関する従業員代表の意見書を添付して、管轄の労働基準監督署への届出を行う必要があります。
また、変更後の就業規則の内容を、従業員に対して周知することも行わなければなりません。
時間単位の有給休暇を取得するために必要な対応
まずは労使協定の締結、常時10人以上の従業員がいるのであれば就業規則上の定めの設定が必要になります。
導入後は実際の労働時間や有給休暇の使用状況などを管理していかなければなりません。
時間単位の有給休暇は原則従業員が自由に取得できる
有給休暇は原則従業員の自由に取得できます。
時間単位の有給休暇の取得であっても同様になります。
有給休暇を取得する理由を企業に説明する必要もありませんし、取得する時間数も従業員が自由に決めることができます。
また、時間単位の有給休暇には年間5日という取得上限時間数がありますが、必ずしも上限まで時間単位で取得する必要はありません。
たとえば年間5日(1日労働時間8時間)40時間分に相当する時間単位の有給休暇の取得が認められている場合、仮に16時間分の有給休暇を時間単位で取得し、残りを半日、1日単位で取得することも可能です。
従業員が自由に取得できるが故に、企業側としては取得状況や残日数(時間)を把握できるよう体制を整えておく必要があるといえます。
時間単位の有給休暇の運用FAQ
時間単位の有給休暇については、労使協定の締結や就業規則の設定以上に、実際の管理に関する疑問が多くあるかと思います。
よくある質問をFAQ形式にしましたのでぜひ参考にしてみてください。
運用状況が複雑な場合など、社会保険労務士法人中込労務管理でも企業の状況によってご提案をさせていただいておりますので、ぜひご相談ください。
賃金の支払いはどうなる?
従業員が時間単位の有給休暇を取得した場合、企業は賃金の支払いが必要になります。
計算方法は3つあり、「平均賃金」「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「標準報酬日額」のいずれかで計算します。
時間単位の有給休暇の1時間単位の賃金の計算方法は、上記いずれかの方法からその日の所定労働時間数で割って計算します。
計算方法をいずれかにするかは企業の任意となりますが、どの計算方法を用いるかは就業規則で定める必要があります。
なお、「標準報酬日額」で計算する場合には、労使協定の締結も必要です。
時間単位の有給の繰越は可能か?
時間単位の有給休暇は年5日を上限に付与されます。
有給休暇の残日数・時間数は、次年度に繰り越しは可能ですが、次年度は繰越分も含めて5日の範囲内となります。
時間単位の有給に取得制限はあるのか?
1日に取得できる時間単位の有給休暇には制限はありません。
なぜなら、厚生労働省より「1日で取得できる時間単位の有給休暇の時間数を制限すること等は認められない」と定められているためです。
したがって、従業員が1日に複数回時間単位の有給休暇を請求した場合には、それを拒否することはできません。
余談となりますが、1時間未満の分単位での有給休暇としての使用はできません。
遅刻・早退と振替可能か?
従業員が早退・遅刻した際、時間単位の有給休暇に振り替えられるかどうかは、企業によって異なるのが現状です。
急病や災害などでの早退・遅刻であれば振替えを認めているケースもあるようです。
ここで注意をしなければならないのは、有給は原則として従業員からの請求により付与するものであるため、企業側から有給に振り替えることはできません。
この場合、従業員が時間単位の有給休暇の事後振り替えをしたいと申し出、企業がそれに同意した場合に振替ができるようになります。
フレックスタイム制の場合の運用はどうなる?
そもそもが労働時間を従業員の裁量で判断しているフレックスタイム制の場合、時間単位の有給休暇の運用はどうなるのでしょうか?
フレックスタイム制には、必ず勤務しなければならない「コアタイム」と、従業員が自由に設定できる勤務時間帯の「フレキシブルタイム」に分けるのが一般的です。
コアタイム、フレキシブルタイム、いずれの時間帯で時間単位の有給休暇を適応するかは企業に判断を任されているというのが結論です。
多くの企業が行っているのは「コアタイムにのみ、時間単位の有給休暇を適用する」場合が多いようです。
また、フレックスタイム制の場合、1日の所定労働時間数が決まっていないので、1日分の有給休暇が何時間分に相当するのかを予め決める必要があります。清算期間における1日平均所定労働時間を基準に設定する必要があります。
時間単位の有給休暇の管理について
時間単位の有給休暇を導入する場合、「どのくらい使ったか」「どのくらい残っているか」の管理が従来より複雑である点が難しいといえます。
有給の管理がしっかりできていないと、「年5日の有給取得義務を守れているかどうかわからない」「次年度への繰越日数を誤ってしまう」ことにも繋がります。
正しく有給を管理するためには、一定のフォーマット等を作成し管理する必要があります。
管理が複雑な時間単位の有給休暇は専門家と二人三脚で進めましょう
時間単位の有給休暇、メリットも大きい反面、管理がしにくいというデメリットもあり、導入にはしっかりとした体制、仕組み作りが重要といえます。
有給休暇とはいえ、労働時間に関わってくる分、企業側でも万全な体制で望む必要があります。
企業の体質によってはより複雑になってくる場合もあります。
そんな時は専門家と二人三脚で進めていくのがベスト。
社会保険労務士法人中込労務管理でも、時間単位の有給休暇、労働時間に強い専門家が対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
人事と労務管理の専門家として、これまで各業種の企業さまへさまざまなサポートを提供してまいりました。顧問企業がお困りの際に「受け身」でご支援を行うだけではなく、こちらから「積極的に改善提案を行うコンサルティング業務」をその特色としております。人事労務にお悩みのある企業さまはもちろんのこと、社内環境の改善を目指したい方、また問題点が漠然としていてご自身でもはっきり把握されていない段階であっても、お気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。
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